ストレス・不安ケアに
レモンバームは属名からメリッサとも呼ばれる植物で、ヨーロッパでは定番ハーブの一つ。レモンのような爽やかさと、蜂蜜のような甘さを含んだハーバルな香りが特徴です。鎮静・抑うつ・抗不安作用が期待されており、ストレスを感じている方のサポーターとして使われます。女性ホルモンの変動によって起こる、メンタル面の不調軽減にも取り入れられることがある精油です。

Contents
レモンバーム/メリッサとは
レモンバームの特徴・歴史
レモンのようなスッキリさもありつつ、ハーバルで穏やかな印象の香りのレモンバーム。呼び名の由来でもあるレモンよりも落ち着いた香りということもあり、バス用品や化粧品、室内芳香剤などでも“レモンバームの香り”と表現されている商品は結構あります。リラックス系のハーブティーとしても親しまれていますし、料理用ハーブとしても活用されています。ミントのようにアイスクリームの上に添えられていることもありますし、サラダドレッシング、肉や魚の風味付けにまで幅広く使われています。
そんなレモンバームは、植物としてはシソ科に分類されています。同属ではないもののミントとイメージが違いことから、和名では香水薄荷(コウスイハッカ)や西洋山薄荷(セイヨウヤマハッカ)と呼ばれています。原産はヨーロッパ、地中海沿岸地域と考えられています。属名や呼称に使われている“メリッサ(Melissa)”という言葉も、語源はミツバチを意味するギリシャ語のμέλισσα。由来はハチミツを採取するための蜜源植物として、レモンバームが使われていた歴史にあるようです。
古代ヨーロッパには蜂蜜以外の糖源が無かったという説もあるように、人々にとって甘いものは貴重。レモンバームは繁殖力が強く、耐寒性に優れている育てやすいハーブ。そして花はミツバチを引き寄せてくれますから、古代から人々に親しまれてきたのでしょう。紀元前から栽培が行われていた、古代ギリシアでは既にレモンバームを蜜源植物として利用していたという説もあります。
レモンバーム(メリッサ)は古代から現在に至るまで、自然医療・民間療法などで活用されているハーブでもあります。古代ギリシアの医者ディオスコリデスや、古代ローマの大プリニウスなどは、レモンバームを止血作用や解毒作用のある薬草として挙げています。17世紀に活躍し”イギリスのハーブ療法の父”と称されるニコラス・カルペパーはレモンバームの持つ心(精神)への癒やし効果に注目したとも伝えられています[1]。10世紀前後にはレモンバームを「若返りの薬草」として用いていた、医師パラケルススはレモンバームを「生命のエリキシル(不老不死の万能薬)」と呼んだなど、万能薬と捉えられていたエピソードも多くありますよ。
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レモン様の芳香を持つハーブの精油の種類
植物には数多く「レモンのような」と称される香りを持つものが存在しています。
日本で精油原料として特にポピュラーなのは、レモンバーベナ、レモンバーム(メリッサ)、 レモングラスの3種類。レモンバームはハーバルな印象が、レモングラスは清涼感・レモン感が、レモンバーベナはフローラルな印象が強い…と同じ「レモンのような香り」でも雰囲気は異なります。
また、レモンのような香りがある点は共通していても、それぞれ原産地も植物分類上も離れた存在。ポピュラーな以下3種は以下のようになっています。
レモンバームは丈夫で繁殖力も高い植物のため、現在では原産地であるヨーロッパを中心に北米や北アフリカなど広い地域で栽培されています。日本でも育てている方は珍しくないでしょう。ハーブとしては入手しやすく、お値段もお手頃なのですが、レモンバーム精油となると話は別。1ポンド(約454g)のレモンバーム精油を作るのに約3トンの原料植物が必要[2]であると称されるほど採油率が低いため、かなり貴重で高価な精油に分類されます。
そのためレモン、レモングラス、レモンバーベナ、シトロネラなどの精油や合成香料と混ぜられることが多いと指摘されており、純正(100%)ピュアオイルの入手は困難とも言われています。特にマッサージやスキンケアなど肌に直接付ける利用法を考えれている場合は、高くとも信頼できる商品を選ぶことをお勧めします。
香料原料データ
- 通称
- レモンバーム(Lemon balm)
- 別名
- メリッサ(Melissa)、香水薄荷(コウスイハッカ)、西洋山薄荷(セイヨウヤマハッカ)
- 学名
- Melissa officinalis
- 科名/種類
- シソ科コウスイハッカ属/多年草
- 主産地
- フランス、ドイツ、アイルランド、スペイン、イタリア
- 抽出部位
- 地上部(花と葉)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 淡黄色~オレンジ色
- 粘性
- 低い
- ノート
- ミドルノート
- 香り度合い
- 中~強め
- 精油成分
- シトラール(ゲラニアール、ネラール)、β-カリオフィレン、シトロネラール、ゲラニオール、ゲルマクレンDなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア・ハウスキーピング・防虫
レモンとハーブをミックスしたような、穏やかな香り
レモンバーム/メリッサ精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
レモンバーム(メリッサ)は鎮静作用・抗うつ作用・強壮作用を兼ね備えた精油として、ストレス対策や心の不調の軽減に用いられることがある精油。心のバランスが乱れていると感じる時や、イライラや気持ちの落ち込みなど自分で上手く感情のコントロールが出来ないと感じる時に役立つ香りの一つに数えられています。
成分的に見た場合も、レモンバーム精油はシトラールという芳香成分の含有率が高くなっています。シトラールとはゲラニアールとネラールを合わせて指す呼称で、レモンのような芳香の元でもあります。このレモン臭(シトラール)には抑うつ効果がある可能性が数十年以上前から報告されています[3]。また、2022年には“レモンバーム(Melissa officinalis)のエッセンシャルオイルとシトロネラールに不安関連症状の調節効果が見られた”という研究も発表されています[4]。
現時点で、人間がレモンバームの芳香を楽しむ程度でどの程度の効果を発揮するかは解明されていません。ただ、こうした研究の結果もあり、民間療法上の効能・思い込みによる効果だけではなく、何らかの有用な働きかけをしてくれる可能性はあると言えるでしょう。不安関連症状を落ち着けてくれる働きからか、ストレス性の不眠緩和、睡眠の質を高めるサポートとして用いられることもあります。
女性特有のメンタル不調にも期待
レモンバームにはシトラールやシトロネラールに加えて、β-カリオフィレンなどの精油成分も含まれています。シトラールやシトロネラールは鎮静作用や抗不安作用が期待されている成分ですし、β-カリオフィレンは黄体ホルモンの血中濃度が変化する時期における不安や精神的不調を有意に改善した[5]という報告もあります。
以前からレモンバームの精油は、緊張・不安・ショック・パニックなどを鎮めてリラックス状態へと導く、と考えられていることから女性領域での精神的不調にも利用されてきました。現在でも、こうした研究発表もありPMS(月経前症候群)やマタニティーブルーなど、女性特有の不調軽減に役立つ可能性があると注目されています。
肉体面への作用と効果
レモンバーム精油は精神・神経面のサポートに高い効果が期待されていることから、神経性の不調全般の軽減に取り入れられています。特にストレス性の胃痛や吐き気・消化不良など消化器系の不調ケアに用いされることが多く、不安関連症状軽減について行われた研究でも不安関連の身体症状(胃腸および心臓関連の症状)への有用性が示唆されています[4]。
また、シトラールには鎮静作用以外に抗炎症作用や鎮痛作用も期待されています。芳香吸引による有用性は示されていませんが、痛みや炎症を抑える可能性は報告されています[2]。レモンバームは伝統的に頭痛のケアにも使われてきましたし、月経前の気分症状から腰痛や生理痛まで幅広い緩和が期待できるとしてPMSの軽減サポート精油にレモングラスが挙げられる事もあります。
花粉症軽減にも期待
レモンバーム精油の代表成分と言えるシトラールには、抗炎症作用が期待されていることから花粉症などのアレルギー対策アロマとしても注目されています。ただし、お値段は高め・偽和が多いという指摘もありますから、同じくシトラール含有率の高いレモングラスやリツエアクベバ(メイチャン)などの方が、デイリーに使いたい場合は適しているでしょう。
その他に期待される作用
肌・頭皮への働きかけ
レモンバームに含まれているシトラールは抗菌・抗真菌作用が高いことが認められており、皮脂分泌調節にも期待されています。このためシトラール含有率の高い精油は脂性肌のケアやニキビ予防・水虫対策などに適した精油と考えられています。また、口唇ヘルペスの痛みと治癒時間を軽減するのに効果的だったという報告もある[6]ことや、抗炎症作用・抗アレルギー作用を持つのではないかと期待されていることから湿疹や虫刺されなど様々な皮膚トラブルのケアに使用する方もいらっしゃいます。
しかし、シトラールは皮膚刺激を起こす危険性のある成分の一つ。肌へ使用する場合は低濃度(1%未満)に希釈することが推奨されています。低濃度で使用した場合でも、敏感肌の方や炎症部位には刺激が強く、逆に炎症の原因となってしまう可能性もあるため注意が必要。加えてアルデヒド類は酸化することで刺激性物質に変化するという特徴もあります。スキンケアやマッサージなど、皮膚に直接つくような利用をする場合は、事前にパッチテストを行い、注意深く使用するようにしましょう。
レモンバームが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- 不安・気持ちの落ち込み
- 緊張・ストレスを感じている時に
- イライラしやすい時に
- メンタルバランスを整えたい時に
- 睡眠サポートの香りとして
- 女性特有の精神的な不調に
【肉体面】
- ストレス性の不調緩和に
- 吐き気・胃痛の緩和に
- 生理痛・頭痛の緩和に
- 脂性肌・ニキビケアに
- 水虫予防・再発防止ケアに
レモンバームの利用と注意点について
相性の良い香り
同じ印象を持つフローラル系・ハーブ系・柑橘系の精油と相性が良いとされていますが、系統を選ばずブレンドに使いやすい精油です。フローラル系やオリエンタル系の精油で香りが甘すぎる・濃厚すぎると感じる時に加えると、レモンなどと同じ様に香りに軽さを出すことも出来ますよ。
レモンバームのブレンド例
- 精神的な疲労感に⇒ゼラニウム、ローズ、フランキンセンス
- 気持ちの落ち込みに⇒イランイラン、ホーリーフ、ニアウリ
- 安眠サポートに⇒オレンジ、スパイクナード、キンモクセイ
- 花粉症対策として⇒ロザリーナ、ユーカリ、タナセタム
- 肌トラブルのケアに⇒カモミール、ラベンダー、エレミ
レモンバーム精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 高濃度・長時間の使用は頭痛を引き起こす可能性があります。
- 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- [1]History Of Lemon Balm; How The Ancients Used It
- [2]Melissa Essential Oil – The Complete Uses and Benefits Guide
- [3]Potential antidepressant effects of lemon odor in rats
- [4]Lemon balm (Melissa officinalis L.) essential oil and citronellal modulate anxiety-related symptoms – In vitro and in vivo studies
- [5]女性ホルモンに依存した脳機能病態とその新たな治療法
- [6][Efficacy of plant products against herpetic infections]