メリットもあるが、扱いには注意が必要
日本では料理用ハーブとしてもマストではなく、芳香商品もあまり見かけないセージ。名前は知っていても親しみの薄いハーブと言えるかもしれません。コモンセージは地中海沿岸地域が原産で、ヨーロッパでは「長生きしたい者は5月にセージを食べよ」という言葉もあるほどポピュラーな存在なのだとか。精油はケトン類を含むため使用には注意が必要ですが、記憶力アップや風邪予防などのメリットも期待されています。

Contents
コモンセージとは
セージの特徴・歴史
ハーブという言葉がピッタリなグリーンで強い芳香があり、ヨーロッパ系の料理で多用されるセージ。和食に応用するのはちょっと難易度が高めではありますが、肉や魚など動物性食品の臭み消しとしてよく用いられるハーブ。チーズやクリームソースなど乳製品類との相性が良く、セージを練り込んだ緑マーブルの“セージダービー”というチーズもイギリスでは親しまれています。より手軽なところだとハーブオイルやハーブビネガーにも使われていますが、ミントやタイムなどと比べると芳香剤などで「セージの香り」を見かける機会は少ないですよね。精油はキリリとした草の香り・草餅をシャープにしたような印象があるように個人的には感じます。
広義であれば「セージ」という言葉はシソ科アキギリ属(Salvia/サルビア属)に分類される植物全体を指す言葉でもありますが、ハーブや香料源として単にセージといった場合は和名をヤクヨウサルビアという品種(学名:Salvia officinalis)を指すのが一般的ではあります。英語では一般的に使用されているセージという事でコモンセージ(Common Sage)や、料理に使われるという意味でカリナリー・セージ(culinary sage)などとも呼ばれています。サルビア属には1000種近くの種が見付かっており、原産も中南米・中央アジア・東アジアなど様々。コモンセージは地中海沿岸地域が原産とされており、原産地付近で栄えていた古代エジプト・古代ギリシア・古代ローマでは紀元前から薬草として用いられていたと考えられています。
現在で言うコモンセージであるかは不明瞭な点もあるようですが、1世紀頃に記された大プリニウスの『博物誌』にもセージの薬効が紹介されています。薬理学と薬草学の父と称されるペダニウス・ディオスコリデスや、ガレノスなどの高名なギリシア医師も利尿薬、止血薬、通経薬、強壮薬としてセージの利用を推奨していたそうです。ローマでも同じくセージは万能薬感覚で様々に活用されていたことが分かっており、古代ローマ人はセージを「聖なるハーブ」として宗教儀礼にも用いていたという説もあります。ローマ軍が行軍時にセージの種を蒔きながら進んだからヨーロッパ中にセージが分布するようになった、なんていう逸話もあるほどローマの人はセージを活用していたんですね。ちなみに、属名として使われるサルビア(Salvia)やセージという呼び名についても、ラテン語で救う・癒すという意味を持つ言葉“salvere”が語源と考えられています。
ギリシアやローマを中心に中世ヨーロッパではセージを不老長寿の薬草・万能薬として重宝する地域が多くなり、「長生きしたい者は5月にセージを食べよ」や「庭にセージを植えているものが、どうして死ぬことができようか」などの格言も残されていますよ。ヨーロッパでは古くからガーデンハーブや民間医薬として親しまれてきた歴史があるため、現在でもハーブ療法ではポピュラーな植物の一つに数えられています。また、中世頃には西洋では胡椒などのハーブや茶葉が高値で取引されていましたが、逆に東洋ではセージが非常に高価な生薬として珍重されたという話もあります。中国では不妊症や更年期障害に良い生薬としてセージが使われていたのだとか。日本にセージが入ってきたのは明治以降と遅く、ハーブ・生薬としては定着しなかった植物であると称されることもあります。
コモンセージの精油はカンファーや1,8-シネオールなど抗菌・抗ウィルス作用が期待できる成分を含んでおり、伝統的効能や現在の研究結果から女性領域でのサポートなどにも効果が期待されている存在。ただしセージの精油は刺激が強い・毒性が危惧されているケトン類を含んでいます。皮膚に対しても刺激性があるため、芳香浴や手作り香水などに少し取り入れるだけではなく、肌ケアやトリートメントオイルとしての使用には注意が必要な精油でもあります。ちなみに香料(精油)原料として使われている種はコモンセージのほかにクラリーセージ(Salvia sclarea)や スパニッシュセージ(Salvia Lavandulifolia)、ホワイトセージ(Salvia apiana)などがあります。肌へ使用できることや作用・刺激性が穏やかなことなどから、セージ系の精油としてはクラリーセージの使用頻度が高いようです。
香料原料データ
- 通称
- コモン・セージ(Common Sage)
- 別名
- 薬用サルビア、ガーデン・セージ(garden sage)、カリナリー・セージ(culinary sage)
- 学名
- Salvia officinalis
- 科名/種類
- シソ科アキギリ属/常緑低木
- 主産地
- アルバニア、クロアチア、スペイン、イングランドなど
- 抽出部位
- 全草(主に花と葉)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 無色~淡黄色
- 粘性
- 低い
- ノート
- トップノート
- 香り度合い
- 中~強め
- 精油成分
- α-ツヨン、β-ツヨン、カンファー、1,8-シネオール、β-カリオフィレン、カンフェン、α-ピネン、ボルネオールなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・ヘアケア
草餅に通じるような、シャープで力強い薬草系の香り
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コモンセージに期待される働き・効能
精神面への作用と効果
コモンセージ精油はツヨン(Thujone/ツジョンとも)やカンファーなどのケトン類の割合が高いことから、使用量や期間に注意が必要とされている精油です。ツヨンはアブサンなどにも含まれている成分で過剰に摂取した場合には幻覚などの向神経作用・中毒性が問題視されていますが、少量であれば鎮静作用を持つのではないかという見解もある成分。カンファーも刺激・高揚作用が期待されており記憶力の向上・集中力アップに繋がるのではないかと考えられており、香りも頭をシャッキリと冴えさせたい時に嬉しい鋭くクリアな印象であることから、コモンセージの精油は活動時のサポート、一種のトニックのような感覚で利用されています。
セージの香りによる作用についてはまだ研究段階ですが、実際に記憶力を高める働きが見られたという報告もあります。2010年に『Human Psychopharmacology』に掲載されたイングランドで行われた健康なボランティア135人を対象にした研究では、セージ(Salvia officinalis)の香りを嗅いだグループには有為な記憶強化が見られたことが報告されています。古くはイギリスの植物学者ジョン・ジェラードがセージを「頭と脳に非常に良く、感覚と記憶を早める」と称したなど伝統的利用・効能などの関係もあり、コモンセージの香りは気持ちを整え、やる気や集中力を高める手助けとして活用されています。ストレスなどから感情が高ぶってイライラ・怒りなどが湧き上がってくるような場合・逆に無気力感がある時や注意力散漫なときに役立ってくれる可能性がありそうです。
そのほか抗鬱作用があるとする説もあり、気分が落ち込んでいるときや悲しみから抜け出せない・立ち直れないようなときの手助けに良いという説もあります。ただしコモンセージは毒性のある成分(ケトン類)の含有率が高い精油のため、常時焚きっぱなしというのは避けた方が良いでしょう。勉強中や仕事中にリフレッシュしたい時・気持ちをリセットしたい時などに単発的に取り入れるのがオススメです。
肉体面への作用と効果
セージは伝統的に腹痛や消化不良・下痢などお腹の調子が悪い時のハーブとして使われてきた歴史もあります。現代での民間療法としてセージティーを飲むという方がいらっしゃるようですし、実験でもサルビアオフィシナリス抽出物に下痢および腸痙攣の抑制作用が見られたことが報告されています。セージの芳香については根拠となる研究はないものの、精油もまた消化促進・健胃整腸作用を持つのではないかという説もあります。スッキリとした香りと合わせて、胃腸の調子が良くない時や夏バテなどによる食欲不振の緩和のために用いられることもあるようです。
加えてツヨンやカンファーなどのケトン類は鎮痛作用や抗菌作用が報告され、1,8-シネオールは抗菌性の他に炎症や痛みを和らげる抗炎症作用を持つ可能性があると注目されている成分。こうした精油成分を含んでいることから、コモンセージの精油は風邪やインフルエンザの予防、初期症状ケアにも用いられます。抗炎症作用から風邪による喉の痛みをはじめ咽頭炎や気管支炎などの軽減に、筋肉痛や神経痛・リウマチなどの痛みの軽減に良いという見解もありますよ。
女性の身体への働きかけ
セージに含まれているケトン類のα-ツヨン・β-ツヨンやビリディフロロール(セスキテルペンアルコール類)などは、女性ホルモンと良く似た働きを持つと考えられています。このためコモンセージの精油はホルモン様作用(エストロゲン様作用)によって生理不順や少量月経などの月経トラブルや更年期障害軽減にも効果が期待されています。ケトン類には鎮痛作用もあるため生理痛の軽減に、精神面への作用も合わせてPMS(月経前症候群)による生理前のイライラなどの精神面のケアに繋がる可能性もあるでしょう。しかしケトン類などは毒性を持つ成分ですし、コモンセージの精油は妊娠中に利用すると流産を促すことになるとも言われているため注意が必要な精油でもあります。妊娠中や授乳中などデリケートな時期の使用は勿論のこと、エストロゲン依存性腫瘍がある方やホルモン療法を受けている方も使用は避けましょう。
また、ほてりなど更年期障害の症状緩和に対しての有効性を示唆している報告は、セージの芳香ではなく、セージ抽出物を投与して行われた実験が大半。セージの精油を使ったマッサージで子宮が収縮して痛みを感じたなどの話もありますが、アロマトリートメントもしくは芳香浴に使用した場合の女性の体に対する働きかけについてはほとんど研究が行われていません。健康な方がちょっとした不調のサポートとして取り入れる分には良いと思いますが、体調に異変を感じた場合は使用を中断する、持病・疾患がある方の場合は医師の判断を仰いでから使用するようにしましょう。
その他に期待される作用
皮膚利用について
コモンセージの精油は瘢痕形成作用や収れん作用があり、傷の治りを早める働きがあると言われています。古くは傷の手当などに用いられてきたのもこの働きによるものでしょう。肌を引き締めシワや毛穴開きを改善する・シワや妊娠線のケアに役立つなどの見解もあります。そのほか抗炎症作用が期待できること、抗酸化物質を含んでいることが認められていることから、肌を若々しくきれいに保つための成分として基礎化粧品などに使われていることもあります。
ただしコモンセージ精油そのものは皮膚刺激が強いことが指摘されており、希釈した場合でも肌への直接使用は控えるべき存在とされています。逆に皮膚炎症を起こす原因となる可能性もありますから、自己判断でホームケアや手作りコスメなどに取り入れるのは避けたほうが良いでしょう。
コモン・セージが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- 記憶力・集中力アップに
- イライラ・怒り・不安
- ストレス・神経疲労
- 無気力・気分の落ち込み
- やる気を高めたい時に
- リフレッシュしたい時に
【肉体面】
- 食欲不振・消化不良
- 風邪予防・初期症状ケアに
- 咳・気管支炎の軽減に
- 生理痛・月経トラブル
- 更年期障害の緩和に
- PMS(月経前症候群)対策に
コモンセージの利用と注意点について
相性の良い香り
樹木系・ハーブ系の香りと相性が良いとされており、柑橘系やハーブ寄りのフローラル系精油ともブレンドしやすい香りです。コモンセージは香りも強めの精油ですし、作用・毒性も高いとされているためブレンド時は分量を控えめにすることをおすすめします。
セージ精油のブレンド例
- 気持ちの落ち込みに⇒ベルガモット、オレンジ、ジュニパー
- リフレッシュしたい時⇒レモン、シトロネラ、ジンジャー
- 呼吸器系のサポートに⇒ニアウリ、ローズマリー、パイン
- 女性領域の不調軽減に⇒ゼラニウム、ネロリ、ラベンダー
コモンセージ精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、お子さんへの使用はできません。
- 婦人科系疾患がある方・ホルモン療法を受けている方は使用を避けましょう。
- 神経系統の弱っている方(特にお年寄り)・てんかんの方は使用を避けましょう。
- そのほか持病がある方は医師に相談のうえ利用してください。
- 少量・低濃度で注意して使用し、常用を避けましょう。皮膚刺激も強いため敏感肌の方は芳香浴でも注意が必要です。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
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参考元