【アロマ】ベチバー精油
-植物の特徴・期待される効果効能とは?

【アロマ】ベチバー精油<br />-植物の特徴・期待される効果効能とは?

心を落ち着ける「静寂のオイル」とも

好き嫌いが分かれる、湿った土の中のような独特の香りを持つベチバー。イネ科植物の根を原料とした精油で、時間経過によって香りが熟成していく性質があります。香料としての需要も高いですし、メンタルサポート精油としても使われています。抗酸化や美白など皮膚に対するメリットも期待されている精油です。

ベチバー(Vetiver)のイメージ画像

ベチバーとは

ベチバーの特徴・歴史

スモーキーでどことなく甘い、独特な芳香のベチバー。人によっては「カビっぽい」と称されることもあり、墨汁に近いと称されるパチュリーと共に好き嫌いが分かれる芳香の代表格でもあります。“温かみのある香り”と感じるか“じめっとした印象”に捉えるか、人によって香りの感じ方は様々。アロマテラピーの教本などにもほぼ登場するメジャーな精油の一つですが、所持しているか・利用しているかは人により極端なのではないでしょうか。

ベチバーは香料としては知名度があるものの、ラベンダーなどのように植物としての印象はあまりありません。香料“ベチバー”の原料植物は学名Vetiveria zizanioidesというイネ科の多年草の根の部分です。呼び名として使われている“ベチバー(Vetiver)”という言葉も、語源はインドのタミル語で“掘り起こした根”もしくは“まさかりで刈る”を意味するVetiverrとされていますよ。

ちなみに、同じくイネ科に分類される香料植物にはレモングラスシトロネラパルマローザなどがあります。植物としては近いものの、これらは葉を原料部位としていることもあって芳香は全く別物。ベチバーの場合は根に強烈な香りがありますが、葉の部分にはほとんど香りがありません。

そんなベチバーはインドやジャワなどの熱帯地方が原産で、原産地の一つに数えられるインドでは“香り高い根”を意味する「Khus(クス/カス)」という呼び名で古くから利用されてきました。余談ですがベチバーの和名もカスカスガヤもしくはクスクスガヤと、インドでの呼び名に由来しています。古代インドでは宗教的な儀式に使う薫香として重宝されていたと伝えられていますし、伝統医療であるアーユルヴェーダでも治療に取り入れられてきました。

また、古くはベチバーの根や葉で簾を作り涼をとったり、根の粉末をサシェにして防虫剤として活用していたそうです。ジャワやロシアでは衣服類の虫除けに用いられていたとも伝えられています。現代では香料原料として以外に、広く根を張ることから土壌改善や土砂崩れ予防に、葉は家畜用飼料としても使われています。近年は土壌を安定させて水分を蓄えるという性質から環境問題対策、汚染された土壌の回復にも注目されているようです[1]。

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ベチバーの芳香と持続性

私達日本人のように馴染みのない人にとっては、ベチバーの土臭さと燻したようなスモーキーさのある独特で濃厚な香りを苦手に感じる事も珍しくありません。しかし独特な香りは中毒性があり「一度ハマるとクセになる」「ハマる人はとことんハマる」という評価も。

また、ベチバーは単体だと主張が強いですが、ブレンドに利用すると深みのあるウッディー感を出してくれると印象がガラリと変わる存在でもあります。シャネル“No.5”や“ムスリーヌ・デ・ザンド”など有名香水のベースノートとしても知られていますね。そのほか石鹸・化粧品の原料としても用いられています。最初はアクセント・奥行きを出すのに隠し味感覚で使うと受け入れやすいように感じます。

ベチバーはサンダルウッドフランキンセンスなどと同様に時間の経過に伴い香りが良くなっていくという珍しい性質を持った精油でもあります。買ってみて苦手だった…という場合はしばらく寝かせておくと馴染みやすい香りになっていく可能性もありますよ。

ベチバーの根が精油にできる芳香を持つまでには植えられてから12〜24ヶ月かかり、産地・土壌によって香りにも差が生じます。蒸留してからも香りが変化していくベチバーは「時間や場所を感じさせる」香料であるとも言えそうです。精油が出来上がるまでのプロセス、使用する方の手に渡ってからの時間によって起こる香りの変化に思いを馳せて香らせると「神秘的な香り」という評価にも納得がいくのではないでしょうか。

香料原料データ

通称
ベチバー(Vetiver)
別名
カスカスガヤ、クスクスガヤ、ベチベル(Vétyver)、Khus(クス/カス)、akar wangi(アカール・ワンギ)、usar(ウサル)など
学名
Vetiveria zizanioides
(syn.Chrysopogon zizanioides)
科名/種類
イネ科オキナワミチシバ属/多年草
主産地
インド、タヒチ、ハイチ、マダガスカル、レユニオン島、ブラジル、中国など
抽出部位
抽出方法
水蒸気蒸留法
琥珀色~濃い茶色
粘性
非常に高い
ノート
ベースノート
香り度合い
強い
精油成分
クシモール、ベチセリネロール、α-ベチボン、β-ベチボン、β-ベチスピレン、ベチベロン、ベチベロールなど
おすすめ
芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア・防虫

木や土に通じる、深く濃厚で甘いスモーキーさを含む香り

ベチバー精油に期待される働き・効能

精神面への作用と効果

ベチバーの精油は原産地であるインドやスリランカでは「安静のオイル」「静寂のオイル」とも呼ばれている存在であり、鎮静効果によって深いリラックス状態を作り出すサポートに適した精油と考えられています。アロマテラピーなどの自然療法でもベチパー精油の香りは鎮静作用を持つとして、気持ちを落ち着ける・緊張状態からリラックスへの切り替えの手助けとして活用されています。ストレス下や緊張下における神経過敏状態(ピリピリ感やイライラ)、感情コントロールが上手くできず情緒不安定気味の際のサポートにも期待できそうですね。

ちなみに、ベチバー精油の組成については様々な研究機関によるGC-MS分析が行われており、微量成分を含むと約110種類の成分が含まれていることも報告されています。原産地によっても含有成分比が異なることも認められていますが、ベチバー精油の特徴成分と言えるのはクシモール(khusimol)やβ-ベチスピレン(β-vetispirene)、ベチボン類などのセスキテルペングループが挙げられています[2]。明確な作用秩序や効果は分かっていませんが、2015年『Natural Product Research』にはベチバー精油を吸引によってラットに抗不安作用が見られたことも報告されています[3]。この実験では抗不安薬・催眠鎮静薬として用いられる“ジアゼパム”と同様の効果が見られたことから、ベチバーの精油は脳の神経に作用する可能性が示唆されていますよ。

ベチバーの作用についてはまだ確証段階ではありませんが、伝統的効能を後押しするような発表があったことも事実。民間医療の中での使用歴とジアゼパム様作用が見られたという研究から、ベチパー精油の芳香は穏やかな鎮静効果を持ち様々なストレスによる神経系の興奮を鎮める、神経が昂ぶって寝付けない時の安眠対策などに期待されています。スピリチュアルな方面では“グラウディング”効果に優れているという見解もあり、等身大の自分を認識し地に足をつけて前進したい時に使われることもあるようです。感受性が豊かで他人の言動に傷つきやすい方や、完璧主義で常に緊張状態の方・外向的過ぎて浮ついてしまう方のサポートにも良いかもしれませんね。

肉体面への作用と効果

自然療法の中でベチバーの精油は自然な強壮剤としても用いられています。これはストレスを軽減することで内臓機能や代謝・免疫システムを正常に整えることに繋がると考えられることに加え、血液循環を促す働きも期待されているため[4]。ベチバー精油は血行促進作用が期待できる精油として、血行不良による冷え性・末端冷え性や肩こりなどの軽減、疲労回復や筋肉痛軽減のサポートにも用いられています。また、血行不良やそれによる冷えの緩和は神経痛や関節痛・リウマチなどの痛み緩和にも繋がること、ベチベロンなどの成分には抗炎症作用が示唆されている=抗炎症作用によってより直接的な鎮痛効果が期待できることから、循環器系や神経系に関わる様々な痛みの緩和に取り入れられることもあります。

そのほかにベチバーは消化機能の向上・消化促進に役立つという説もあり、一部の自然療法では胃腸機能の低下による食欲不振や消化不良、体重の減少がある際にも用いられています。ただし、こうしたベチバーの肉体面に対する働きかけについてはエビデンスと言えるほどの研究報告はなく、伝統医療もしくは民間療法上での効能から囁かれている部分が大きいようです。消化器は神経系の影響を大きく受ける部位ですからストレス軽減からもサポートに繋がる可能性はありますが、何らかの疾患がある場合には医療機関で適切な診断と治療を受けるようにしましょう。疾患があるわけではなくストレスによって一時的に起こっている可能性が高い不調、体のだるさ・めまい・疲労感・胃腸機能低下などであればセルフケアの一つとして試してみると良いかもしれません。

免疫サポート・感染症予防にも

ベチバーオイルは免疫機能の強壮剤としても期待されています[4]。特に精神・神経系への働きかけから、ストレスによって引き起こされる免疫力低下対策に良いという説もあります。こちらも信憑性の高い研究報告があるというのではなく自然療法上の効能と言える部分が大きいですが、ベチバー精油には抗菌・抗ウィルス作用があることも報告されていますからデュフューザーで拡散することで空気浄化剤として役立ってくれる可能性もあるでしょう。ベチボン類には去痰・粘液溶解作用が期待されているため、痰や鼻水など呼吸器系の不快感軽減に利用する方もいらっしゃいます。

催淫特性、女性の体への働きかけについて

ベチバーは催淫特性を持つ精油の一つにも数えられている存在。2010年『Hormones and Behavior』にはストレス時にコルチゾールが上昇するとテストステロン分泌も高まることが掲載され、ストレス状態が続くとテストステロンが枯渇する=性的欲求や昂りを感じにくくなるという説が展開されました[4]。このためベチバー精油など鎮静作用を持つ芳香を活用してストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を抑えることでホルモンバランスを安定させ、ストレスに起因する性的障害の改善に役立つのではないかと期待されています。

加えて、ベチバー精油は通経作用=月経促進作用を持つ精油に数えられる事もあります。通経作用を発揮する成分・作用秩序などは分かっておらず効果も認められたものではありませんが、男性機能と同じくストレスを軽減することで自律神経・女性ホルモンの分泌バランスを整えてくれる可能性もあります。気持ちを落ち着けてリラックスさせる働きが期待できる精油でもありますから、PMS(月経前症候群)や生理中・更年期障害による心身の不快感の緩和に取り入れてみても良いでしょう。

その他に期待される作用

肌への働きかけ

ベチバーの精油はスキンケア用としても利用されており、皮膚に対しての有用性についても研究が行われています。伝統的には抗炎症作用と殺菌・消毒作用を持つ精油としてニキビケアや皮膚炎症の軽減、虫刺されなどのかゆみ対策に使用されてきました。そのほかに皮膚の再生促進作用がある・皮脂分泌調整作用が期待できるという見解もあり、ニキビ跡やストレッチマーク(肉割れ線や妊娠線)の軽減、脂性肌や乾燥肌ケアなどに良いと紹介している方もいらっしゃいます。精神面への働きかけとと合わせて、ストレス性のニキビや肌荒れにも役立ってくれそうですね。

また、近年は優れた抗酸化作用を持つことが認められたことで、お肌のアンチエイジング・エイジングケアにも取り入れられています。加えて2014年『The Scientific World Journal』に掲載された台湾・静宜大学の論文では、Vetiveria zizanioides(ベチバー)の精油が脂質過酸化に対して強力な抗酸化活性を示し、チロシナーゼ発現を抑制することでメラニン産生を著しく減少させたことも紹介されていますよ[5]。まだ研究途中な段階ではありますが、同研究では将来の美白成分としての可能性も示唆されています。こうした効果は承認されたものではありませんが、肌に対して様々なメリットが期待されていることから化粧品類などにもベチバー精油は使用されています。

防虫用にも

産地であるインドでは伝統的に虫除けと日除けを兼ねてベチバーの根を乾燥させたものを吊り下げる・防虫マットにするなど、ベチバーを虫除けとして利用してきた歴史があります。ロシアなどでも一時期は毛皮のコートなどの虫食い対策としてベチバーのオイルが使われていたそう。現在でも精油は昆虫忌避作用を持つことが報告されており、天然成分として虫除けスプレーなどに配合されています。自分で精油を希釈したり、他のオイルとブレンドすることで芳香剤を兼ねた虫除けスプレー作りなどにも役立ってくれるでしょう。ルイジアナ州立大学農業センターの研究ではベチバーオイルはシロアリ対策として役立つことが示されていますし、蚊の幼虫に対しての忌避作用からデング熱などの拡散防止にも注目されています[4]。

ベチバーが利用されるシーンまとめ

【精神面】

  • ストレス・精神的疲労感に
  • 緊張・興奮・不安・不眠
  • 気持ちの落ち込みに
  • イライラ・情緒不安定
  • 自己嫌悪に苛まれている時に
  • 落ち着きがないと感じる
  • 自分を見つめ直したい

【肉体面】

  • ストレス性の不調に
  • 血行不良・筋肉痛の軽減
  • 肩こり・神経痛・関節炎に
  • 疲労・だるさ・倦怠感に
  • 免疫力向上・風邪予防に
  • PMS・更年期障害の諸症状に
  • 美肌作りのサポートに

ベチバーの利用と注意点について

相性の良い香り

ベチバーは香りが強く保留性も高いため使用濃度には注意が必要な存在。ブレンド時も少量ずつ加えるようにすると失敗しにくいででしょう。

香りとしてはフローラル系・バルサム系と比較的相性が良いとされており、独特の香りが苦手という方ははスッキリとしたハーブ系と合わせると軽めな印象になります。柑橘系精油とも相性がよく、保留性の高いベチパーを加えることで香りが抜けやすい柑橘系オイルの弱点を補うことも出来ます。

ベチバー精油のブレンド例

ベチバー精油の注意点

  • 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
  • イネ科アレルギーの方は使用に注意が必要です。
  • ベチバー粘度が高く、瓶を逆さにしても一滴ずつ落としにくいです。瓶を降るなどして手や衣服に精油を飛び散らかしてしまうと香りが染み付くため注意しましょう。
  • アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
  • 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。

参考元