環境に優しい、ローズウッドに似た精油
ホーリーフは芳樟と呼ばれるクスノキの変種で、台湾や中国南部と暖かい地域が原産です。リナロールの含有率が高いことからローズウッドの代替え品として注目されており、木を切り倒さなくともリーフ(葉)から精油が抽出できる点も評価されています。精油はフローラル感のある軽いウッディ調で、嫌われることの少ない上品な香り。リナロールの働きからリラックス促進や風邪予防などにも役立つと期待されています。
Contents
ホーリーフ(芳樟)とは
ホーリーフの特徴・歴史
21世紀に入ってから注目度が高まり、国内でも見かける機会が増えてきたホーリーフと呼ばれる精油。リーフという呼び名から想像するグリーンな香りではなく、ウッディさやフローラルさを感じさせる温かい香りが特徴です。香りと成分が近年大量伐採による減少が問題となっているローズウッドと似ていることから、ホーリーフはリナローウッドと共にローズウッドの代用品として使用されています。ホーウッドという木部から抽出された精油もあるのですが、特に主原料が葉=木を傷めること無く原料を確保できるという部分でもホーリーフには注目が寄せられています。合成ではないリナロールの単離にも使われることがあるのだとか。
そんなホーリーフはクスノキ科ニッケイ属に分類される樹木(ホーウッド)の葉です。和名では“芳樟(ホウショウ)”とも呼ばれている、楠(クスノキ/カンファーツリー)の変種もしくは亜変種です。外見上は私達の知るクスノキとほぼ変わらないのですが、強いて言えばクスノキよりも幹や花がやや小ぶりであること・葉縁が波打つことが特徴。ホーウッドは台湾や中国南部に分布していた樹木であり、耐寒性が低いという性質があります。このためか日本には自生していなかった種ですが、現在は日本でも鹿児島県など比較的温暖な一部地方でも見ることが出来るようになっています。
また、葉だけではなく木部もクスノキの特徴と言えるカンファーをほとんど含まず、リナロールを多く含んでいることが特徴と言えます。このため台湾では樟脳の原料としてクスノキを育てていたため、カンファーをほとんど含まない変種=ホーウッドは「臭樟(しゅうしょう)」と呼ばれて嫌われてきたという歴史があります。しかし明治末頃にこの使えない「臭樟」からリナロールが単離出来ることが分かると評価は一転し、香料原として栽培が盛んになって行きました。この時に呼称も嫌な匂いを連想させる「臭樟」ではなく、芳しい香りを持つことを示した「芳樟」に変更されたようです。最近流通し始めた精油のように感じがちですが、リナロールの化学合成が行われるようになるまでホーリーフは高級化粧品用の香料として栽培・採油が行われていた歴史があるんですね。
ローズウッドなどと同じくリナロールの合成方法が確立されると、国内でのホーウッドの栽培は低下して行きました。戦後すぐくらいは芳樟の栽培をしていた県はもっと多かったことが分かっていますが、安価な合成香料に押されて閉業してしまったところも多いそう。現在は一部の天然成分を用いた化粧品や香料などで用いられており、調べてみたかぎり国産芳樟の精油を小売されているのは鹿児島県くらいのようです。原材料の生育から抽出まで完全国産であり、他のエッセンシャルオイルよりも親しんできた歴史も長く、葉を摘み取って抽出するため環境にも優しい。もちろん香りも良い植物ですから、国産精油の製造が盛んになってくれると嬉しいですね。
クスノキの仲間・種類について
クスノキの精油・樟脳と言われると「刺激臭」「おばあちゃんちの箪笥」など、あまり良いイメージを抱かない方が多いのではないでしょうか。樟脳と販売されていたものと天然ホワイトカンファーの香りは個人的には別物ですが、独特な薬品臭いようなツンとした香りはあります。この好き嫌いの別れるツンとした香りの元と言えるがカンファーという成分で、クスノキはカンファーツリーとも呼ばれるほどカンファーが多く含まれていることが特徴。種名もCinnamomum camphoraですしね。
しかし、同じCinnamomum camphoraの中でもカンファーの含有率が低い変種もしくは亜変種が存在しています。その中で精油としてポピュラーなのは、リナロールが多いホーウッド(芳樟/学名:Cinnamomum camphora var Linalool)と、マダガスカル原産で1,8-シネオールを多く含んでいるラヴィンサラ(学名:Cinnamomum camphora BS 1,8-cineole)の2つ。どちらも基本種であるクスノキの特徴成分カンファーはほとんど含まれていませんし、別の呼称が付けられているので意識しないと仲間の精油だとも思わない存在ですよね。芳樟の分類・学名に関しては現在でも統一されていませんし、産地によって主成分が変わることから精油は成分によってCinnamomum camphoraのケモタイプとして分類しているケースもあるようです。こうした精油は呼称よりも成分・原産地を確認したほうが確実かもしれません。
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香料原料データ
- 通称
- ホーリーフ(Ho Leaf)
- 別名
- ホウショウ(芳樟/Ho-Sho)、Ho Ho-Sho(ホーツリー)など
- 学名
- Cinnamomum camphora Sieb.var.glavescens
(syn.Cinnamomum camphora BS Linalool) - 科名/種類
- クスノキ科ニッケイ属/常緑高木
- 主産地
- 中国、台湾、日本
- 抽出部位
- 葉
(木部を使用したものは皮膚刺激・神経毒性の危惧がある) - 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 無色~淡黄色
- 粘性
- 低い
- ノート
- トップ~ミドルノート
- 香り度合い
- やや弱め~中くらい
- 精油成分
- リナロール、カンファー、1,8シネオール(そのほかサフロール、リモネン、ネロリドール、ゲラニオールなどを微量含む)
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア
ライトなウッディ調のなかにフローラルさを含んだ温かい香り
ホーリーフに期待される働き・効能
精神面への作用と効果
ホーリーフ精油の代表成分と言えるのがモノテルペンアルコールの一種、リナロール。製品にもよりますが、多いものでは精油成分のうち80%以上がリナロールというものもあります。リナロールはローズウッドやラベンダーにも多く含まれている成分で、フローラルな香りの元でもあります。柔らかく心地良い香りを保つだけではなく、このリナロールは鎮静・抗不安作用が期待されている成分でもあります。ホーリーフやホーウッドの精油や芳香を使用した実験というのはありませんが、1998年『Neurochemical Research』にリナロールが中枢神経系において用量依存的な顕著な鎮静作用を有することを示したという研究報告が掲載されています。
2009年にブラジルの研究所から『Phytomedicine』に発表されたマウスを使った実験では、リナロールの吸引で運動能力を著しく損なうことなく鎮静を誘発するようであるという見解もあります。そのほかにもリナロールには鎮静作用が見られた・ストレスレベルが低下したという報告があることから、リナロールは抗不安薬(不安軽減薬)に類する作用を持つのではないかと期待されています。このことからリナロールを主成分とするホーリーフの精油も気持ちを落ち着け、心のバランスを整える手助けに取り入れられることがあります。
また、リナロールは鎮静・リラックス作用によって睡眠の改善をサポートする働きを持つ可能性がある成分でもあります。2008年『Phytomedicine』に掲載されたブラジルの研究ではリナロール吸引によってマウスに催眠鎮静作用が見られたことが報告されています。そのほか徐波睡眠が増加するなどリナロールによって睡眠の質を高める可能性を示唆した実験報告も多くあることから、リナロールを含むリナローウッドも安眠サポートに役立つという説もありますよ。
肉体面への作用と効果
リナロールはリラクゼーションを促進するだけではなく、炎症と痛みを軽減する働きが期待されています。2002年『Journal of Phytomedicine』にはリナロールに抗炎症剤として優れた作用が見られたことが、2003年の後続研究では鎮痛作用が見られた事が報告されています。痛み信号を脳に伝達する脊髄内の細胞の興奮性を低下させることで麻酔的な鎮痛作用を発揮する可能性を示唆した報告や、筋弛緩作用を持つという見解もあるため、リナロールは様々な痛みの軽減に効果が期待されています。神経系を鎮める働きと合わせて、肩こりや筋肉痛、ストレス性の頭痛や胃痛の緩和などの手助けとしてホーリーフ精油を取り入れる方もいらっしゃるようです。
加えてリナロールは優れた抗菌・抗真菌作用を持つことが報告され、抗ストレス作用によって健康な免疫システムを保持する可能性も示唆されています。若干含まれているカンファーも抗菌作用や鎮痛・抗炎症作用が含まれていることから、風邪予防もしくは、咳・気管支炎・発熱など風邪の初期症状ケアをサポートしてくれる可能性もありそうです。粘液溶解作用があり、風邪の症状だけではなく花粉症の緩和に役立つのではないかという見解もありますよ。
その他に期待される作用
肌への働きかけ
リナロールは化粧品類の香料として使用されているだけではなく、肌に対しても有益な働きが期待されている成分。高い抗菌作用・抗真菌作用を持つと考えられること、抗炎症作用が期待できることからニキビ予防、水虫(白癬)・脂漏性皮膚炎などの真菌性皮膚感染症などのケアに用いる方もいらっしゃいます。また、細胞成長促進・組織再生を促進する作用を持つのではないかという説もあり、リナロールを含む精油は傷跡を目立ちにくくする働きが期待できることから傷跡や火傷跡・妊娠線のケアなどにも活用されていることもあります。そのほか瘢痕形成作用・肌細胞を活発化させる働きからシミやシワの改善などお肌のアンチエイジング・エイジングケアのサポートに繋がるのではないかという説も。
しかしながら、リナロールは皮膚刺激または直接接触時のアレルギー反応を起こす事も報告されています。ホーリーフの精油についても一般的に毒性・刺激・感作性はないと紹介している販売社がある一方で、『The Good Scents Company』の香料データベースでは皮膚刺激を起こす可能性がある精油と紹介しています。ホーリーフの精油は研究がほとんど行われていませんし、昔は化粧品に使われていたとは言え一般人がよく使う精油というわけでもありません。利用のデータが少ないこと・炎症を起こす可能性があることを念頭に置き、しっかりとパッチテストを行ってから利用するようにしてください。
消臭剤として
リナロールやカンファー・1,8シネオールなど抗菌作用をもつ成分を多く含むホーリーフの精油はデオドラントアロマとしても活用できます。雑菌の繁殖を抑えることで悪臭の発生を抑制する他、リナロールはより直接的なデオドラント(消臭)作用も期待され消臭成分として使われることもある存在。お部屋の生活臭や体臭予防にも役立つ可能性があるでしょう。ホーリーフの精油はウッディ&フローラル感がある上品な印象。リラックス促進にも期待できるので、アロマスプレーを作って芳香剤・香水代わりに取り入れてみても良いのではないでしょうか。
ホーリーフが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレス・精神疲労
- 不安・緊張・抑鬱
- 情緒不安定なとき
- 前向きになりたい
- 寝付きが良くない
- リラックスしたい
【肉体面】
- 筋肉痛や肩こり・腰痛に
- 頭痛や神経痛の軽減に
- 風邪予防・初期症状ケア
- 咳・鼻詰り・鼻炎の軽減に
- お部屋の空気をきれいに
- 傷跡・妊娠線のケアに
ホーリーフの利用と注意点について
相性の良い香り
フローラル感とウッディ感を併せ持ったホーリーフの香り。柔らかい印象で香り自体もそれほど強くはありませんので、ブレンド相手はさほど選びません。何系の香りともブレンドできますが、特に柑橘系の精油とは相性が抜群。好みにもよりますが、軽い印象のウッディ系やハーブ系とも組み合わせやすいと思います。
ホーリーフのブレンド例
- 精神安定用に⇒ベルガモット、マンダリン、イランイラン
- 感染症予防に⇒レモン、フランキンセンス、ティートリー
- スキンケアに⇒サンダルウッド、ラベンダー、ゼラニウム
- 肩こり・筋肉痛に⇒ラバンジン、ローズマリー、ベチバー
ホーリーフ精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの利用は避けましょう。
- 持病のある方は使用前に医師に確認してください。
- 稀に主成分がカンファーというホーリーフ精油が販売されているようです。カンファーは刺激が強く扱いが難しい成分のため、購入時は香り・成分表を確認することをお勧めします。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
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参考元