空気も心も和む、和の香り
日本人にとってはお風呂や寺社を思い出させるようなヒノキの香り。古くから優れた木材として重用されてきた植物でもありますし、外国では“日本のサイプレス”として認識されているよう。特に馴染みの深い日本人にとっては静かで落ち着く印象のある香りで、成分面からも精神・神経のサポートに役立つと考えられています。空気浄化や防虫、疲労回復やむくみ軽減など自分と周囲をクリアにする働きが期待されている精油でもありますよ。
Contents
ヒノキ(檜/桧)とは
ヒノキの特徴・歴史
日本人にとってはお風呂や高級建材としても馴染み深い樹木、ひのき(檜/桧)。神社仏閣など歴史的な建造物に使われていることも知られていますし、和を感じされてくれる癒やしの香りとしてルームフレグランスや入浴剤などにも利用されていますね。ふんわりと森の香りを感じる檜造りのお家・ひのき風呂に憧れを感じる日本人も少なくないのではないでしょうか。フローラル系やバニラ・ムスク系などの香りは好き嫌いがありますが、日本人に限ってい言えばヒノキの香りは男性やお年寄りなどにも柑橘系以上に受け入れられやすいと言われるのも納得ですね。ウッディー系の香りはあまり好きではない、という場合でもヒノキの香りなら許容範囲という方もいらっしゃるようです。
そんなヒノキはヒノキ科ヒノキ属に分類される針葉樹で、福井県以南から屋久島までに分布しています。ヒノキが自生しているのは日本と台湾のみと言われており、天然の樹木は貴重な存在でもあります。同じくヒノキ科のうち日本のヒノキと比較的近いヒノキ亜科に分類される植物としては、「ヒノキに似た香り」と形容されるサイプレスやジュニパーなどがあります。また名前から杉に近い植物と思われがちなベイスギ(アメリカネズコ)も同じくヒノキ亜科に分類されています。欧米ではヒノキよりもサイプレス(イトスギ)の方がポピュラーなため英語ではヒノキ科の植物が“Cypress family”と言われており、日本のヒノキを指す場合はHinoki cypressもしくはJapanese cypressなどと呼ぶようです。
近年でこそ花粉症の問題などがあり一部では厄介者扱いされているヒノキですが、日本には人と同じかそれ以上に古くから根付いていた樹木。加工がしやすく木目が美しいことに加え、湿気の多い気候に適した調湿機能・防虫効果などがあることから日本人は古くからヒノキを利用してきたと言われています。奈良時代に成立した『日本書記』や『古事記』などの文献では杉・ヒノキ・クスノキ・コウヤマキが日本で最初に生まれた樹木として登場しています。またスサノオは「スギとクスノキは舟に、ヒノキは神殿に、コウヤマキは棺に使うように」と言ったとされていますから、奈良時代には神社仏閣などの建材として重宝されていた事も分かりますね。仏教が伝わった飛鳥時代頃には大陸に倣って白檀を使って仏像が尽くされていたようですが、徐々に国産のクスノキやヒノキが利用されるようになっていったとも言われています。
現存する世界最古の木造建築である法隆寺・薬師寺の等など重要な建造物にもヒノキが使われています。よく「ヒノキは千年以上も強度等の経年変化がない」と言われるのも納得ですね。奈良時代から建材として重用され続けていたたヒノキの大径材は減少していき、江戸時代には藩が、明治には帝室林野局が立ち入りや伐採を厳しく制限する事態にもなります。東大寺も元々はヒノキ材だったものの、再建時には材料が足りず他の樹木を利用することになったと言われていますよ。現在でも人により見解の違いはあるようですが、過去の大量伐採の関係から絶滅危惧種であるという声もあるほどだとか。
乱伐は問題ではありますが、日本人に古くから愛され続けてきた樹木と言えるヒノキ。木材としての耐久性や加工性も勿論ですが、どこかノルタルジックな印象を与える独特な芳香もまた魅力の一つ。森林浴と同じような効果を持つと言われるほど深いリラックス効果が期待されており、安眠を誘いいびきを抑えるという説もあるほど。このためヒノキは香料としても愛されている存在であり、精油は石鹸や入浴剤・芳香剤・ルームフレッシュナーなど様々な製品でも活用されています。ちなみにヒノキの精油は木部(心材)を原料とするもの・枝葉から抽出されるものがありますが、抽出部位によって香りが異なります。木部の精油はウッディー、枝葉の精油はフレッシュな印象が強いと評されていますが、香りを確認して購入するのがお勧めです。
香料原料データ
- 通称
- ヒノキ(檜/桧)
- 別名
- Hinoki cypress(ヒノキ・サイプレス)、Japanese cypress(ジャパニーズ・サイプレス)
- 学名
- Chamaecyparis obtusa
- 科名/種類
- ヒノキ科ヒノキ属/針葉樹
- 主産地
- 日本・台湾
- 抽出部位
- 心材(木)
※枝葉から採油されたヒノキ・リーフも有 - 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 淡黄色~茶オリーブ色
- ノート
- ベース~ミドルノート
- 香り度合い
- 中くらい
- 精油成分
- α-ピネン、γ-カジネン、カジノール類、リモネン、ボルネオール、酢酸ボルニル、酢酸テルピニル
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア・ハウスキーピング・防虫
フレッシュで懐かしさを感じる和風な森の香り
Advertisement
ヒノキ精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
木というよりは“森”と言った方がしっくりくるような、フレッシュでありながら奥深い香りを持つヒノキの精油。成分的にはモノテルペン炭化水素類のα-ピネンの割合が多く、そのほかカジネンやカジノール・ボルネオールなど様々な成分によってその香りは構成されています。主成分であるα-ピネンは“森林浴効果を持つ”と称される森林揮発性物質(フィトンチッド)で、森林浴をしている時と同じようなリラックス効果とリフレッシュ効果を与えてくれると考えられています。ヒノキの香り自体も森の中にいるようなイメージを起こし、特に日本人には馴染み深くホッとする香りでもありますからストレスケアに効果が期待できるでしょう。
アロマテラピーなどでヒノキは鎮静作用と強壮作用を併せ持つとも言われており、心を落ち着かせるだけではなく前向きになりたい時に適した香りであるという説もあります。交感神経の興奮を抑制して副交感神経を高めることで自律神経のバランスを整えるという説もあります。神経強壮やリラックス作用も期待できる、頑張る現代人のリラックスタイムにぴったりの香りと言えそうですね。忙しい毎日や日々の緊張して疲れきっている時に香らせることで、リラックスや安らぎを取り戻す手助けをしてくれるでしょう。
そのほか2011年『 British Journal of Pharmacology』にはα-ピネンがアセチルコリンエステラーゼ阻害剤として働き、記憶力低下を防ぐ可能性を示唆した研究報告も掲載されています。低濃度のα-ピネンが記憶を助ける可能性があることを示唆した実験報告は他にも数多く存在しているため、認知症予防などへの有効性についても今なお研究が行われています。どれも有効性が確証されたものではありませんが、脳への血流を促してくれるという見解もありますので、お年を召された方のサポートだけではなく、ぼんやりし集中力が途切れがちだと感じている時に香らせてみても良さそうですね。
肉体面への作用と効果
ヒノキの木部から抽出される精油成分の主成分であるα-ピネンは第七の栄養素とされる“ファイトケミカル”の一つとしても注目されている存在で、血流改善・胃液の分泌を促すことで食欲を高めるなど様々な働きを持つ可能性が報告されている成分でもあります。2012年の『Life Sciences』にはα-ピネンの抗炎症作用が膵臓と肺の保護に役立つ可能性を示唆した研究報告も掲載されていますし、優れた抗菌性を持つことも各地の研究機関によって報告されている存在。
α-ピネン以外にも様々な精油成分を含んでいるヒノキ精油も様々な健康サポートが期待されており、特に血行促進作用や鬱滞除去作用などによって体内の巡りを整える働きに優れたオイルと考えられています。疲労回復促進やむくみ・冷え性の軽減にも効果が期待されており、精神面への働きかけと合わせて疲労感や慢性疲労・だるさ・倦怠感などの軽減に繋がる可能性もあるでしょう。血行やリンパの流れを促す働きが期待できることから間接的なダイエットの手助けとしても活用されています。足先の冷えやむくみ・下半身の重さが気になる時はフットバスに入れて利用してみても良さそうですね。
また、鎮痛作用を持つとされていることから頭痛や肩こりの軽減・筋肉痛の回復促進に、血行不良や子宮の冷えに起因する生理痛や腰痛などの軽減に取り入れられることもあります。精神面への働きかけと合わせてPMS(月経前症候群)による精神的な不快感や、むくみ・腰痛・乳房の痛みなどの症状緩和にも取り入れられることがあるようです。
風邪予防・免疫サポートにも
α-ピネンは殺菌・抗菌作用のほか、免疫向上作用を持つ可能性が報告されている成分でもあります。その他にもヒノキ精油には抗菌・抗ウィルス作用が期待できる成分が含まれているため、ヒノキの建材を使ったり、精油を拡散することで風邪やインフルエンザの予防に役立つと考えられています、血行促進作用によって体を温めたり発汗を促す働きも期待できますから、風邪っぽいと感じた時のケアにも役立ってくれそうでうね。季節の変わり目に体調を崩しやすい方に適した精油の一つという説もあります。
その他に期待される作用
肌・頭皮への働きかけ
ヒノキ精油は毛穴や皮膚のたるみを引き締める収斂作用を持つ精油とされており、脂性肌やイチゴ鼻・毛穴の黒ずみが気になる方、シワやたるみが気になる年齢肌へのエイジングケアなどに広く利用されています。抗炎症作用や殺菌作用が期待できることからニキビケアにも利用されることがありますが、どちらかというと脂性肌の方向けの精油と言えます。頭皮の脂っぽさを防いでくれることから頭皮・ヘアケアにもよく利用さており、抜け毛やフケ防止のサポーターとしても期待されています。
ダニ・アレルギー予防にも
ヒノキ精油に含まれるα-カジノールという成分はダニを防ぐ働きが認められ、防ダニ系の製品にも有効成分として配合されていることがあります。このためヒノキ精油にも防虫・防ダニ作用があるのではないかと期待されており、α-ピネンによる免疫力向上作用と合わせてアレルギー性鼻炎などの予防や緩和に取り入れられています。
ヒノキ精油には消臭作用もありますので、デュフーザーで拡散したり、水ぶきの際バケツの水で希釈して利用すると、お部屋をクリーンに保ってくれるでしょう。風邪予防にも繋がるので一石二鳥ですね。ただし「ヒノキの抗菌成分」と紹介されることもあるヒノキチオールはヒノキ精油に微量しか含まれていません。実はヒノキチオール含有率はヒノキ精油よりもヒバ精油の方が多くなっています。
ヒノキ精油が利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレス・神経疲労
- 緊張・興奮・イライラ
- リラックスしたい
- リフレッシュしたい
- 前向きさが欲しい
- 心のバランスが乱れている
- 自分を取り戻したい
- 癒やしが欲しい
【肉体面】
- 血行不良・冷え性・むくみ
- 頭痛・筋肉痛・体のコリ
- 疲労・疲労感・だるさに
- 生理痛・PMSの軽減に
- 風邪・インフルエンザ予防に
- 脂性肌、ニキビ・毛穴対策に
- お部屋のダニ対策・消臭に
- アレルギーの予防・緩和に
ヒノキ精油の利用と注意点について
相性の良い香り
柑橘系の香りと相性がよく、オリエンタル系・樹木系の香りともブレンドしやすい精油です。ヒノキの精油を他のウッディー系精油と組み合わせると、香りに深み・奥行きが出るとも言われています。
ヒノキ精油のブレンド例
- リラックス用に⇒ベンゾイン、カモミール、ベルガモット
- 冷え・むくみに⇒柚子、マジョラムスイート、オレンジ
- 月経トラブルに⇒イランイラン、クラリセージ、ネロリ
- 空気浄化に⇒サイプレス、ユーカリ、ティートリー、レモン
ヒノキ精油の注意点
- 妊娠中の方は使用を避けて下さい。
- 高濃度で使用した場合は皮膚に刺激を感じる場合があります。敏感肌の方は特に注意しましょう。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- Terpene Profile: Alpha-Pinene
- アロマテラピーの教科書(和田文緒著/ 新星出版社)