バラを濃縮したような、厚みある芳香
つい、うっとりしてしまう濃密なバラの香りが楽しめるローズアブソリュート。溶剤の関係からネガティブな印象を持たれがちですが、水蒸気蒸留では抽出されない成分が多く含まれているため、より本物のバラに近い深み・奥行きが楽しめます。日頃の疲れを癒やしつつ香りを楽しみたい場合にはローズ・アブソリュートが適しているでしょう。
Contents
ローズ・アブソリュートとは
ローズ(バラ)の特徴・歴史
芳香剤から香水まで、特に女性に好まれやすい“香り”として使われている薔薇(バラ)。バラは香料植物の代表格であり、日本でもローズの香り、バラの香りという表記はラベンダーと同じくらいに多く使われています。老若男女問わず香りをイメージしやすい香料の一つでもあるでしょう。
ローズ(バラ)は“花の女王”や“香りの女王”とも称される植物。女王の名に相応しい見た目の華やかさ・美しさももちろんのこと、陶酔感を感じさせる香りもまた古くから人々に愛され続けている植物です。古代エジプトの女王クレオパトラが愛した香り、クレオパトラがユリウス・カエサルを歓待した時にもバラの香油を利用した、なんてエピソードも良く登場しますね。古代ギリシアや古代ローマでも、バラは“愛の女神に関わる花”と考えられていました。
バラの香油も紀元前から作られていましたから、人々は自分を魅力的に演出するために数千年もバラの香りを身にまとってきたと言えるのかもしれません。その魅力から、中世期には「バラの花の美しさ・香りは人々を惑わす」として教会がダブー視した時期もあるのだとか。しかし、バラには“若返り”や“不老長寿”の薬、時には媚薬として、特別な力があると信じる方も多かったようです。現在でも、バラの香りやローズオイルは、女性の心と身体のサポートに優れた存在として民間医療や自然療法の中で多く使われています。
香料原料となる“バラ”は主に2種類
日常的に使用されている「ローズ(薔薇/バラ)」という言葉はバラ科バラ属に含まれる植物の総称、もしくはその中で園芸用に栽培された種類を指す言葉として利用されています。バラ属の分類・種数については様々な見解があり専門家でも意見が別れていますが360以上、栽培品種まで数えると更に多くの種類に分かれます。
ローズという言葉がバラ属植物の総称ですから、バラ属の植物から採油されたオイルは全てローズオイルになります。
しかし、精油・香料の原料としては、ほとんどのものが下記2種のどちらか。ローズ・ド・メイ(Rose de Mai)と呼ばれているのもRosa × centifolia系統種です。
- Rosa × damascena
…ダマスクローズ/ブルガリアンローズ - Rosa × centifolia
…キャベッジローズ/プロヴァンスローズ
メーカーによっては「ローズ・ダマスク オットー」のように、種類と抽出法がひと目で分かる商品名になっているものもあります。
Advertisement
ローズ・アブソリュートとローズ・オットーの違い
古くは抽出方法に合わせて使用するバラの品種が決められていた時期もあるようですが、現在は純粋に抽出法によって“ローズ・オットー(Rose otto)”と“ローズ・アブソリュート(rose absolutes)”と区別されることが大半[1]となっています。超臨界二酸化炭素抽出(CO2蒸留法)による“ローズ・CO2エキストラクト”も生産されていますが、こちらの流通量はまだ多くありません。
ローズ・オットーは、バラの花弁から水蒸気蒸留された精油を指します。対して、ローズ・アブソリュートは呼び名の通り、ジャスミンなどと同じく溶剤を使って可溶性物質を抽出したもの。アブソシュートは厳密には“精油(エッセンシャルオイル)”ではありませんが、ローズやジャスミンなどのアブソリュートは精油のような感覚で使われることもあります。
とは言え、アブソリュートは抽出に用いる溶剤の関係から皮膚利用については若干の懸念があるという声もあります。水蒸気蒸留の場合は化学薬品の残留を心配する必要がないことから、アロマトリートメントやスキンケアなど肌に塗布するような使い方をする場合にはローズ・オットーの方が無難ではあるでしょう。
反対に、ローズ・アブソリュートは水蒸気蒸留では取り出すことのできない成分まで抽出できる、熱によって精油成分が壊されないことが特徴。このため濃厚で深い、より自然な「バラの花」に近い香りがあります。バラの芳香を楽しむのであれば、ローズ・アブソリュートの方が高く評価されています。また、ローズオイル類は採油率が非常に低いため高価ですが、溶剤を使用したアブソリュートの方が水蒸気蒸留よりも採油率が高くなります。このため、価格も少しお安めなことが多いようです。
なお、ローズオイルはゼラニウムやパルマローザ・合成香料による偽和が多いことも指摘されています。あまりにも低価格なものは避けた方が無難。ローズオイルは低温で凝固する性質があり、ローズ・オットーも科学的処理をされていないものであれば10℃程度になる粘度が高まる・半固形状になります。アブソリュートもオットーも、冷やして粘度の変化があるかが簡易的な品質目安される場合もあります。
香料原料データ
- 通称
- ローズ・アブソリュート(Rose Abs.)
- 学名
- Rosa centifolia
Rosa damascenaなど - 別名
- Rosa centifolia:キャベッジローズ、プロバンスローズ
Rosa damascena:ダマスクローズ、ブルガリアンローズ - 科名/種類
- バラ科バラ属/低木
- 主産地
- フランス、ブルガリア、インド、モロッコ、トルコなど
- 抽出部位
- 花(花弁)
- 抽出方法
- 有機溶剤抽出法もしくは冷浸法(アンフルラージュ法)
- 色
- オレンジ~赤茶色
- 粘性
- 高い
- ノート
- ミドル~ベースノート
- 香り度合い
- かなり強い
- 精油成分
- フェニルエチルアルコール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、フェノール類(オイゲノールなど)、そのほか微量成分多数
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・ヘアケア
濃密で陶酔感をもたらすような、重厚な薔薇の香り
ローズ・アブソリュートに期待される働き・効能
精神面への作用と効果
ローズ・アブソリュートは芳醇な「バラの香り」が特徴。この奥行きのある香りは、水蒸気蒸留した場合にはほとんど含まれない“フェニルエチルアルコール(2-フェニルエタノール)”という芳香族アルコールが全体の50%以上も含まれているため。ローズアブソリュートとローズオットー(ローズ精油)は似た特性を持つと称されていますが、含有成分はかなり異なっているのです。
伝統的自然療法・民間療法の中で、ローズオイルは鎮静作用や抗不安作用を持つとされ、神経ストレス・緊張・気持ちの落ち込み・悲観などを癒やすために使用されてきました。また、鎮静作用だけではなく高揚作用を持つオイルの一つにも数えられ、鎮静・高揚の両作用によって心のバランスを整えるという説もあります。このため、人間関係のトラブルやショック・挫折による自信喪失など心が傷ついてしまった時の“癒やし”としても、に前向きさや明るさを取り戻す手助けとしても利用されています。
ローズ・アブソリュートの芳香吸引による有効性は認められていませんが、代表成分と言える“フェニルエチルアルコール(2-フェニルエタノール)”に抗うつ作用や鎮静作用などの働きがあるのではないかと考えられています。実際に2018年の科学雑誌『Biomedicine & Pharmacotherapy』には“マウスにおける2-フェニルエタノール吸入で、抗うつ作用がみられた”という研究論文が掲載されています[2]。アブソリュートではありませんがが、ダマスクローズのエタノール抽出物では、中枢神経系(CNS)抑制作用を持つことを示唆した研究論文もあり[3]ます。
アロマテラピーなど自然療法ではローズ・オットーより「ローズ・アブソリュートの方が精神的な働きかけに優れている」という見解もあります。こうした研究結果や、鎮静作用や抗うつ作用などが期待されるモノテルペンアルコール類もローズアブソリュートには含まれていることから、ローズアブソリュートもメンタル面でのサポート、特に精神的ストレスや気持ちの落ち込みの軽減に期待されています。純粋に香りも多くの人に“好ましい”と感じられるものですから、芳香を楽しむことでもストレス軽減に役立ってくれるでしょう。
性的なお悩みにも…?
バラの花は古くから愛を象徴する花として扱われ、愛の表明にも利用されてきました。古くは媚薬の原料として使われたという伝承もありますし、現在でもバラの花の香りには催淫作用があるという説もあります。特にローズ・アブソリュートは溶剤抽出法で損なわれる成分が少ないことから催淫作用が高いと考えられ、ベットサイドアロマとして性的トラブルの改善サポートに利用されています。香りによる催淫作用があるのかは分かっていませんが、ストレスや気分の落ち込みの軽減からもセクシャルな部分の改善に繋がる可能性はあるでしょう。
肉体面への作用と効果
ローズ・アブソリュートは抽出に使用された化学薬品の残留物が懸念されることから、マッサージなどへの使用には意見が分かれています。有効性が研究されているローズオットーと比べると一段劣ると言えるかもしれません。ローズオイル全体に期待されている働き・伝統的な用途としては胃痛などストレスに起因する諸不調の軽減、鎮痛作用、免疫調整作用、血液浄化作用などがあります。鎮静作用と合わせて血圧低下や血流の安定サポート、関節痛や筋肉痛のケアなどにも使用されているようです。
また、ローズオイルは女性の体をサポートすると信じられ、ホルモンバランス調整作用や子宮強壮作用を持つ精油として使用されてきました。民間療法の中ではローズ・アブソリュートもローズ・オットーも女性領域での不調=月経前症候群(PMS)・更年期障害・月経不順・生理痛などの軽減に使用されています。しかし、これらは研究により有効性が断定もしくは示唆されたものではありません。ローズ・アブソリュートについて報告されているのは大腸菌・緑膿菌・黄色ブドウ球菌などに対して強い抗菌活性を示したということくらいです。
万能薬のように紹介されているケースもありますが、過度な期待は避けましょう。
強いて言うならローズ・アブソリュートはメンタルサポートが得意と考えられていますから、ストレス性の不調やPMSや更年期障害など精神的不調を伴う女性の不調には役立つ可能性が高そうです。
その他に期待される作用
肌への働きかけ
ローズオイルは肌の新陳代謝を高めることで肌細胞の再生を促す働きが期待され、肌のターンオーバーを整えたり、傷跡やストレッチマークの軽減用として利用されています。収斂作用(肌・毛穴を引き締める働き)を持つという説があること・抗酸化作用を持つ可能性が示唆されていることもあり、皮膚のアンチエイジング・シワの改善などにも効果が期待されています。そのほか脂性肌ケアやニキビ予防に、毛細血管を収縮させることで皮膚強壮に役立つとの説もあります。
しかし、科学的・医学的な面からローズ・アブソリュートが皮膚に有益な働きを持つとは断定されておらず、微量残留している溶剤などの関係から肌に刺激を与える可能性も指摘されています。スキンケアやマッサージなど肌のケアをメインに利用する場合や、敏感肌の方・残留溶剤が気になる方は水蒸気蒸留法で抽出されたローズオットーの使用が進められています。さらに刺激が少ないフローラルウォーター(芳香蒸留水)もありますから、肌の状態等に合わせて選ぶようにして下さい。
髪のお手入れにも
ローズアブソリュートの主成分であるフェニルエチルアルコールは、毛乳頭細胞死を抑制する“ウイント5a(Wnt5a)”という生体内蛋白質の一種を増加させる働きがあることが慶応大学とノエビア化粧品の共同研究で報告されています[4]。
ローズ・アブソリュートもフェニルエチルアルコールを55%~70%程度と多く含むことから、抜け毛防止や育毛サポートに繋がる可能性はあるでしょう。ただし、肌に刺激を与えて逆効果になってしまう可能性もありますから、様子を見ながらパッチテストを行うか製品化されているものを使用するのが無難ではあります。
ローズ・アブソリュートが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- 気分が落ち込んでいる
- ストレスが多いと感じる
- 不安・悲観・自信喪失
- 緊張・イライラしやすい
- 無気力・疲労感
- リラックスしたい時に
【肉体面】
- ストレス性の不調・痛みの緩和
- (肌のアンチエイジング)
- (脂性肌ケア・ニキビ予防)
- (抜け毛防止・育毛サポート)
ローズ・アブソリュートの利用と注意点について
相性の良い香り
同系統のイメージを持つフローラル系・オリエンタル系の香りと相性が良いとされています。ローズのフローラル感や甘さが濃すぎると感じる場合は、柑橘系とブレンドして軽さを出すのもオススメです。香りが強いのでブレンドする際は少量ずつ加えるようにすると失敗しにくいです。
ローズ・アブソリュートのブレンド例
- 気持ちを明るく⇒ベルガモット、ネロリ、オレンジ、クローブ
- ストレス対策に⇒ベンゾイン、ラベンダー、ガルバナム、ミモザ
- 月経関係の不調に⇒クラリセージ、ジャスミン、ゼラニウム
- 頭皮・髪のケア用に⇒パチュリ、カモミール、レモンバーム
ローズ・アブソリュートの注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- 高濃度での使用・長時間の使用は控えてください。
- 低温で固まる性質があります。
固まってしまった時は手のひらなどゆっくりと温め、元に戻して利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元