ストレスケアや抗菌用に期待
タイム・ゲラニオールはゲラニオール含有率が多いタイムのケモタイプ精油。バラに似た甘くフローラルな印象の香りがあり、フェノール類の含有率が低く低刺激なことが特徴です。抗菌作用・抗真菌作用が報告されている成分を多く含むことから空気浄化に、ゲラニオールなどモノテルペンを多く含むことからメンタル面のサポートにも期待されています。
Contents
タイム・ゲラニオールとは
タイムの特徴・歴史
生でも乾燥させても使用でき、爽やかな風味を与えてくれるタイム。料理用ハーブとして、特にフレンチなどの洋食でもよく使いますね。ハーブを束ねた“ブーケガルニ”や、プロバンス地方のエルブ・ド・プロバンスなどのミックスハーブでも定番材料の一つ。地中海沿岸・南ヨーロッパでは自生している[1]ため、身近なハーブとして人々に古くから愛されてきたのでしょう。
ところで、タイム(thyme)という呼び名は、広義ではシソ科のイブキジャコウソウ属(Thymus)の植物全般を指す言葉です。その中で単に「タイム」と呼ばれ、ハーブとして最も一般的なものが和名でタチジャコウソウと呼ばれる種(学名:Thymus vulgaris)。お料理のレシピやハーブとして単に「Thyme」と言えばThymus vulgarisを指すと思っても問題ありません。英語でも一般的・普通などの意味がある“Common”をつけてコモンタイムと呼ばれています。
タイム・ゲラニオールの精油も、原料植物はこのコモンタイム(Thymus vulgaris)。コモンタイムの精油成分の中で、ゲラニオールというモノテルペン含有率が高いものを指しています。ハーブとしてのタイムは爽やかな芳香が特徴的な存在ですが、ゲラニオールは“バラに似た芳香”や“甘いくフローラルな柑橘系の香り”を持つ[2]と称されている成分。このためタイム・ゲラニオールは「タイム」と聞いて連想するグリーン感・ハーバル感よりも、フローラル調寄りな柔らかい香りが特徴です。
タイム(コモンタイム)は地中海沿岸地域が原産で、古代から保護や浄化に優れたハーブとして活用されていました。古代エジプトでは防腐作用を持つ植物として、ギリシアでは空間を浄化するハーブとして寺院で焚かれていたと伝えられています。ローマでも病気を防ぐためにタイムを床に撒いたり、清めの儀式で焚いていた[3]と考えられています。ハーブとして食事に使われるようになったのも、風味の良さだけではなく、抗菌や防腐に役立つと考えられたことが関係しているのかもしれません。
タイム精油の種類について
「タイム系統」とまとめられる精油は、10種類以上とかなり多くの種類があります。一口にタイム系統の精油とは言っても、大きくは原料植物、コモンタイム(Thymus vulgaris)を原料とした精油類、同属別種の植物を原料とした精油(レモンタイムやタイムマストキナなど)の2タイプに分けることが出来ます。
植物同様、精油も単に「タイム」と呼ぶ場合は、コモンタイム(Thymus vulgaris)を原料とするものを指すのが一般的です。ただ、同じコモンタイムが原料であっても、精油は含有成分の違いによって“ケモタイプ(Chemotype)”として別々に扱われています。これは、同じ原料植物でも生育条件等によって精油成分の組成が大きく異なり、芳香や作用についても変わってくると考えられるためです。
ケモタイプ精油は、それぞれ呼び名に入っている精油成分の含有率が高いことが特徴。タイム精油の代表的なケモタイプとしては、以下のようなものが挙げられます[1]。
- タイムct. ゲラニオール
- タイムct. リナロール
- タイムct. ツヤノール
- タイムct. チモール/カルバクロール
- タイムct. パラシメン
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一般的なタイム精油には、刺激性が高く毒性の懸念もある、チモールやカルバクロールなどのフェノール類が多く含まれています。ケモタイプとは言われるものの、ゲラニオールタイプはフェノール含有率が低く、リナロールタイプと共にタイム精油の中でも扱いやすい精油。香りが穏やかなだけではなく、刺激性も低い精油ですから、気軽にお部屋で香らせたいなどの場合にも使いやすいでしょう。
ちなみに、“レッドタイム”や“ホワイトタイム”は、基本的には精油の抽出方法の違いによる区分です。レッドタイムはコモンタイムをそもまま蒸留(抽出)したもの。一般的にタイム、コモンタイム、ホワイトタイムと呼ばれている精油はレッドタイムを再蒸留したもので、刺激性・毒性のある成分含有率が低くなっていることが特徴。とは言えホワイトタイムもフェノール類の含有率は高めですので、特別な目的や理由がない限りはリナロールもしくはゲラニオールタイプを使うのが無難です。
香料原料データ
- 通称
- タイム・ゲラニオール(Thyme Geraniol)
- 別名
- 立麝香草(タチジャコウソウ)、コモンタイム(Common Thyme)、ガーデンタイム(garden thyme)
- 学名
- Thymus vulgaris(ct.Geraniol)
- 科名/種類
- シソ科イブキジャコウソウ属
- 主産地
- ハンガリー、フランス、セルビア
- 抽出部位
- 全草(茎葉、花)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- ほぼ無色~黄色
- ノート
- トップ~ミドルノート
- 香り度合い
- やや強め
- 精油成分
- ゲラニオール、酢酸ゲラニル、リナロール、テルピネン-4-オール、β-カリオフィレン、ネロールなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア・ハウスキーピング・防虫
爽やかさとフローラル感の混じった、マイルドな香り
タイム・ゲラニオール精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
タイム・ゲラニオールの主成分であり、特徴成分がゲラニオール。バラに通じるフローラルな雰囲気の元であり、ゼラニウムやパルマローザなどに多く含まれているモノテルペンの一種です。そのほかに含有率の高い成分も酢酸ゲラニルやリナロールなど、モノテルペンが多いことが分かっています[4]。
多くのモノテルペン類には抑制作用、鎮静催眠作用、抗不安作用を持つ可能性が示唆されています。ゲラニオールに関しても、マウスを使った実験では抗うつ作用や抑制作用が見られたことが報告されています[5]。これらのことからゲラニオールを筆頭にモノテルペン含有率が高いタイム・ゲラニオールも、気持ちを落ち着けたり、落ち込んだ気分を整えるサポートとして役立つ可能性があると考えれれます。
ただし、タイム・ゲラニオール精油自体に有効性を示すエビデンスはありません。ゲラニオールなどの働きに関しても「可能性がある」段階ですので、過度な期待は避けましょう。タイム・ゲラニオールはハーバル感とフローラル感を併せ持つ華やかな香りで、タイム系の中では刺激性が低い部類。リラックスタイムを満喫するための香りとして使ってください。
肉体面への作用と効果
タイムは抗菌活性・抗真菌活性・抗ウイルス活性を持つハーブとして評価されている存在。その働きに関係しているのがチモールやカルバクロールなどのフェノール類です。タイム・ゲラニオールはこうしたフェノール類の含有率は低いものの、ゲラニオールもまた抗菌・抗ウィルス作用を持つことが認められている成分[2]。
また、タイム・ゲラニオールに比較的多く含まれている酢酸ゲラニルにも、抗菌性や抗真菌・抗ウィルス作用が見られたことが報告されています[6]。タイム・ゲラニオールにも空間を綺麗に保って、風邪をはじめとする感染症予防に役立つ可能性はあるでしょう。柔らかさのある香りですから、芳香剤を兼ねてお部屋に香らせるのにも適しています。
女性の体への働きかけについて
ゲラニオールは女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を助ける・子宮強壮作用に良いなどの説もありますが、否定的な見解も多く、作用については分かっていません。念の為に、妊娠中や授乳中などデリケートな時期の使用は避けるようにしましょう。精神面への働きと合わせて、更年期障害やPMS(月経前症候群)の軽減に香らせてみるのは良いかもしれません。
その他に期待される作用
肌への働きかけ
抗菌作用・抗真菌作用が報告されている成分を多く含むことから、タイム・ゲラニオールは皮膚を清潔に保つ働きが期待できます。ニキビ予防・水虫などの皮膚感染症対策に役立つ可能性もあるでしょう。ゲラニオールには抗酸化作用や抗炎症作用が見られたとの報告もあります[2]。
タイム・ゲラニオールはタイム系精油の中では皮膚刺激性が低く、適切に希釈すれば皮膚利用も可能とされている精油。ただし、ゲラニオールや酢酸ゲラニルなどにもアレルギー誘発性が認められており、アレルギー性接触皮膚炎を起こす危険性もあります。しっかりとパッチテストを行い、異常を感じたら即座に洗い流して下さい。
空間浄化・虫除けに
ゲラニオールはハエや蚊、ゴキブリに対して忌避効果を持つことがわかっています。レモングラス抽出物とゲラニオールを組み合わせることで蚊よけに高い効果があるという報告もあり[2]、ゲラニオールを配合した天然成分由来の昆虫忌避剤もあります。
タイム・ゲラニオール精油も、希釈してスプレーにしたり、お部屋に香らせることで虫除け効果が期待できます。抗菌・抗ウィルス作用も期待できますから、虫除けだけではなくお部屋の空気を綺麗に保ってくれるという点でも役立ってくれるでしょう。
タイム・ゲラニオールが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレスを感じている
- リラックスしたい
- 不安・気持ちの落ち込み
- 気持ちを整えたい
- 前向きになりたい
【肉体面】
- お部屋の空気浄化に
- 天然の虫よけ剤として
- 風邪が気になる時期に
- 更年期障害・PMS緩和に
- ニキビ・水虫対策に
タイム・ゲラニオールの利用と注意点について
相性の良い香り
フローラル系との相性が非常に良い香りです。
さっぱりした印象のあるハーブ系や柑橘系、ライトなウッディー系の香りともブレンドしやすです。
タイム・ゲラニオールのブレンド例
- 気持ちの落ち込みに⇒ベルガモット、リナローウッド
- 風邪予防・空気浄化に⇒シトロネラ、レモンユーカリ
- 女性のサポートに⇒イランイラン、ローズ、ジャスミン
- お肌のケア用に⇒ラベンダー、ネロリ、サンダルウッド
タイム・ゲラニオール精油
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- [1]Thyme Essential Oil – A Chemotype Guide You’ll Love and Use
- [2]Geraniol — A review of a commercially important fragrance material
- [3]12 Spiritual & Magical Uses of Thyme (Attract Prosperity, Sleep, Protection, etc.)
- [4]Three chemotypes of thyme (Thymus vulgaris L.) essential oil and their main compounds affect differently the IL-6 and TNFα cytokine secretions of BV-2 microglia by modulating the NF-κB and C/EBPβ signalling pathways
- [5]Depressant effect of geraniol on the central nervous system of rats: Behavior and ECoG power spectra
- [6]What Is Geranyl Acetate? Benefits, Uses, and Risks