“和らげる”サポートにも期待
バジルを原料とした精油にはいくつかのケモタイプが存在していますが、リナロールが多く扱いやすい「バジル・リナロール」が最もポピュラー。食材・ハーブとして馴染みのあるバジルよりも、少し甘くハーバルな香りの精油です。リナロール含有率が高いことから、ストレス対策やリラックス、様々な不調を“和らげる”目的で使われることもあります。
Contents
バジル(リナロールタイプ)とは
バジルの特徴・歴史
ピザの具材やジェノベーゼソースなどイタリアンで目にする機会も多いバジル。イタリア語のバジリコという呼び方も定着していますし、醤油漬けにするなど和食的な活用法をしている方もいらっしゃいますよね。シソの代用品としても使用されているので、日本人にとっては馴染みやすいハーブだったと言えるのかもしれません。様々な品種のあるバジルですが、精油原料として用いられるのは主に“スイートバジル”もと呼ばれる学名Ocimum basilicum。料理にもよく使われている種です。
バジルは洋食に多く使われており、ヨーロッパのハーブという印象を持たれがちな存在。ですが、実はバジルの原産地については諸説あります。ユーラシア大陸から北アフリカまでの広い範囲でバジルは古くから活用されてきました。人類が使用してきた歴史が古く、また交雑しやすいこともあって、明確に発祥の地は分かっていないようです。インドで古代からアーユルヴェーダハーブとして医療に用いていた、紀元前1,000年頃にはエジプトで防腐剤として使われていた、アレキサンダー大王がインドから持ち帰ったことでヨーロッパに広まった、などの逸話もあります。
古くから栽培されていた植物で、交雑も起こりやすいため、バジルは種類が豊富。近年までバジルの品種や命名法について喧々囂々状態だったそうですから、どこまでがスイートバジルのことなのか定かでない部分もあるのでしょう。スイートバジルの栽培品種にはスパイシーな風味と甘い香りがあるタイバジル(ホーラパー)や葉が大きなレタスバジル、交雑種にはレモンバジルなどがあります。また、インド伝統医学アーユルヴェーダで生薬として大切にされてきたホーリーバジル(トゥルシー)のように、別種もありますよ。
ちなみに、バジルという呼び名や種名に使われている“basilicum”という言葉は、王を表すラテン語のbasiliusとギリシャ語のbasilikón phutónが語源[1]。料理に広く利用されることから、フランス語ではハーブの王様「l’herbe royale(エルブ・ロワイヤル)」と呼ぶこともあります。しかし、古い時代にはバジルには故人の旅立ちをサポートする、乾燥バジルの粉を吸い込むと頭のなかにサソリが沸く、不純な人が手を触れると枯れるなど土地や自体によって様々な伝承があったことも分かっています。それだけ人々にとって神秘的な植物だったのかもしれませんね。
日本へバジルが伝わったのは江戸時代。伝来当初の日本ではハーブや香味野菜として使用することはなく、種子を目のゴミ取りに用いたことから「メボウキ」という和名が付けられました。バジルシードはダイエット食材として話題になった時期もあるように、水につけておくとゲル状の膜を形成します。昔の人は、それを目の汚れを取るのに使っていました。
Advertisement
バジル精油の種類について
このページでご紹介するバジル・リナロールという精油は、リナロールを多く含んでいるケモタイプ精油という扱いがなされています。ただ、同じくケモタイプが多いタイムのように、“コモン・バジル”という精油が一般に流通しているわけではありません。リナロールタイプがバジル系精油の中では安全性が高く使用しやすいため、精油商品やアロマテラピーで単に「バジル」と呼ぶ場合はバジル・リナロールを指すのが一般的です。
同じスイートバジルから製造される精油としてはリナロールタイプ以外に“バジル・メチルカビコール”と呼ばれるメチルカビコール(エストラゴール)含有率の高いものがあります。メチルカビコールは抗痙攣作用や抗ストレスなどの働きが期待され、喘息など呼吸器系の不調に良いという説もある成分。ですが、毒性・発癌性危惧されている[2]ため、専門家の指示なく使うのは控えたい存在と言えます。このため精油も、小売での流通量は多くありません。
そのほかに、近縁種のレモンバジル(Ocimum × citriodorum)やホーリーバジル(Ocimum sanctum)からも精油は生産されていますが、流通量はごくわずか。国内ではほとんどお見かけしません。
香料原料データ
- 通称
- バジル・リナロール(Basil linalool)
- 別名
- バジリコ(Basilico)、スイートバジル(Sweet basil) など
- 学名
- Ocimum basilicum
(syn.Ocimum basilicum CT linalol) - 科名/種類
- シソ科メボウキ属/多年草(※地域により一年草扱い)
- 主産地
- エジプト、フランス、モロッコ
- 抽出部位
- 全草(花、茎、葉)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- ほぼ無色~黄色
- 粘性
- 低い
- ノート
- トップノート
- 香り度合い
- 強め
- 精油成分
- リナロール、1,8-シネオール、オイゲノール、テルピネン-4-オール、α-テルピネオール、カジネン、エストラゴールなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・防虫
スパイシーでありつつ甘さを含む、優しいハーバル調の香り
バジル・リナロール精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
呼び名の通り、バシル・リナロールの代表成分はリナロール(linalool)というモノテルペンアルコール類。製品によって含有率に差はありますが、概ね精油成分の50%以上を占めています。リナロールはスズランやラベンダーのような甘く少しスパイシーな芳香があり、鎮静作用や抗うつ・抗不安作用が見られたという研究報告もある成分[3]。
2018年『Molecules』には“ラベンダーのエッセンシャルオイルとリナロールは社会的嫌悪を逆転させ、抗うつ薬として作用する”という報告も[4]あり、ストレス対策やうつ病ケアなどメンタル面のサポートに期待されています。どの実験も有効性を認める段階ではありませんが、こうした研究報告や伝統的な利用法から、バジル・リナロールはストレスや精神的な疲労から思考がネガティブになっている時、情緒不安定・神経質になっている時などに適した精油
そのほかアロマテラピーやハーブ療法では、バジルの香りは心を刺激して活力を与える・元気づける働きもあると考えられています[1]。社会的嫌悪を逆転させる=ストレスや神経疲労の軽減・不安や自信喪失を鎮めるなどの働きも期待できますから、残業で疲れていたり、プレッシャーのかかる仕事で緊張状態が続いている方のサポートにも繋がるかもしれません。
肉体面への作用と効果
バジル・リナロールは鎮痙作用と消化促進作用を持ち、消化不良などお腹の不調の軽減に役立つ精油として伝統的に利用されてきました[1]。こうした働きを発揮する一端として、リナロールなどの鎮静作用によって交感神経の興奮を鎮め、副交感神経の働きを高めることで体をリラックスさせる働きがあると考えられています。ストレス・神経性の不調緩和にも効果が期待できるでしょう。ストレス性の頭痛・偏頭痛の緩和改善に適した精油と称されることもあります。
また、リナロールは抗菌作用や鎮痙・鎮痛作用や抗炎症作用を示唆した報告もある[5]成分。こうした働きも胃痛や下痢などの胃腸ケアに役立っている可能性はあるでしょう。呼吸器系の不調や、緊張性頭痛、筋肉痛や肩こりなどの軽減など様々なサポートも使われています。
風邪予防や呼吸器系の不調にも
リナロールや1,8-シネオール、オイゲノールなど、バジル・リナロールの精油には抗菌・抗ウィルス作用が報告されている成分が多く含まれています。このことから、ルームアロマとして香らせることで、空気をきれいに整えたり、風邪の予防にも高方期待できます。
加えて、1,8-シネオールは粘液溶解作用や抗炎症作用[6]が報告され、呼吸器系トラブルや花粉症ケアに役立つのではないかと注目されている成分。バジル・リナロール精油の芳香吸引による効果については認められていませんが、風邪っぽい時の初期症状ケア、気管支炎・花粉症対策に取り入れてみても良いかもしれません。
女性の体との関係
リナロールやメチルカビコール(エストラゴール)を含むことから、バジルリナロールは通経作用を持つのではないかという説もあります。精油成分のホルモン様作用や通経作用については医学的に断定されていませんが、安全のためにデリケートな期間の使用は控えたほうが良いでしょう。エストラゴールには遺伝毒性の懸念もありますから[2]、妊娠中および授乳中は自己判断での使用は避けてください。
その他に期待される作用
肌・髪への働きかけ
抗菌・抗真菌作用を持つ成分が多く含まれているバジル・リナロールの精油は、お肌をキレイに保つ働きがあると考えられます。そのほかリナロールや1,8-シネオールなど抗炎症作用が期待される成分が含まれているためか、肌の冷却作用があるという説もあります。しかし、1,8-シネオールは皮膚刺激性が指摘されている成分でもあります。敏感肌の方の場合は炎症を起こす可能性もありますから注意して利用してください。皮膚利用にはティーツリーやラベンダーなどの精油を利用したほうが無難でしょう。
虫除けにも
バジル・リナロールに含まれる1.8シネオールは昆虫忌避作用を持つ(虫が嫌がる香り)ことが報告されており、虫除け商品にも配合されている成分。リナロールも虫の種類は選びますが、蚊に対しては忌避剤として機能することが報告されています。このため蚊が気になる時期には芳香をデュフューザーなどで拡散したり、精油を希釈したスプレーを使うことで自然な虫除けに役立つと考えられます。抗菌作用によって空気もキレイに保ってくれますから一石二鳥かもしれませんね。
バジル・リナロールが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレス・緊張を感じる
- 興奮・イライラする
- 不安・気持ちの落ち込み
- 自信喪失・無気力感に
- 気持ちを落ち着かせたい
- フレッシュしたい時に
【肉体面】
- ストレス性の不調に
- お腹の不調緩和に
- 頭痛・偏頭痛の緩和に
- 風邪予防・初期症状ケアに
- 鼻・喉の不調緩和に
- 虫除けアロマとして
バジル・リナロールの利用と注意点について
相性の良い香り
レモンもしくはレモン様の香りと非常に相性が良いです。そのほかの柑橘系・ハーブ系・フローラル系の香りとブレンドしやすいでしょう。
バジル・リナロールは香りが強い精油ですから、ブレンドの際は少量ずつ加えるようにしてみて下さい。
バジル・リナロールのブレンド例
- ストレス軽減に⇒ネロリ、ベルガモット、レモンバーム
- 集中力アップに⇒レモン、ペパーミント、ローズマリー
- 頭痛の軽減に⇒ラベンダー、カモミール、マジョラム
- 呼吸器系の不調に⇒メイチャン、ヒソップ、オレンジ
- 虫除けに⇒シトロネラ、レモングラス、レモンユーカリ
バジル・リナロール精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- 長時間・高濃度での使用は控えましょう。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- [1]ALL ABOUT BASIL SWEET OIL
- [2]Estragole – Wikipedia
- [3]Linalool as a Therapeutic and Medicinal Tool in Depression Treatment: A Review
- [4]Lavandula angustifolia Essential Oil and Linalool Counteract Social Aversion Induced by Social Defeat.
- [5]Linalool bioactive properties and potential applicability in drug delivery system
- [6]1,8-Cineole: a review of source, biological activities, and application