心身を温める精油と表現されることも…
香辛料として使っているものよりもドライで刺激的、なのに奥底に温かさも感じられるブラックペッパーの精油。シャープな香りはリフレッシュしたり集中力を高めたい時にも適していますし、伝統的に消化器系のサポートとしても用いられてきました。近年は含有率の高い精油成分のβ-カリオフィレンにはカンナビノイド受容体タイプ2(CB2)活性化作用があることが報告されており、鎮痛作用や免疫機能の正常化などの働きも期待されています。
Contents
ブラックペッパー(黒胡椒)とは
ブラックペッパーの特徴・歴史
テーブルスパイスとして日本でも親しまれているブラックペッパー。あまりスパイス類を使用しないというお宅でも一味もしくは七味唐辛子と胡椒の2つは常備されていることが多いのではないでしょうか。シンプルな味付けの代名詞のように“塩コショウ”が使われる事もありますし、世界的に使われているスパイスの代表格・王様と言っても過言ではない存在ではないでしょうか。加えると味がぐっと引き締まるスパイシーな辛みは勿論のこと、香りの良さも胡椒の魅力であり、肉や魚の生臭さを消すにも欠かせませんよね。
そんな香辛料としてお馴染みの胡椒はコショウ科コショウ属に分類される蔓性植物で、学名Piper nigrumという種の果実部分です。スパイスとして使用する場合はブラックペッパーやホワイトペッパーなど見た目・風味が異なる“コショウ”が存在していますが、実はブラックペッパーもホワイトペッパーも同じ植物の果実が原料。違いはコショウの身の収穫時期と加工方法だけなんです。とは言え別の植物が“ペッパー”と呼ばれているケースもあり、例えばジャワペッパーとも呼ばれている近縁種のクベブ(キュベブ)が増量剤もしくは辛味を抑えるために加えられた胡椒があったり、カリフォルニアペッパーもしくはポブレ・ロゼと呼ばれるウルシ科植物(学名:Schinus molle/和名:コショウボク)の果実をピンクペッパーと呼ぶこともあります。
ところで、胡椒と言えば「香辛料の王様」とも称され、金と同等以上の価値だったなどの逸話が語られることのある香辛料ですよね。原産地はおそらくインドだと推測されていますが、紀元前からインドの主要輸出品として扱われ、古代ギリシアやローマでも胡椒が使用されていました。古代ローマでは金と同等の価値があるとも言われ、中世ヨーロッパでは税金の代わりにコショウを納めても良いとされるほど貴重なスパイスとして重宝されてきた歴史があります。胡椒貿易の中継ぎをしていたヴェネチアの人々は胡椒を「天国の種子」と呼ぶこともあったそうですし、十字軍遠征や大航海時代は胡椒を始めとする香辛料・その独占権獲得が目的だったという説もあるほど。千年以上もの間ヨーロッパの人々にとって垂涎の的だったと言えるでしょう。胡椒が好まれたのは長期保存された肉などの風味を良くしてくれることに加え、貴重な香辛料=富の象徴であり、薬用植物としての力も持ち合わせていたためと考えられています。
原産地であるインドや、その西側の中国など東洋圏ではヨーロッパほど胡椒は高値ではありませんでした。とは言え雑に扱われていたわけではなく、抗菌・防腐性や風味が評価された西洋に対し、東洋では薬用植物もしくは生薬として大切にされてきた歴史があります。原産国インドでは伝統医学アーユルヴェーダの中で胡椒は薬として活用されてきましたし、中国でも生薬として泌尿器系や肝臓・消化器系の不調などに処方されていました。中国から胡椒を伝えられた日本でも、伝来当初は薬(生薬)として扱われていた事が分かっています。現代ではブラックペッパーやホワイトペッパーを胡椒として扱うことはほぼありませんが、辛味成分であるピペリンの働きなどが報じられ冷え性対策や代謝向上によるダイエット効果などを持つ可能性がある食品としても注目されていますね。精油にはピペリンは含まれていないものの、芳香成分の働きからも健康サポート効果が期待されています。
コショウの種類について
胡椒にはブラックペッパーやホワイトペッパーなど色の違うものがありますが、これはコショウ果実の収穫時期や加工方法によって外見の色や香りが異なっています。ブラックペッパー(黒胡椒)は未熟うちに胡椒の果実を収穫し、天日乾燥させたもの。完熟後に収穫して外皮を剥いたものはホワイトペッパー(白胡椒)、外皮を剥かないまま機械乾燥させたものがピンクペッパー(赤胡椒)に、未熟果を摘みとった後に塩漬けもしくは短期間機械乾燥させるとグリーンペッパー(青胡椒)になります。ちなみに胡椒の果実は未熟なうちは緑色、完熟すると赤く色付くという性質がありますよ。
食品・香辛料としてのコショウは用途似合わせて製法を変えられていますが、精油となると少々話は別。精油はホワイトペッパーやグリーンペッパーからも若干製造されているそうですが、採油量が多いこと・芳香が強いことからブラックペッパーが最もポピュラーとなっています。アロマテラピーの教本などを確認してもブラックペッパーのエッセンシャルオイルについては高確率で掲載されていますが、ホワイトペッパーやグリーンペッパーについての表記は見られません。
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香料原料データ
- 通称
- ブラックペッパー(Black Pepper)
- 別名
- コショウ、黒胡椒油
- 学名
- Piper nigrum
- 科名/種類
- コショウ科コショウ属/ツル性低木
- 主産地
- インド、スリランカ、マダガスカル、マレーシアなど
- 抽出部位
- 果実(未完熟状態で収穫し乾燥させたもの)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- ほぼ無色~淡黄色
- 粘性
- 低~中
- ノート
- トップ~ミドルノート
- 香り度合い
- 中~強め
- 精油成分
- β-カリオフィレン、リモネン、α-ピネン、δ-3-カレン、コパエン、α-フェランドレン
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア・ハウスキーピング・防虫
香辛料よりも更に刺激的な、ドライかつシャープな胡椒の香り
ブラックペッパー精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
ブラックペッパーの精油は香辛料として使われる黒胡椒と比較すると、ドライでスパイシーさを強く感じる香りがします。どことなくウッディな印象もある刺激的な香りは心を刺激して活性化させ、やる気や活力を高める手助けが期待されています。精神的な疲労感や眠気を軽減してくれる香りとして、気合を入れたい朝や仕事中のサポートとして香らせる方が多い存在。無気力・集中できない場合などにも合いそうです。またシャープでスパイシーではありますが、どこか優しい温かさのあるブラックペッパーの香りはマジョラムスイートなどと共に「心を温める精油」の一つとも称されています。ストレスや緊張が続いて心が疲れている時や、気持ちがひどく冷淡・無感動になっている時に、人間らしい優しさや温かみを取り戻す手助けをしてくれるという見解もありますよ。
成分的に見るとブラックペッパーの主成分と言えるβ-カリオフィレンにはストレスを和らげる働きがあることが報告されていますし、リモネンなども含まれているのでリラックスやリフレッシュに役立つと考えられます。ブラックペッパーはどちらかと言えば刺激や強壮が得意な精油とされていますが、弱気になっている時・自分の感情を抑えがちでフラストレーションが溜まっているような時にも適しているでしょう。刺激作用と共に心を温めることで活力や直感力を高めてくれるという説もありますよ。
禁煙のお供にも期待
ブラックペッパーの精油は気持ちをスッキリとさせる手助けをしてくれるだけではなく、タバコへの渇望を含む特定の喫煙禁断症状を抑制する可能性を持つ香りとしても期待されています。1994年の『Drug and Alcohol Dependence』には48人の喫煙者を一晩禁煙させた後、3つのグループに分けて蒸気を吸引させるというアメリカで行われた研究が掲載されています。この実験ではミント/メントールカートリッジ・ブラックペッパー・空のカートリッジの蒸気を吸引した3グループのうち、ブラックペッパーグループの被験者はタバコと不安への欲求が著しく減少し、ネガティブな感情や不安の身体症状が緩和されたことが報告されています。有効性が認められるほどの研究数はありませんが、この結果からブラックペッパー精油はタバコ代用品として禁煙サポートにも役立つのではないかと考えられています。
肉体面への作用と効果
ブラックペッパーは健胃・胃粘膜保護作用など胃腸の働きをサポートしてくれる精油としても利用されています。胃・肝臓・膵臓を含む消化器系全体を刺激することで機能を高めると考えられており、食欲不振や消化不良などの軽減、腸の働きを良くすることで腹部膨満感(やお腹がガスで張っている場合)や便秘改善にも期待されています。加えてブラックペッパーは心だけではなく「体を温める精油」とも称され、血行促進や加温作用を持つと考えられている精油でもあります。消化器系への働きかけと合わせて冷えによる腹痛や下痢に、神経・精神面への働きかけと合わせてストレス性の胃痛などの軽減にも繋がる可能性があるでしょう。成分的に見ても、ブラックペッパー精油の中で含有率の高いβ-カリオフィレン・リモネンは共に血管拡張作用を持つ可能性が示唆されています。
またβ-カリオフィレンにはカンナビノイド受容体タイプ2(CB2)と呼ばれるタンパク質を活性化することがチューリッヒ工科大学のJurg Gertsch博士らによって発見されており、CB2活性化によって鎮痛作用を発揮すると考えられています。2014年『European Neuropsychopharmacology』には炎症性および神経障害性疼痛のマウスモデルに、β-カリオフィレン(BCP)を投与することで鎮痛効果が見られたという研究報告も掲載されています。この実験ではマウスに対して経口投与していますから芳香浴やマッサージに使用した場合の作用については触れられていませんが、血行促進効果と合わせて冷え性・筋肉痛・肩こり・関節炎・リウマチや神経痛などの軽減にも繋がる可能性があるのではないかと期待されています。
そのほかβ-カリオフィレンは長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の篠原一之教授によって、卵胞期に嗅ぐことでエストロジェン分泌増進させPMS(月経前症候群)の症状を緩和する可能性があることも発表されている成分。ブラックペッパーの精油にはストレス軽減や血行促進作用など、PMSの悪化要因を抑制してくれる働きも期待できますから、女性のサポートとして取り入れてみても良いかもしれませんね。
デトックスサポートに
ブラックペッパー精油の主成分であるβ-カリオフィレンは血行を促進することで、新陳代謝を促す働きも期待されています。部落ペッパーの精油としても利尿作用や循環器刺激・毒素排出作用があると考えられており、体の循環が滞っていることに起因するだるさ・体の重さ・疲労感・むくみなど様々な不調の改善が期待されています。体全体の循環が良くなり代謝が整うことから、セルライトや肥満防止にも役立つとされています。精神面の作用と合わせてダイエット用として取り入れられることも少なくありませんが、刺激が強い精油のためマッサージに取り入れる場合には濃度に注意が必要です。
風邪・インフルエンザ対策に
ブラックペッパーの精油は殺菌・消毒作用や強壮作用を持つとされ、風邪やインフルエンザの予防や症状緩和にも有効とされています。体を温める働きに加えてリモネンやα-ピネンなど免疫力向上作用が期待できる成分も多く含まれていますので、疲労などから免疫力が低下していると感じる時のサポートとしても役立ってくれるでしょう。β-カリオフィレンが活発化を促すと考えられているカンナビノイド受容体2型(CB2)も、免疫機能に関連していることが多く報告されていることから、2010年『Expert Reviews in Molecular Medicine』にはβ-カリオフィレンがCB2に結合することで免疫系サポートに繋がる可能性を示唆した論文も掲載されています。そのほかブラックペッパー精油は体液循環を良くして利尿作用を持ち解熱に通じるという説や、鎮痛・抗炎症作用が期待できることから喉の痛みや咳などの症状軽減に役立つという説もあります。
その他に期待される作用
>皮膚利用について
ブラックペッパーの精油は抗菌・抗真菌作用が期待できることからニキビ予防や皮膚感染症対策に、血行促進作用が期待できることから筋肉痛や打ち身・しもやけの回復促進に役立つと考えられています。加えて2018年9月には、サイトカイン刺激ヒト皮膚線維芽細胞においてブラックペッパー精油はコラーゲンI、コラーゲンIII、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1の産生を有意に抑制したというdōTERRA社の研究報告が『Phytotherapy Research』に掲載されています。この結果からブラックペッパー精油に創傷治癒および代謝性疾患の治療に対する有効性が示唆されており、美肌保持やアンチエイジングの面でも注目されています。
ただしセルフケアの域では、皮膚への刺激性が強いことからブラックペッパー精油の使用は注意が必要。スキンケア用として利用されることはほとんど無い精油ですし、上記の研究報告についても有効性を断定する根拠には至りません。特に敏感な顔の皮膚などに対しての使用は避けたほうが無難でしょう。ブラックペッパー精油を皮膚に塗布するような場合、低濃度に希釈することでマッサージオイルやバスアロマに活用するのが主。打ち身の回復促進やセルライト予防・痩身マッサージ用として、冷え性の方や筋肉痛の軽減用として入浴時に活用されることはあります。この場合も敏感肌の方・何かにかぶれた軽減のある方は段階的にパッチテストを行い、肌の様子を確認してから使用して下さい。
ブラックペッパーが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- やる気・前向きさが欲しい
- 無気力・無感動
- 集中力を高めたい
- 感覚や感性を高めたい
- 不安・弱気・悲観的
- ストレス・神経疲労
- 欲求不満・抑圧感に
- 心が冷めていると感じる
【肉体面】
- 消化不良・食欲不振
- 下痢・便秘・腹部膨満感
- 血行不良・冷え性
- 神経痛・関節痛・リウマチ
- 筋肉痛・肩こり・腰痛
- 風邪・インフルエンザ予防
- むくみ・セルライト予防
- ダイエットサポート
ブラックペッパーの利用と注意点について
相性の良い香り
ブラックペッパー精油は柑橘系・スパイス系の香りと相性が良いです。ドライでメンズライクな香りが好きな方であれば、樹木系や樹脂系の香りと組み合わせる方も多いようです。単体でも十分にインパクトのある香りですが、意外とどの香りでもマッチするのが特徴と言えるかもしれません。ブラックペッパー精油は芳香が強いので、組み合わせる香りよりもブレンド時には少量ずつ加えることがコツ。
ブラックペッパーのブレンド例
- 集中力を高めたい時に⇒ユーカリ、ローズマリー、タイム
- 前向きになりたい⇒バジル、リツェアクベバ、ローベジ
- 冷え性軽減に⇒ジンジャー、フランキンセンス、ライム
- セルライト予防に⇒ジュニパー、マジョラム、サイプレス
- ダイエット促進に⇒グレープフルーツ、レモン、パチュリ
- 風邪が気になる時期に⇒シナモン、アジョワン、バルサム
ブラックペッパー精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 皮膚刺激があるため、敏感肌の方は芳香浴でも注意して利用しましょう。
- 腎蔵・肝臓に疾患がある方は使用を控えてください。
- 刺激の強い精油のため、使用量や使用頻度が多くならないようにしましょう。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
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参考元