バラの香りを濃縮した重厚さが魅力
うっとりするような濃密なバラの香りが楽しめるローズアブソリュート。溶剤の関係からネガティブな印象を持たれがちですが、水蒸気蒸留では抽出されない成分が多く含まれている関係から香りに奥行きがありファンも多い存在です。華やかな香りには抗ストレス作用や抗不安作用を持つ可能性も報告されているため、日頃の疲れを癒やしつつ香りを楽しみたい場合にはおすすすめの存在と言えます。
Contents
ローズ・アブソリュートとは
ローズ・アブソリュートの特徴・歴史
香水などの原料となる香料植物の代表格と言える薔薇(バラ)。日本でもラベンダーと同等かそれ以上によく用いられる存在で、老若男女問わず香りをイメージしやすい香料の一つでもあるでしょう。ローズは“花の女王”や“香りの女王”とも称され、女王の名に相応しい圧倒的な存在感・陶酔感を感じさせる香りとして古くから人々に愛され続けています。古代エジプトの女王クレオパトラが愛した香りとしても知られていますし、古代ギリシア・ローマでは愛の女神に関わる花として大切にされたとも伝えられいます。紀元前から薔薇の香油も作られており、伝説ではクレオパトラがユリウス・カエサルを歓待した時にもバラの香油を利用したとも。
中世では「バラの花の美しさ・香りは人々を惑わす」として教会がダブー視した時期もあるのだとか。その反面、肌を若く保つと信じられ“若返りの薬”や“不老長寿の媚薬”として熱烈な支持者も多かったのだとか。現在でもバラの香りやローズオイルは女性の心と身体のサポートに優れた存在であると考えられています。ちなみにローズには確認されているだけでも300以上の成分が含まれており、10~15%くらいは未知の微量成分だとも言われています。組成成分が多いことは特有の素晴らしい香りとなるだけではなく、心身のサポートという部分に貢献しているという説もありますよ。
ローズ・アブソリュートとローズ・オットーの違い
日常的に使用されている「ローズ(薔薇/バラ)」という言葉はバラ科バラ属に含まれる植物の総称、もしくはその中で園芸用として栽培された種類を指す言葉として利用されています。バラ属の分類・種数については様々な見解があり専門家でも意見が別れていますが360以上、さらに園芸品種が派生していますから品種数ともなれば無数と言っても過言ではなのかもしれません。
ローズという言葉がバラ属植物の総称ですから、バラ属の植物から採油されれば全てローズオイルになります。しかし、精油・香料として使われているのは
- Rosa × damascena
→ダマスクローズ/ブルガリアンローズ - Rosa × centifolia
→キャベッジローズ/プロヴァンスローズ
の二種類が主となっています。古くは抽出方法に合わせて使用する品種が決められていた時期もあるようですが、現在は純粋に抽出法によってアブソリュートとオットーが区別されています。メーカーによっては「ローズ・ダマスク オットー」のように種類と抽出法がひと目で分かる商品名になっているものもありますよ。ちなみにローズ・ド・メイ(Rose de Mai)と呼ばれているのはキャベッジローズ(Rosa × centifolia)系統。
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とは言え、香料用ローズオイルは原料植物ではなく“ローズ・オットー(Rose otto)”と“ローズ・アブソリュート(rose absolutes)”の2タイプに大別されています。それに加えて近年は超臨界二酸化炭素抽出(CO2蒸留法)による“ローズ・CO2エキストラクト”も生産されていますが流通量はまださほど多くありません。
ローズ・オットーの“オットー”は水を意味するトルコ語が由来とされており、バラの花弁から水蒸気蒸留されたものを指します。対してローズ・アブソリュートは呼び名の通り、ジャスミンなどと同じく溶剤を使って可溶性物質を抽出したもの。アブソシュートは厳密には“精油(エッセンシャルオイル)”には含められないものですが、ローズやジャスミンなどいくつかのアブソリュートは精油のような感覚でアロマテラピーでも取り入れられているようです。低濃度に希釈した場合はさほど問題はないとされ利用者も多いですが、抽出に用いる溶剤の関係から皮膚利用については若干の懸念があるという声もあります。このためスキンケア目的・様々な用途に使用したいという方はローズ・オットーを選ぶことが多いようです。
安全性については劣ると評されつつもローズ・アブソリュートが世界中で愛されているのは、水蒸気蒸留では取り出すことのできない成分が抽出できる・香り成分が熱による損傷を受けないというメリットがあるため。バラの花束に鼻を入れたような濃厚で深い香りがあり、芳香を楽しむという面においてはロースアブソリュートの方が高く評価されています。また、ローズオイル類は採油率が非常に低いため高価ですが、水蒸気蒸留よりも溶剤を使用したアブソリュートの方が採油率が高く、価格も少しお安めなことが多いようです。
とは言えローズオイルはゼラニウムやパルマローザ・合成香料による偽和が多いことも指摘されています。あまりにも低価格なものは避けた方が良いでしょう。アブソリュートもオットーも凝固する性質があり、冷蔵庫に入れておくと粘度が高まる・半固形状になります。冷やしても変化しないものは品質が良くない可能性が高いとされています。
香料原料データ
- 通称
- ローズ・アブソリュート(Rose Abs.)
- 学名
- Rosa centifolia
Rosa damascenaなど - 別名
- Rosa centifolia:キャベッジローズ、プロバンスローズ
Rosa damascena:ダマスクローズ、ブルガリアンローズ - 科名/種類
- バラ科バラ属/低木
- 主産地
- フランス、ブルガリア、インド、モロッコ、トルコなど
- 抽出部位
- 花(花弁)
- 抽出方法
- 有機溶剤抽出法もしくは冷浸法(アンフルラージュ法)
- 色
- オレンジ~赤茶色
- 粘性
- 高い
- ノート
- ミドル~ベースノート
- 香り度合い
- かなり強い
- 精油成分
- フェニルエチルアルコール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、フェノール類(オイゲノールなど)、そのほか微量成分多数
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア
濃密で深みのある、陶酔感をもたらすような重厚な薔薇の香り
ローズ・アブソリュートに期待される働き・効能
精神面への作用と効果
ローズアブソリュートは芳醇なバラの香りを持つことが特徴。奥行きのある香りとなっているのは、水蒸気蒸留にはほとんど含まれていない“フェニルエチルアルコール”という芳香族アルコールが全体の50%以上も含まれているため。ローズアブソリュートとローズオットー(ローズ精油)は似た特性を持つと称されていますが、含有成分はかなり異なっているのです。フェニルエチルアルコールが人体に及ぼす影響について解明されている訳ではありませんが、2018年には日本の川崎医療福祉大医療技術学部研究グループからもフェニルエタノールに抗うつ作用が見られたという研究報告が発表されています。自然療法の中ではローズオットーよりも「ローズアブソリュートの方が精神的な働きかけに優れている」と称されるのも、ローズアブソリュートの主成分と言えるフェニルエチルアルコールが関係している可能性がありそうですね。
伝統的自然療法・民間療法の中でローズオイルは鎮静作用や抗不安作用を持つとされ、神経ストレス・緊張・気持ちの落ち込み・悲観などを癒やすために使用されてきました。また、鎮静作用だけではなく高揚作用を持つオイルの一つにも数えられ、鎮静・高揚の両作用によって心のバランスを整えるという説もあります。このため、人間関係のトラブルやショック・挫折による自信喪失など心が傷ついてしまった時の“癒やし”としても、悲観・嫉妬・妬みなどネガティブな感情を捨てられない時に前向きさや明るさを取り戻す手助けとしても利用されています。大雑把に言えば心・精神的な不快感を感じている場面には大抵適していると判断されているような形ですね。
成分的に見てもローズアブソリュートにはフェニルエチルアルコールだけではなく、鎮静作用や抗うつ作用などが期待されるモノテルペンアルコール類が含まれています。香りもうっとりするような華やかさがありますから、芳香を楽しむことでストレス軽減に役立ってくれるでしょう。アブソリュートとは製法が異なりますが2006年の『Iranian Journal of Pharmaceutical Research』にはR.damascena開花頂部のエタノール抽出物が中枢神経系(CNS)抑制作用を有することを示唆した研究論文も発表されており、この作用により抗うつ・抗不安・催眠効果を発揮するのではないかと考えられています。そのほかにもローズオイルに抗不安作用やリラックス効果が見られた・抗うつ作用を持つ可能性があるという研究報告は多くあることから、ローズアブソリュートもメンタル面でのサポート、特に精神的ストレスや気持ちの落ち込みの軽減に役立つのではないかと期待されています。
性的なお悩みにも…?
バラの花は古くから愛を象徴する花として扱われ、愛の表明にも利用されてきました。古くは媚薬の原料として使われたという伝承もありますし、現在でもバラの花の香りには催淫作用があるという説もあります。特にローズ・アブソリュートは溶剤抽出法で損なわれる成分が少ないことから催淫作用が高いと考えられ、ベットサイドアロマとして性的トラブルの改善サポートに利用されています。香りによる催淫作用があるのかは分かっていませんが、ストレスや気分の落ち込みの軽減からもセクシャルな部分の改善に繋がる可能性はあるでしょう。
肉体面への作用と効果
ローズ・アブソリュートは抽出に使用された化学薬品の残留物が懸念されることから、マッサージなどへの使用には意見が分かれています。有効性が研究されているローズオットーと比べると一段劣ると言えるかもしれません。ローズオイル全体に期待されている働き・伝統的な用途としては胃痛などストレスに起因する諸不調の軽減、鎮痛作用、免疫調整作用、血液浄化作用などがあります。鎮静作用と合わせて血圧低下や血流の安定サポート、関節痛や筋肉痛のケアなどにも使用されているようです。
また、ローズオイルは女性の体をサポートすると信じられ、ホルモンバランス調整作用や子宮強壮作用を持つ精油として使用されてきました。民間療法の中ではローズ・アブソリュートもローズ・オットーも女性領域での不調=月経前症候群(PMS)・更年期障害・月経不順・生理痛などの軽減に使用されています。しかし、これらは研究により有効性が断定もしくは示唆されたものではなく、ローズ・アブソリュートについて報告されているのは大腸菌・緑膿菌・黄色ブドウ球菌などに対して強い抗菌活性を示したということくらいです。万能薬のように紹介されているケースもありますが、過度な期待は避けましょう。強いて言うならローズ・アブソリュートはメンタルサポートが得意と考えられていますから、ストレス性の不調やPMSや更年期障害など精神的不調を伴う女性の不調には役立つ可能性が高そうです。
その他に期待される作用
肌への働きかけ
ローズオイルは肌の新陳代謝を高めることで肌細胞の再生を促す働きが期待され、肌のターンオーバーを整えたり、傷跡やストレッチマークの軽減用として利用されています。収斂作用(肌・毛穴を引き締める働き)を持つという説があること・抗酸化作用を持つ可能性が示唆されていることもあり、皮膚のアンチエイジング・シワの改善などにも効果が期待されています。そのほかフェニルエチルアルコールやモノテルペンアルコール類には抗菌作用があることから脂性肌ケアやニキビ予防に、毛細血管を収縮させることで皮膚強壮に役立つとの説もあります。
しかし科学的・医学的な面からローズ・アブソリュートが皮膚に有益な働きを持つとは断定されておらず、微量残留している溶剤などの関係から肌に刺激を与える可能性も指摘されています。スキンケアやマッサージなど肌のケアをメインに利用する場合や、敏感肌の方・残留溶剤が気になる方は水蒸気蒸留法で抽出されたローズオットーの使用が進められています。さらに刺激が少ないフローラルウォーター(芳香蒸留水)もありますから、肌の状態等に合わせて選ぶようにして下さい。
髪のお手入れにも
ローズアブソリュートの主成分であるフェニルエチルアルコールは、毛乳頭細胞死を抑制する“ウイント5a(Wnt5a)”という生体内蛋白質の一種を増加させる働きがあることが慶応大学とノエビア化粧品の共同研究で報告されています。このことからフェニルエチルアルコールは育毛剤等の製品にも配合されています。ローズ・アブソリュートもフェニルエチルアルコールを55%~70%程度と多く含むことから、抜け毛防止や育毛サポートに繋がる可能性はあるでしょう。ただし肌に刺激を与えて逆効果になってしまう可能性もありますから、様子を見ながらパッチテストを行うか製品化されているものを使用するのが無難ではあります。
ローズ・アブソリュートが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- 気分の落ち込み・無気力
- 不安・悲観・自信喪失
- ストレス・緊張・神経疲労
- リラックスしたい
- 気持ちを上向きにしたい
【肉体面】
- ストレス性の不調・痛みに
- PMS・更年期障害の軽減に
- (肌のアンチエイジング)
- (脂性肌ケア・ニキビ予防)
- (抜け毛防止・育毛サポート)
ローズ・アブソリュートの利用と注意点について
相性の良い香り
同系統のイメージを持つフローラル系・オリエンタル系の香りと相性が良いとされています。ローズのフローラル感や甘さが濃すぎると感じる場合は、柑橘系とブレンドして軽さを出すのもオススメです。香りが強いのでブレンドする際は少量ずつ加えるようにすると失敗しにくいです。
ローズ・アブソリュートのブレンド例
- 気持ちを明るく⇒ベルガモット、ネロリ、オレンジ、クローブ
- ストレス対策に⇒ベンゾイン、ラベンダー、ガルバナム、ミモザ
- 月経関係の不調に⇒クラリセージ、ジャスミン、ゼラニウム
- 頭皮・髪のケア用に⇒パチュリ、カモミール、レモンバーム
ローズ・アブソリュートの注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- 高濃度での使用・長時間の使用は控えてください。
- 低温で固まる性質があります。固まってしまった時は手のひらなどゆっくりと温め、元に戻して利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元