様々な活用が期待される「精油の女王」
バラの精油(エッセンシャルオイル)と言えば、このローズオットー。アブソリュートと比べると少しグリーン感が強くライトな香りがあり、残留溶剤などの懸念が少ないことからスキンケアにもよく使用されています。採油率が極めて低いためデイリー使いには敷居が高い精油ですが、抗うつ作用や女性特有の精神的不調軽減に役立つ可能性も示唆されています。芳香にしろスキンケアしろ「とっておき」の時の精油と言えるかもしれません。

Contents
ローズ・オットーとは
ローズ・オットーの特徴・歴史
さり気なくふんわりと香るバラの香りは女性的であり、かつ女性を魅了して止まないもの。そんな薔薇(バラ)の花びらから蒸留されたローズオイルは「女性のための精油」とも称されるように、香りだけではなく女性の体に対しても優れた作用を発揮してくれる精油と考えられています。古くは肌を若く保つ“若返りの薬”や“不老長寿の媚薬”として女性の憧れであったとも言われていますね。現在確認されているだけでもローズには300以上の成分が含まれており、10~15%くらいは未知の微量成分なのだとか。この非常に多い組成成分はローズの素晴らしい香りを構成するしているだけではなく、人の精神・肉体面のサポートとして優れた特性を持つ可能性も示唆されています。
ちなみに、アロマテラピーの歴史にも必ずと言って良いほど“水蒸気蒸留法を確立した人物”として登場するアラビアの哲学者で医学者のイブン・シーナー。彼が初めて蒸留に用いたのがバラの花だったことから、はじめに確立されたのはローズ精油だったとも言われています。精油を抽出した際に出来る芳香蒸留水(ローズウォーター)も治療に取り入れていたのだとか。精油1滴がバラの花200個分と言われるほどバラの採油率は非常に低く、精油の中でもトップクラスに高価な部類に含まれています。水蒸気蒸留法が確立された約1000年前には、ローズ精油は金などの貴金属・宝石類よりも貴重なものだったのではないでしょうか。現在でも最高級のローズオットーは「液体の宝石」と呼ばれています。
ローズ・アブソリュートとローズ・オットーの違い
日常的に使用されている「ローズ(薔薇/バラ)」という言葉はバラ科バラ属に含まれる植物の総称、もしくはその中で園芸用として栽培された種類を指す言葉として利用されています。バラ属の分類・種数については様々な見解があり専門家でも意見が別れていますが360以上、さらに園芸品種が派生していますから品種数ともなれば無数と言っても過言ではなのかもしれません。とは言え、香料用ローズオイルは原料植物ではなく“ローズ・オットー(Rose otto)”と“ローズ・アブソリュート(rose absolutes)”の2タイプに大別されています。それに加えて近年は超臨界二酸化炭素抽出(CO2蒸留法)による“ローズ・CO2エキストラクト”も生産されていますが流通量はまださほど多くありません。
ローズ・オットーの“オットー”は水を意味するトルコ語が由来で、バラの花弁から水蒸気蒸留されたものを指します。対してローズ・アブソリュートは呼び名の通り溶剤を使って抽出したもの。アブソシュートは“精油(エッセンシャルオイル)”には含められないため、厳密に言えばバラの精油=ローズ・オットーとなります。
とは言えローズ・アブソリュートも精油のような感覚でスキンケアやアロマテラピーでも取り入れられていることが多く、低濃度に希釈した場合はさほど問題はないとされています。溶剤抽出やCO2蒸留法の方が熱によって精油成分が壊されないこと、揮発しない芳香成分も取り出すことが出来ることから植物そのものに近い香りが得られるという特徴があります。また、ローズオイル類は採油率が非常に低くお高めですが、溶剤抽出のほうが採油率が高いので、若干お安めに販売されていることもあります。このため香りを楽しみたいという場合であればローズ・アブソリュートの方がメリットが大きいとも言えます。
ただし、アブソリュートは抽出に用いる溶剤の関係から皮膚利用を懸念する声もあります。水蒸気蒸留の場合は化学薬品の残留を心配する必要がないことから、アロマトリートメントやスキンケアなど肌に塗布するような使い方をする場合には安全性が高いと言えます。人に対する働きかけについての研究も多くオットー(精油)の方が行われていますので、メンタルサポートやスキンケアなどのメリットも期待して取り入れる場合はローズオットーの方に軍配が上がりそうですね。とは言え、ローズオイルはゼラニウムやパルマローザ・合成香料による偽和が多いことも指摘されているため購入時には注意が必要。ローズオイルは低温で凝固する性質があり、ローズオットーも科学的処理をされていないものであれば10℃程度になる粘度が高まる・半固形状になります。冷やしても変化しないものは品質が良くない可能性が高いとされています。
ローズという言葉がバラ属植物の総称ですから、バラ属の植物から採油されれば全てローズオイルになります。しかし、精油・香料として使われているのは
- Rosa × damascena
ダマスクローズ/ブルガリアンローズ - Rosa × centifolia
キャベッジローズ/プロヴァンスローズ
の二種類が主となっています。古くは抽出方法に合わせて使用する品種が決められていた時期もあるようですが、現在は純粋に抽出法によってアブソリュートとオットーが区別されています。メーカーによっては「ローズ・ダマスク オットー」のように種類と抽出法がひと目で分かる商品名になっているものもありますよ。ちなみにローズ・ド・メイ(Rose de Mai)と呼ばれているのはキャベッジローズ(Rosa × centifolia)系統。
香料原料データ
- 通称
- ローズ・オットー(Rose otto)
- 学名
- Rosa centifolia
Rosa damascenaなど - 別名
- Rosa centifolia:キャベッジローズ、プロバンスローズ
Rosa damascena:ダマスクローズ、ブルガリアンローズ - 科名/種類
- バラ科バラ属/低木
- 主産地
- ブルガリア、トルコ、モロッコ、ロシアなど
- 抽出部位
- 花(花弁)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 淡黄色~オリーブ色
- 粘性
- 低い
- ノート
- ミドル~ベースノート
- 香り度合い
- 強め
- 精油成分
- シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、ファルネソール、リナロール、フェノール類(オイゲノールなど)、フェニルエチルアルコール、ローズオキシド類、そのほか微量成分多数
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア、防虫
エレガントかつグリーンな印象もある、フレッシュな薔薇の香り
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ローズ・オットーに期待される働き・効能
精神面への作用と効果
薔薇の香りは心を癒し幸福感をもたらす働きあると考えられており、ローズオットー・アブソリュートどちらもメンタル面のサポートとして優れた効果が期待されています。しかし芳香族アルコール(フェニルエチルアルコール)が全体の50%以上を占めるローズアブソリュートに対して、ローズオットーに含まれている芳香族アルコールは概ね1%未満。代わりにシトロネロールやゲラニオールの2つが多く含まれており、全体的にモノテルペンアルコール類の比率が高くなっています。ローズオットーに含まれているシトロネロールやゲラニオールは鎮静作用や抗うつ作用が期待されている成分ということもあり、ストレスや気分の落ち込みに対しての緩和効果が期待されています。
ローズ精油の暴露によってマウスに抗不安薬様効果が見られたことが『Pharmacology Biochemistry and Behavior』に発表されており、2014年には千葉大学からもローズオイルによる嗅覚刺激が生理学的および心理的緩和を誘発することを示したというマウス試験の結果が『Complementary Therapies in Medicine』に発表されています。人に対しての研究も行われており2009年の『Natural Product Communications』にはローズオイルの芳香吸引によって自律神経興奮の減少が示されたことが、2012年『Complementary Therapies in Clinical Practice』にはローズオットーとラベンダー精油のアロマセラピーを行った産後女性グループはコントロールグループに比べ産後うつ病スケール(EPDS)および全般性不安障害スケール(GAD-7)が大幅に改善されたことが報告されています。
その他にもローズオイルによってリラックス効果や不安レベルの低下効果を観測した報告はいくつも存在しており、ストレスや不安の軽減・うつ病の予防や治療に役立つ可能性が示唆されています。現時点で医学的に有効性が認められているものではありませんが、メンタルサポートとして期待できる要素はあると言えるでしょう。また、伝統的自然療法・民間療法の中でローズの精油は高揚作用を持つ精油の一つにも数えられています。精神的に傷ついた時や自信喪失・無気力感に苛まれている時に、再び前向きになれるパワーを与えてくれるなんて表現されることもありますよ。ストレスや緊張で強張り疲弊してしまったときだけではなく、前向きに頑張るために背中を押して欲しい時や幸福感を取り戻すサポートにも役立ってくれるかもしれません。
肉体面への作用と効果
ロースオットーは抗不安・抗ストレス作用を持つ可能性がある精油。このため神経性の胃痛や腹痛・下痢などの軽減に役立つと考えられます。研究では自律神経興奮の減少が示されていますから動悸や息切れ・血圧上昇を抑える働きも期待できるでしょう。また、イスファハン医科大学付属病院で手術後の子どもに対して行われた二重盲検プラセボ対照臨床試験では、ローズオイルを吸入したグループの子どもに痛みのレベルが大幅に減少したことが2015年『Iranian Journal of Nursing and Midwifery Research』に掲載されています。ローズオイルが脳を刺激してエンドルフィンを放出したことでモルヒネ様作用(鎮痛、鎮静)が発現した可能性も示唆されています。ハーブ療法の中でも鎮痛作用を持つ精油として扱われていますから、関節痛などの痛みのケアに取り入れてみても良いかもしれません。
そのほかローズオットーに多く含まれているシトロネロールやゲラニオールなどのモノテルペンアルコール類には抗菌作用を持つことが報告されています。オイゲノールも優れた抗菌・抗真菌・抗ウィルス作用を持つと考えられている成分。ダマスクスローズ(R.damascena)精油の評価試験でも抗菌作用・殺菌活性が認められており、人体に合う影響を及ぼす菌類の増殖を抑える働きが期待されています。自然療法の中でローズオイルは血液浄化作用や免疫調整作用を持つと考えられていることと合わせて、風邪やインフルエンザ予防・花粉症の軽減などに使われることもあります。高価な精油のためデイリー使いには敷居が高いですが、一滴加えるだけでもほんわりと癒される薔薇の香りが楽しめますから、ここ一番という時は低濃度で室内に拡散しゆったりした気分で芳香浴をしても良いでしょう。成分的には防虫・昆虫忌避(虫除け)にもなると考えられます。
女性領域でのサポートにも期待
自然療法の中でロースオイル類は女性機能のサポートにも適した存在・子宮の強壮に役立つ精油として扱われてきました。子宮の強壮作用があるかは分かっていませんが、ローズ精油が女性のサポートに役立つ可能性を示唆した研究報告はあります。2014年に『Journal of Obstetrics and Gynecology』に公開された月経困難症女性を対象にしたランダム化比較試験では、アーモンドオイルでセルフマッサージをしたグループよりもローズ精油を使ってセルフマッサージをしたグループのほうが痛みの重症度が有意に低くなったことが示されています。そのほかにも月経痛のレベル低下が見られたというヒト試験がいくつかありますし、脳に働きかけて鎮痛作用を発揮する可能性も示唆されていますから、生理痛対策に取り入れてみる価値はありそうですね。
また、抗不安作用やリラックス効果などメンタル面でのサポートに優れた働きが期待できることから、月経前症候群(PMS)や更年期障害による精神的不快症状の軽減にも活用されています。ゼラニウムと同様に女性ホルモン様(エストロゲン様)作用をもつ成分は含まれないか、含まれていてもごく微量であると考えられますから、ホルモン様作用を持つ可能性がある精油を使うのは不安という方にも適しているでしょう。その他に性的機能障害の改善を示唆した報告があり、伝統的に催淫作用を持つと伝えられることからナイトライフのお供として使用する方もいらっしゃるようです。
その他に期待される作用
>肌への働きかけ
ローズオットーは高い美肌効果が期待されている精油の一つ。スキンケアにおすすめの精油として紹介される機会も多い存在ですし、石鹸やスキンケア製品・化粧品類などにも広く配合されています。ローズ・オットーのように残留溶剤の懸念がないことはもちろんのこと、シトロネロールやゲラニオールなどの含有率がアブソリュートよりも多いため皮膚を柔らかくする働きが高いという説もあります。化粧品類にはラベンダーと同じく皮膚に対する柔軟作用や保護作用を持つ“エモリエント成分”として扱われており、保湿作用も持つと考えられています。動物実験ではローズオイルがケラチノサイト分化を刺激したという報告もあり、乾燥肌ケアや皮膚バリア強化に役立つのではないかと注目されています。
ローズオットーは抗炎症作用を持つことから酸化による皮膚のダメージを予防する・弾力を回復するなどお肌の若返りにも期待されています。アンチエイジング用としても人気がある精油の一つであり、収斂作用や抗菌作用を持つ成分が含まれていることから脂性肌ケアやニキビ予防にも使用されています。こうした万能とも言える働きが期待されていることからローズオットーは「乾燥肌・脂性肌・成熟肌・敏感肌と肌タイプを選ばずに使用でき、多くの人の肌を肌をベストコンディションに導いてくれる精油」と称されることも。とは言え皮膚に対しての有効性についてはさらなる研究が必要と結論付けられているものが大半で、全ての方の肌に有益だと言い切れるものでもありません。使用する場合はパッチテストを必ず行うようにして下さい。
手作り香水・虫除けにも
抗炎症作用から虫刺されに良いとも言われていますが、ローズオットーの主成分であるシトロネロールやゲラニオールには昆虫忌避作用が報告されている成分でもあります。香りを纏うことで虫除けとして役立ってくれる可能性もあります。贅沢にローズオイルを蚊除けに利用するということはあまりないでしょうが、手作り香水などを作る時に若干の虫除け効果が期待できるのは嬉しいのではないでしょうか。市販されている虫除けはティーツリーやペパーミントなどの清涼感ある香り、もしくはハーバル調の香りの物が多いので、フローラル調の香りが好きな方は香水兼虫除けを自作してみても良いと思います。
ローズ・オットーが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- 気分の落ち込み・抑うつ
- ストレス・不安・緊張
- 精神的な疲労感
- 無気力・自信喪失
- 自分を労りたい
- 嫌なことから立ち直りたい
- 幸せな気分になりたい
【肉体面】
- ストレス性の不調・痛みに
- 神経性の動悸・息切れに
- 関節炎や筋肉痛などのケアに
- 更年期障害の予防や軽減に
- 月経前症候群(PMS)・生理痛に
- 肌のアンチエイジングに
- 乾燥肌ケア・ニキビ予防に
ローズ・オットーの利用と注意点について
相性の良い香り
フローラル系・オリエンタル系の香りと相性が良いとされています。ローズ・アブソリュートよりもグリーンな印象が強いので、爽やかな印象のハーブ系とも組み合わせやすいでしょう。甘さやフローラル感が全面に出るのが苦手な方は柑橘系とブレンドすることでもライトな印象になります。
ローズ・オットーのブレンド例
- メンタルサポートに⇒ベルガモット、ゼラニウム、オレンジ
- 女性特有の不調軽減に⇒クラリセージ、ジャスミン、ネロリ
- 肌のエイジングケア⇒ラベンダー、パルマローザ、ベンゾイン
- 乾燥・肌荒れ予防に⇒サンダルウッド、パチュリ、カモミール
ローズ・オットー(精油)の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- 高濃度での使用・長時間の使用は控えてください。
- 低温で固まる性質があります。固まってしまった時は手のひらなどゆっくりと温め、元に戻して利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- Rose Essential Oil Uses and Benefits
- Therapeutic efficacy of rose oil: A comprehensive review of clinical evidence
- Relaxing effect of rose oil on humans.
- The effects of clinical aromatherapy for anxiety and depression in the high risk postpartum woman – a pilot study.
- The effect of self-aromatherapy massage of the abdomen on the primary dysmenorrhoea
- Dermocosmetics for dry skin: a new role for botanical extracts.