【アロマ】ミルラ(没薬)精油
-植物の特徴・期待される効果効能とは?

【アロマ】ミルラ(没薬)精油<br />-植物の特徴・期待される効果効能とは?

古代から愛される神秘的な芳香

フランキンセンスと共にイエス・キリストへの捧げものとして新約聖書にも登場するミルラ。紀元前から珍重されてきた世界的に歴史のある薫香の一つで、古くは医薬品感覚でも使用されていました。現在は抗酸化作用を持つ“若返り”のスキンケア精油としても注目されていますが、皮膚炎症を起こす可能性も指摘されています。

ミルラ(没薬)イメージ画像

ミルラ(没薬)とは

ミルラの特徴・歴史

スモーキーで甘い、どこか神秘的な芳香を持つミルラ。日本では“没薬”とも呼ばれています。独特な香りのもととなっているのは、コンミフォラ属(ミルラノキ属)に分類される樹木から分泌される、芳香を持つ赤色の樹脂。ミルラは古代からフランキンセンス(オリバナム/乳香)と共に珍重されてきた、“世界で最も歴史ある薫香の1つ”とも称される存在です。

古い時代にミルラが珍重されたエピソードの代表と言えるのが、新約聖書の中でイエス・キリストの誕生を祝うためにベツレヘムへと駆けつけた東方の三博士のくだり。『マタイによる福音書(2:11)』では“彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた”と金に並ぶ物としてフランキンセンスとミルラが登場しています。黄金=偉大な商人、ミルラ=偉大な医者、フランキンセンス=偉大な預言者を象徴しているという解釈もありますよ。

イエス・キリストの誕生以前から、ミルラは珍重されてきました。古代近東ではミルラ、フランキンセンス、スパイクナードを 3 つの神聖な芳香物質と考えていました。旧約聖書『出エジプト記』の中でも、主(神)からモーセへと伝えられた儀式方法の規定で“最も良い香料”の代表として没薬が登場していますから、紀元前から愛された薫香であることは間違いないでしょう。

また、古代エジプトでは優れた香りも持つ儀式用の薫香として以外にも、ミルラを様々な形で使用していました。香りがよく、抗菌作用や防腐作用に優れるものとして、ミイラを作る時に使う防腐軟膏にも配合されています。また、紀元前1550年頃に書かれた古代エジプトの医学書『エーベルス・パピルス』から、ミルラが皮膚のケアに用いられていたことも分かっています[1]。

古代ギリシアや古代ローマもミルラを輸入し、薫香や生薬として利用していました。感染症に対する皮膚の洗浄剤、咳止めや筋肉痛用の薬まで、様々なものにミルラは配合されていたようです。イエス・キリストに捧げられたミルラは、偉大な医者を象徴するアイテムという説も納得ですね。

5~10世紀頃にはインドや中国の伝統医療にもミルラは取り入れられ、使用されてきました。日本で使われている“没薬”という個料も、元々は中国で生薬名として付けられたもの。没は苦味を意味するので“苦い薬”が由来です。ミルラ(Myrrh)の語源は諸説ありますが、苦いという意味のアラビア語“mur”に由来するという説が有力視されていますよ。現在では一部の伝統医療を除いてミルラが薬として用いられることはありませんが、お香や香水など芳香製品の原料、歯磨剤やガムなどマウスケア商品などに利用されています。

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ミルラの種類、フランキンセンスとの違い

ミルラはコンミフォラ属(ミルラノキ属)に分類される樹木から分泌された、芳香のある樹脂(芳香性樹脂)の総称。香料・精油原料としては、ソマリアやアラビア半島南部産のCommiphora myrrhaが高く評価されています。ちなみに、同属ではあるものの、主にアフリカに自生するCommiphora guidottiiの樹脂はオポパナックスもしくはスイートミルラと呼び分けられています。

乳香(フランキンセンス)と没薬(ミルラ)はセットで登場することが多い存在。共にカンラン科に分類される樹木から採集される芳香性樹脂であり、どちらもアフリカ東部からアラビア半島にかけての地域に自生している=原産地も重なります。とは言え、フランキンセンスはボスウェリア属に分類されるのに対し、ミルラはコンミフォラ属から採取される樹脂。フランキンセンスはやや暗めの乳白色から橙色、ミルラはもっと赤みの強い褐色系の色をしています。

種類や産地によって同じミルラ、フランキンセンスでも香りは異なりますが、ミルラとフランキンセンスの芳香自体は全く別物。香りもミルラはスモーキーでどことなく甘い、オリエンタル系の芳香。レモンのようなと称される香りを持つフランキンセンスとは、同じ“樹脂系”でもかなり印象が違います。

香料原料データ

通称
ミルラ(Myrrh)
別名
没薬(もつやく)、没薬樹(モツヤクジュ)、コモン・ミルラ(common myrrh)、ソマリア・ミルラ(Somali myrrhor)、マー(Myrrh/ M ɜːr /)
学名
Commiphora myrrha
(syn.Commiphora molmolなど)
科名/種類
カンラン科コンミフォラ属(ミルラノキ属)/低木
主産地
ソマリア、オマーン、イエメン、スーダン、エチオピア
抽出部位
樹脂
抽出方法
水蒸気蒸留法
淡黄色~琥珀色
粘性
高い
ノート
ベースノート
香り度合い
強め
精油成分
フラノオイデスマ-1,3-ジエン、フラノジエン、クルゼレン、リンデストレン、δ-エレメン、β-エレメンなど[2]
おすすめ
芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア

スパイシーさの中に樹脂っぽさを含む、甘くスモーキーな香り

ミルラ精油に期待される働き・効能

精神面への作用と効果

ミルラは伝統的に精神を高める働きがあると考えられ、儀式や瞑想などの香りとして使われてきました。フランキンセンスと同じような使われ方をしてきましたし、フランキンセンスと組み合わせて薫香として使うこともあったようです[3]。現在でもアロマテラピーでは鎮静作用を持つ精油にカテゴライズされており、ネガティブな気分の緩和や、グラウディングを助けてくれる香りとして用いられることもあります。

そのほか、スパイシーで甘い香りは神経・精神面に対して刺激・強壮作用を持つとの見解もあり、気力が衰えてしまい無気力になっているとき・気持ちの落ち込みが激しい時に使われることもあります。総合して“心のバランスを整える精油”と紹介されることもありますから、ストレスや精神的な疲労感を感じている時に取り入れてみても良いかもしれません。

ミルラの精油成分とエビデンスについて

2016年の『EXCLI Journal』に発表されたセルビアの研究チームによるGC/MS分析では、ミルラ(C.myrrha)精油の主成分は、フラノオイデスマ1,3-ジエン(furanoeudesma-1,3-diene)とクルゼレン(curzarene)。どちらもセスキテルペン炭化水素類であり、その他の精油成分もセスキテルペン炭化水素類が大半を占めていることが示されています[2]。

主成分のフラノオイデスマ1,3-ジエンとクルゼレンについては研究が行われており、鎮静作用や神経保護などを持つ可能性を示唆した報告もあります。ただし、有効性が示されている研究はミルラ抽出物の投与・摂取によるもの。ミルラの芳香を吸引することで神経・精神面へどんな影響があるかは、分かっていません。

現時点でミルラに期待されている精神面への働きかけは、信用できる研究機関によって認められたものではなく、あくまでも伝統医療や民間療法の中で囁かれる効果。医薬品のようなものではありません。芳香の感じ方自体にも個人差がありますので、心地よいと感じるなら取り入れる程度にしましょう。癒やされると感じたならリラックスシーンに、背中を押してくれそうだと感じたらやる気が必要なシーンに活用するのが良いのではないでしょうか。

肉体面への作用と効果

ミルラ精油の特徴成分と言える、フラノオイデスマ1,3-ジエン(furanoeudesma-1,3-diene)とクルゼレン(curzarene)。この2つは他のポピュラーな精油類の成分表を見てもほとんど見かけることのない存在。どんな働きを持つかについては未解明な部分が多いのですが、麻酔活性や鎮静作用を持つ可能性を示唆した研究報告もあります[4]。ミルラは伝統的に鎮痛作用を持つハーブ・生薬として使われてきた背景もある[3]ため、神経痛や関節痛、リウマチなどの緩和マッサージに取り入れられています。

空気浄化・風邪予防に

ミルラは伝統医療の中で風邪、咳、気管支炎、喘息などの呼吸器系トラブルに使用されてきた歴史もあります。研究段階ではありますが、優れた抗菌作用や抗ウィルス作用を持つことも報告されているほか、免疫調節に役立つ可能性を示唆した報告もあり[4]、風邪やインフルエンザの予防に注目されています。

女性領域のサポートにも…?

ミルラには若干の通経作用(月経促進作用)があると考えられ、古くは月経促進剤としても利用されました。現在でも伝統医療では、無月経や少量月経、月経不順、生理痛や月経困難症にミルラを使用することがあるそうです。

とはいえ、ミルラが女性の体にどのような影響を与えるか、作用秩序や有効性は分かっていません。通経作用はないという見解もありますが、妊娠中に多量のミルラを塗布した女性が流産した、という報告もある[4]ので、妊娠中の方は使用を避けたほうが確実でしょう。

その他に期待される作用

肌への働きかけ

ミルラは抗炎症作用を持つ精油であり、瘢痕形成・癒傷作用や、皮膚の保護作用があると考えられています。このためヨーロッパを中心に床ずれ・あかぎれ・かかとのひび割れ・虫刺されやかぶれによる痒みなどに、ミルラ精油を希釈してトリートメントオイルとして用いることがあるようです。

また、試験管試験ではミルラ精油に優れた抗酸化作用があることも報告されています。2005年にはフランスの研究で、ミルラオイルにビタミンE(α-トコフェロール)よりも高い一重項酸素に対する消光活性が見られたことも発表されています[5]。人体への有用性についてははっきりしていないものの、瘢痕形成・癒傷作用は皮膚細胞の活性化やターンオーバー促進にも繋がると考えられることから、美肌・アンチエイジング(エイジングケア)効果を期待して使用されることもあります。

そのほか、ミルラには古代から高い抗菌・抗真菌作用を持つと考えられ、使用されてきた歴史もあります。皮膚糸状菌に対する抑制効果が見られたという研究もあり[6]、カンジダや水虫などの予防・改善にも期待されています。スキンケア用としても皮膚を清潔に保つことや保護性が評価され、乾燥肌やニキビ予防などに役立つ精油の一つに数えられています。

炎症箇所・肌の弱い方は注意

ミルラは、アレルギー性皮膚反応を起こすことが報告されています。伝統的な使用では軽度の傷や腫れなどの炎症ケアに使われますが、炎症部に精油が触れると症状を悪化させてしまう場合もあるので注意が必要です。自己判断での使用は避けたほうが確実でしょう。

ミルラが利用されるシーンまとめ

【精神面】

  • ストレス・神経疲労
  • リラックスしたいとき
  • やる気を高めたい時に
  • 気持ちを整えたい時に
  • 瞑想のお供に

【肉体面】

  • 関節炎やリウマチの緩和ケアに
  • 風邪・インフルエンザ予防に
  • 空気を綺麗に保ちたい時に
  • 肌のアンチエイジングに
  • 水虫など真菌感染症の予防・軽減に

ミルラ精油の利用と注意点について

相性の良い香り

ウッディー系やオリエンタル系の香りと相性が良いとされています。
香りが強いだけではなく、持続力が長こともミルラ精油の特徴。このため、香りが抜けやすい柑橘系の精油やトップ~ミドルノートのフローラル系と組み合わせて使われることも多いです。

ミルラのブレンド例

ミルラ精油の注意点

ミルラの精油は粘度が高く、揮発に伴って更に固化していきます。キャップが固まり開きにくくなりますので、使わない場合でも時折キャップを開け閉めすることをお勧めします。早めに使いきれるよう、少量ずつ購入するのがベター。また、色が濃い目で香りも強い精油ですから、衣服などに付着するとなかなか取れません。一滴落としにくいからと瓶を振ってしまうと大惨事になりますので注意してください。

  • 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
  • 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
  • 高濃度での使用は毒性を生じる可能性も指摘されています。適正に希釈して用いましょう
  • 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
  • アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
  • 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。

参考元