穏やかで扱いやすいケモタイプ精油
タイムと聞いて思い浮かべるグリーンな清々しさと、お花畑を連想させるフローラルな印象を併せ持ったタイム・リナロールの精油。リナロールの含有率が高いことが特徴で、鎮静作用や抗不安作用が期待できることから、ストレスケアにも使われています。フェノール類の含有率が高い一般的なタイムよりも刺激性が低く、穏やかで使いやすい精油です。
Contents
タイム・リナロール(スイートタイム)とは
タイムの特徴・歴史
タイムは飲料や料理の香り付け、ハーブティーなど、身近なところでも使われているハーブ。ローリエと共にブーケガルニを作る時に使うベーシックなハーブの一つにも数えられています。料理にタイムがよく使われるのは、香りが良いだけではなく、抗菌性がある=食あたり予防に役立つという昔の人の知恵という見解もあります。日本でいうワサビや山椒のようなものだったのかもしれません。
タイム(thyme)という呼び名は、広義ではシソ科イブキジャコウソウ属(Thymus)の植物全般を指す言葉。イブキジャコウソウ属には約350種もありますが、その代表格と言えるのがタチジャコウソウ(学名:Thymus vulgaris)。お料理のレシピやハーブとして単に「Thyme」と言えばThymus vulgarisを指すと思っても問題ありません。英語でも一般的・普通などの意味がある“Common”をつけて、コモンタイムと呼んでいます。
タイム・リナロールも原料植物はコモンタイム(Thymus vulgaris)です。コモンタイムの中で、リナロール含有率が高いものを指しています。タイムは料理用としてはよく使われているものの、香料としての認知度は同じシソ科のラベンダーやミントよりやや劣るかもしれません。しかし、石鹸、入浴剤などの香料としてもよく使われているハーブの一つ。タイム・リナロールの場合はフローラルな印象の精油成分リナロールが多いので、ハーブの「タイムの香り」のイメージより柔らかな印象があります。
タイム(コモンタイム)は地中海沿岸が原産で、古くから利用されてきたハーブの一つ。古代からタイムは強力な保護効果がある・毒消しに役立つと考えられ、後の時代には黒死病(ペスト)対策としても使われています。また、古代ローマでタイムの香りが“強さ”や“勇気”をもたらす、中世には悪夢を防いでくれるハーブと信じられていました[1]。今のように人体への作用を測定できない時代ではありますが、何らかの有益な働きが感じられたからこそ、こうした神話・信仰のような考え方も支持されていたのかもしれません。
タイム精油の種類について
「タイム系統」とまとめられる精油は、10種類以上とかなり多くの種類があります。一口にタイム系統の精油とは言っても、大きくは原料植物、コモンタイム(Thymus vulgaris)を原料とした精油類、同属別種の植物を原料とした精油(レモンタイムやタイムマストキナなど)の2タイプに分けることが出来ます。
精油としても単に「タイム」と呼ぶ場合は、コモンタイム(Thymus vulgaris)を原料とするものを指すのが一般的です。ただ、同じコモンタイムが原料であっても、精油は含有成分の違いによって“ケモタイプ(Chemotype)”として別々に扱われています。これは、同じ原料植物でも生育条件等によって精油成分の組成が大きく異なり、芳香や作用についても変わってくると考えられるためです。
ケモタイプは、それぞれ呼び名に入っている精油成分の含有率が高いことが特徴。タイム精油の代表的なケモタイプ精油としては、以下のようなものが挙げられます[2]。
- タイムct. リナロール
- タイムct. ゲラニオール
- タイムct. ツヤノール
- タイムct. チモール/カルバクロール
- タイムct. パラシメン
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タイムには刺激性が高い・毒性の懸念が指摘されている、チモール・カルバクロールなどのフェノール類が含まれています。ケモタイプとは言われるものの、リナロールもしくはゲラニオールタイプはフェノール含有率が低く、タイム精油の中でも扱いやすい精油です。リナロールタイプはスイートタイムもしくはタイム・スイートという名称でも親しまれています[3]。
ちなみに、“レッドタイム”や“ホワイトタイム”と呼ばれるものは、基本的には精油の抽出方法の違いによる区分です。レッドタイムはコモンタイムをそもまま蒸留(抽出)したもの。一般的にタイム、コモンタイム、ホワイトタイムと呼ばれている精油はレッドタイムを再蒸留したもので、刺激性・毒性のある成分含有率が低くなっていることが特徴。とは言えホワイトタイムもフェノール類の含有率は高めですので、特別な目的や理由がない限りはリナロールもしくはゲラニオールタイプを使うのが無難です。
香料原料データ
- 通称
- タイム・リナロール(Thyme Linalool)
- 別名
- 立麝香草(タチジャコウソウ)、スイートタイム(Thyme Sweet)、コモンタイム(Common Thyme)、ガーデンタイム(garden thyme)
- 学名
- Thymus vulgaris(ct.Linalool)
- 科名/種類
- シソ科イブキジャコウソウ属
- 主産地
- フランス、アメリカ、イギリス、スペインなど
- 抽出部位
- 葉、開花した花の先端
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 無色~淡い黄色
- ノート
- トップノート~ミドルノート
- 香り度合い
- 中~強め
- 精油成分
- リナロール、酢酸リナリル、b-カリオフィレン、チモール、酢酸ゲラニル、γ-テルピネン、ゲラニオール、カルバクロールなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア・ハウスキーピング
フローラル感を含む、フレッシュで柔らかいハーブの香り
タイム・リナロール(スイートタイム)精油に期待される働き・効能
タイム・リナロールの代表成分であるモノテルペンアルコール類のリナロールは、ラベンダーやベルガモット様とも称される華やかな香りを持つ芳香性成分。それ以外にもモノテルペン系の精油成分が全体の大半を占めることが分かっています[4]。このためタイム・リナロールは香りの印象もフローラル系の柔らかさがあり、作用についてもコモンタイム(ホワイトタイム)とは異なっていると考えられます。
精神面への作用と効果
リナロールは、神経系の興奮を鎮める鎮静作用が期待されている成分。その他に抗不安作用や抗うつ作用を持つ可能性も報告され、うつ病治療に対する有効性も研究されています。ヒトを対象とした研究でも、リナロールの吸入によってストレス症状が軽減した・抗不安作用が見られたなどの報告があり[5]、リナロールを含む精油やハーブを使った伝統医療・民間療法も単なる“神話”ではなく、根拠があるのではと注目されています。
そんなリナロールの含有率が高いことから、タイム・リナロールの精油も気持ちを落ち着けたり、ストレスや神経疲労の軽減に役立つのではないかと期待されています。アロマテラピーでは感情を高揚させ、落ち込んだ精神を復活させ、精神的な強化を助ける精油と称されることもあります[3]。タイム・リナロールの場合はコモンタイムなどのように刺激性が高いわけではありませんが、思考をクリアにしたい時のサポートに役立つ可能性もあります。
リラックスタイム・就寝のお供に
古い時代、タイムは睡眠補助薬や、悪夢を避けるのに役立つハーブとしても人々に使われていました[1]。タイム・リナロールに含まれているリナロールは、マウスを使った研究では睡眠改善に役立つ可能性も示唆されています[5]。アトマテラピーでもリナロールを多く含むラベンダーなどの精油は、リラックスや睡眠サポートに使われています。
タイム・リナロールは、タイム系の中で香りも作用も非常に穏やかなケモタイプ精油。香りもマイルドですからリラックスタイムの演出にも活用しやすいでしょう。精神的に不安定だったりイライラしている時、ストレスや不安・心配事で寝付きが良くないという時に香らせてみても良いかもしれません。
肉体面への作用と効果
リナロールは鎮静・抗不安などの作用が期待できることから、ストレスに起因する不調の軽減にも役立つと考えられます。タイム・リナロール精油自体の有効性を示す根拠はありませんが、香りがお好みであればメンタル面の影響を受けやすい胃腸の不調、食欲不振や胃痛・消化不良・下痢・便秘などの緩和に取り入れてみても良いでしょう。
また、リナロールには抗炎症作用や、筋肉収縮を抑制することによる鎮痙(抗痙攣)作用・鎮痛作用などを持つ可能性も示唆されています[5][6]。こうした作用は投与・経口摂取における実験が大半のため、芳香吸引での有効性は分かっていませんが、頭痛や生理痛などの痛み軽減にも効果が期待されています。アロマテラピーでは、タイム・リナロール精油を筋肉の痛みや関節炎、リウマチ、坐骨神経痛のケアに用いることもあります[3]。
痛みの緩和に活用する場合は、精油をキャリアオイルで希釈してアロマトリートメント(マッサージ)に使ったり、精油を数滴湯船に入れてアロマバスに使うこともできます。ホワイトタイムなどタイム系精油は皮膚刺激性が高いものが多いですが、タイム・リナロールは皮膚刺激性が低いので活用しやすいでしょう。
空気浄化・感染症予防にも期待
タイム・リナロールはコモンタイムと比べる、タイムの特徴成分として取り上げられることの多いフェノール類の含有率がとても低くなっています。このため作用が劣るように感じがちですが、リナロールもまた抗菌・抗真菌作用が報告されている成分[6]。また、含有率が低いとはいえ、抗菌活性・抗真菌活性・抗ウイルス活性や、鎮痙作用などが期待されるチモールやカルバクロールも少量含まれています。
こうした成分が多く含まれていることから、タイム・リナロールの精油も空間を綺麗に保つ働きがあると考えられています。免疫刺激作用によって免疫力を高める働き説もあり[3]、お部屋の空気浄化や風邪・インフルエンザ予防に使われることもあります。鎮痙作用や抗炎症作用が期待できる成分も含まれていますので、喉の痛みや咳・気管支炎の緩和などにも役立つ可能性があるでしょう。
タイム・リナロールはタイム類の中では作用・香りともに穏やかで活用しやすい精油ですから、周囲で風邪が流行っている時や空気の乾燥が気になる時などにデュフューザーで拡散するにも適しています。
その他に期待される作用
肌・頭皮への働きかけ
タイム・リナロールの精油にはリナロールを筆頭に、チモールやカルバクロールなど抗菌・抗真菌作用が報告されている精油成分が多く含まれています。このため、皮膚を清潔に保つ手助けとしてニキビや水虫・爪水虫(爪白癬)などの予防に役立つと考えられています。
タイム系精油の中で見ると、タイム・リナロールは刺激性が低く皮膚利用も可能な精油とされています。しかし、刺激となる成分を全く含んでいないわけではありません。敏感肌の方・体質によっては皮膚刺激を感じる場合もあります。使用する場合はきちんと低濃度に希釈し、パッチテストを行うようにしましょう。
タイム・リナロールが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレスを感じている時
- 精神的な疲労感・無気力感に
- 不安・緊張の緩和に
- 気持ちが落ち込みに
- リラックスタイムに
- 安眠のサポートに
【肉体面】
- ストレス性の不調に
- 神経性の腹痛・便秘・下痢
- 神経痛やリウマチの緩和に
- お部屋の空気浄化に
- 風邪・インフルエンザ予防に
- ニキビ予防・水虫対策に
タイム・リナロールの利用と注意点について
相性の良い香り
似た印象を持つハーブ系・フローラル系の精油と相性が良いです。そのほか柑橘系ともブレンドしやすい香りですし、軽めの印象のウッディー系とも馴染みます。タイム系精油の中では刺激性が低く扱いやすいだけではなく、他の香りとも最も組み合わせやすいと言えるかもしれません。
タイム・リナロールのブレンド例
- ストレス対策として⇒フランキンセンス、レモンバーム、パイン
- 風邪・感染症予防に⇒ティートリー、ゼラニウム、ジュニパーベリー
- お腹の調子が悪い時⇒ペパーミント、カモミール、オレンジスイート
- フケ予防・頭皮ケアに⇒ラベンダー、シダーウッド、ロザリーナ
タイム・リナロール精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- [1]The History of Thyme (Plus Uses of Thyme)
- [2]Thyme Essential Oil – A Chemotype Guide You’ll Love and Use
- [3]Thyme Sweet Essential Oil
- [4]Crop Yield and Essential Oil Composition of Two Thymus vulgaris Chemotypes along Three Years of Organic Cultivation in a Hilly Area of Central Italy
- [5]Linalool as a Therapeutic and Medicinal Tool in Depression Treatment: A Review
- [6]Natural Compounds in the Battle against Microorganisms—Linalool