ストレス対策や女性サポートにも
甘くほろ苦い、ハーブ系の芳香が特徴的なマジョラム。香辛料として使われるマジョラムよりも、精油はスパイシーさが薄く、温かみのある印象の香りです。性欲を抑える働きを持つハーブとして使用された歴史が取り上げられがちですが、マジョラムは古くからメンタル面や睡眠のサポート・胃腸機能を整えるなど様々に使用されきたハーブでもあります。
Contents
マジョラム(スイート・マジョラム)とは
スイート・マジョラムの特徴・歴史
イタリアンをはじめ欧風料理には結構な頻度で使われているハーブ、マジョラム。甘くほろ苦い芳香が特徴的な香辛料の一つで、肉料理の必需品・肉のハーブと称されるように、ソーセージやパテなど肉料理の臭み消しとして利用されている方も多いのではないでしょうか。もちろん、香りの良さからもマジョラムは使われています。チーズやトマトとも相性は抜群ですし、甘く繊細な香りからケーキなど焼き菓子類などにも利用されています。
料理用以外に、マジョラムはハーブティーやフレーバー用にも使われています。また、化粧品・香水類から薬まで様々なものの“香り付け”に使われる香料原料の1つでもあります。特に欧米から中東の方にとっては馴染み深い香りでもありますし、マジョラムの温かみがありスパイシーな香りは性別を問いません。
ハーブ・香料として世界的に使われているマジョラム。植物分類状はシソ科ハナハッカ属に分類される、学名Origanum majoranaという種のことを指します。シソ科には多くのハーブ類が含まれていますし、同じハナハッカ属には香りも似ているオレガノ(学名:Origanum vulgare/ワイルド・マジョラムとも)があります。マジョラムもハナハッカ属の植物のため“ハナハッカ”と呼ばれる事もありますが、和名“花薄荷”はオレガノの方。香りの雰囲気も、葉の見た目も似ているので紛らわしいですね。
そのほか、別属でタイムに近い植物にも、スパニッシュ・マジョラムと呼ばれているものがあったりと、名前に「マジョラム」と付く植物もいくつか存在しています。このためOriganum vulgareは“スイート・マジョラム”や、小さな花が結び目(knot)のように付く特徴からノッテッド・マジョラムと呼ぶことで、区分することもあります。ちなみに日本ではカタカナでマジョラムと書いたり読んだりすることが多いですが、マジョラムのスペルは「marjoram」。発音記号もmɑ’ːrdʒərəmとなっているので“マージョラム”表記のほうが近いかもしれません。
マジョラムはエジプトやリビアなど地中海東部が原産とされています。原産地に近い古代ギリシア、ローマでは幸せを象徴するハーブとして大切にされてきました。ギリシアの神話では、女神アフロディーテが幸運の象徴としてマジョラムの植物に甘くてスパイシーな香りを与えた、というエピソードもあります[1]。マジョラムが属すハナハッカ属の属名Origanumも、ギリシャ語の“山(oros)”と“喜び(ganos)”を組み合わせた「山の喜び」を意味する言葉が語源。ギリシアでは新婚夫婦にマージョラムの花冠を贈ったり、故人の冥福を祈って墓地に植えたりする風習もあったようです。肉の保存や調理を美味しくするためのハーブとしても使用されました。
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また、マジョラムは痛みを緩和するなどの働きを持つ薬草としても活用されてきた歴史もあります。古代ギリシアの医者ディオスコリデスは神経障害の治療に、古代ローマのプリニウスは胃腸を整えるためにマジョラムを使用していたと伝えられています[2]。中世に記された『バンクスの薬草誌』やニコラス・カルペッパーの著書でもスイートマジョラムについての効能が記されています。魔女や悪霊を除けるという伝承もありますが、昔は病気=悪しきものが引き起こすと考えられていたことを思えば納得です。
マジョラム(marjoram)の語源としても、ラテン語の“major(より大きい・優れている)”という説があります。食事でも、伝統医療の中でも、マジョラムは古くから大切にされてきたことがうかがえますね。現在でもマジョラムはヨーロッパの民間療法・自然療法で多用されているハーブの一つで、お腹の不調、不眠や不安症など様々な場面で使われています。アロマテラピーでも、スイート・マジョラムはポピュラーな精油の一つに数えられます。
香料原料データ
- 通称
- スイート・マジョラム(sweet marjoram)
- 別名
- marjoram(マジョラム/マージョラム)、knotted marjoram(ノッテッド・マジョラム)、マヨラナ(茉沃刺那)
- 学名
- Origanum majorana
- 科名/種類
- シソ科ハナハッカ属/多年草
- 主産地
- エジプト、フランス、イギリス、ドイツなど
- 抽出部位
- 全草(花と葉)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 淡いクリーム色~琥珀色
- 粘性
- 低い
- ノート
- ミドルノート
- 香り度合い
- 中~強め
- 精油成分
- テルピネン4オール、α-テルピネオール、サビネン、α-テルピネン、γ-テルピネン、p-シメン、テルピノレン、酢酸リナリル など
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア
微かにスパイシーさと苦さを含む、温かみのあるハーブの香り
マージョラム(スイート・マジョラム)精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
マジョラム精油の温かみのある香りには、鎮静作用やリラックス効果があると考えられています[2]。成分的にみても、テルピネン4オールや酢酸リナリルなど鎮静系の働きを持つ精油成分が含まれており、副交感神経を活発化させることで緊張によって強ばった心と体を解きほぐすことに繋がる可能性はあるでしょう。メンタル面に関しての有効性が断定されているものではありませんが、アロマテラピーでは興奮した精神を鎮め、気持ちを落ち着ける・リラックスをサポートする精油として使われています。
また、マジョラム精油は「心を温める精油」と呼ばれることもあり、精神的に一杯一杯で冷淡になっている時や無感動になっている時、孤独感を感じている時の香りとして適しているという説もありますよ。2019年に発表された、ニューロフィードバックトレーニング中の患者を対象とした研究では、スイート・マジョラム精油と併用することでストレスレベル低下・抗不安作用の強化が見られたことも報告されています[3]。
安眠のサポートにも
鎮静・リラックス効果が期待できることから、スイート・マジョラム精油は快適な睡眠をサポートする香りとしても利用されています[1]。スイートマジョラムは基本的には毒性が低く、香りの柔らかさも高く評価されており、不眠対策の精油としてラベンダーと並んで紹介されることも多い存在。
マジョラム単体ではありませんが、不眠症の高齢者150人を対象に行なわれた“ラベンダー、マジョラム、ゼラニウム、バジルのブレンド精油を1ヶ月間吸引する”という実験では、不眠症の軽減に役立つ可能性も示唆されています[4]。マジョラム精油はラベンダーよりもスッキリとしたハーブ調の香り。ラベンダーの香りやフローラル調の香りが苦手な方も試してみると良いかもしれません。
肉体面への作用と効果
マジョラム・スイートは、ハーブとして食欲不振や消化不良・便秘・お腹の張りなど様々な消化器の不調に用いられてきた歴史があります。精油も同じように、民間伝承医学の中で胃腸トラブルのケアや、鎮痛剤のような感覚で利用されてきました[1]。マジョラムの香りは唾液腺や腸の蠕動運動を刺激し、消化機能を整えるという説もあります[2]。インビトロ研究でも、マジョラム精油による筋弛緩・鎮痙作用が確認されており、疝痛および腹部不快感軽減に役立つ可能性が示唆されています[5]。
また、マジョラムは鎮痛作用が期待されている精油でもあり、筋肉痛・関節痛・頭痛・偏頭痛・肩や腰のこりなど様々な「痛み」の緩和にも用いられることがあります。消化器系へのサポートと合わせて胃痛や腹痛の軽減に約わつ可能性もあるでしょう。そのほかに、抗炎症作用から咳・鼻炎・喘息・気管支炎など呼吸器系の炎症軽減、風邪予防や初期症状ケアとしても利用されています。
生理痛など女性領域のサポートも期待
マジョラムは女性領域でのサポートも期待されている精油。骨盤領域と子宮の血流を刺激して月経を促す“エメナゴーグ(Emmenagogue)”と呼ばれるハーブの一つにも数えられています。このことから月経不順・少量月経など月経トラブルのサポートに、鎮痛・鎮痙作用から生理痛の緩和に繋がる可能性もあるでしょう。2012年に発表された、月経困難症患者を対象とした研究では“ラベンダー、クラリセージ、マジョラムのブレンドオイルで下腹部をマッサージすることで月経痛の期間が短縮された”という報告もあります[6]。リラックス効果と合わせて、PMS(月経前症候群)や更年期障害の緩和に用いられることもあります。
その他に期待される作用
肌への働きかけ
マジョラム・スイート精油のうち、含有率が高いテルピネン4オールは抗菌・抗真菌作用が認められています。このため水虫やニキビ予防など、皮膚を清潔に保つサポートが期待できるでしょう。
また、マジョラム・スイート精油は血行促進作用があるオイルとの説もあります。このため、血行不良に寄る目の下のクマ・くすみ対策、血液循環がスムーズになることで皮膚の新陳代謝向上・肌のターンオーバーを整えるなどの働きも期待されています。ただし、こうした働きについて有効性は分かっていません。
制淫作用について
マジョラム・スイートは修道院などで性欲を抑えるために用いられていたという逸話もあり、「制淫特性(性欲を抑える作用)」を持つとされる精油の1つでもあります。しかし、どの成分がどういった作用をもたらすことで、性欲を抑制・制御するかという詳細は分かっていません。制淫特性はエビデンスに基いたものではなく、伝統的効能に起因しているのでしょう。
スイート・マジョラムが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレス・精神疲労
- 気持ちの落ち込み・不安
- メンタルバランスを整えたい時に
- リラックスしたい時に
- 寝付きが悪いと感じる時に
【肉体面】
- 便秘・腹部膨満感
- 食欲不振・消化不良
- 腹痛や頭痛などの痛み緩和に
- 鼻や喉の調子が良くない時に
- 生理痛・月経不順が気になる方
マージョラム(スイート・マジョラム)の利用と注意点について
相性の良い香り
甘めの芳香を持つマジョラムの精油は柑橘系・フローラル系との相性が良いとされています。スパイス系としてはライトな印象の香りでもありますし、そこまで個性が強いわけでもありませんから、それ以外の系統の香りであってもブレンドはしやすい部類でしょう。
スイート・マジョラムのブレンド例
- 寝付きサポートに⇒ラベンダー、オレンジ、ロザリーナ
- 情緒不安定な時に⇒カモミール、ベルガモット、月桃
- 女性特有の不調に⇒イランイラン、ゼラニウム、ネロリ
- むくみケアに⇒サイプレス、マンダリン、パセリシード
- 冷え性の軽減に⇒ローズマリー、ナツメグ、タラゴン
スイート・マジョラム精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへ自己判断で使用するのは避けましょう。
- 血圧降下作用を持つ可能性があるため、低血圧の方は注意が必要です。
- 多量・長時間の使用は眠気を起こす可能性があります。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- [1]Marjoram: Gaia Herbs
- [2]MONQ Essential Oil Blends with Marjoram
- [3]Origanum majorana Essential Oil Inhalation during Neurofeedback Training Reduces Saliva Myeloperoxidase Activity at Session-1 in Bruxistic Patients
- [4]Influence of Aromatherapy on Alleviation of Insomnia Symptoms
- [5]Myorelaxant Activity of essential oil from Origanum majorana L. on rat and rabbit
- [6]Pain relief assessment by aromatic essential oil massage on outpatients with primary dysmenorrhea: a randomized, double-blind clinical trial