ストレス・不眠対策に役立つハーブとしても人気
メンタル部分をサポートしてくれる可能性があるハーブとして、サプリメントなどにも使われているバレリアン。精油が抽出されるのもハーブと同じく根(バレリアンルート)からで、ムスクのような土臭いような独特の香りがあります。伝統的な効能+酢酸ボルニルやバレレン酸など神経面への働きかけが報告されている成分が含まれることから、鎮静作用や睡眠促進作用などに現在人のサポートにも期待されています。
Contents
バレリアンとは
バレリアンの特徴・歴史
香料原料としてよりも、ハーブティーやサプリメントなどの健康食品原料で目にすることの多いバレリアン。精油(エッセンシャルオイル)はマイナーな部類で、流通はかなり限られています。バレリアンという植物を検索すると、白っぽい小さな花が集まって咲いている画像が出てきます。が、ハーブとして、もしくは香料を抽出するのは“根(バレリアン・ルート)”部分が主。この根はムスクに硫黄を混ぜたような独特な臭いがあります。薬理学と薬草学の父と呼ばれるペダニウス・ディオスコリデスや、古代の最も優れた医学者と言われるガレノスが、根の臭いからバレリアンを「プー(Phu)」と呼んでいたという逸話もあるほど。精油はバレリアンルートそのものよりもムスク感が強めで親しみやすくはありますが、独特の強い芳香は好き嫌いが分かれる部類であることは間違いありません。
植物として見るとバレリアンはヨーロッパ原産、オミナエシ科カノコソウ属に分類される多年草。ハーブや精油抽出に使われているのはValeriana officinalisという種で、諸説ありますが属名や呼び名はラテン語の「valēre(強くある・健康になる)」が語源ではないかというのが通説。種子名officinalisは薬用として用いられてきた歴史がある植物に付けられることが多い言葉ですから、学名からも生薬もしくは薬用ハーブとして利用されてきた植物であるということがうかがえますね。ちなみに、価値や価格を表す英語“value”もバレリアンと同じくラテン語(valēre)が語源。現代イタリア語もValereは価値がある・優れているなどの意味で用いられているそうですから、呼び名や語源部分からだけでも大切に扱われてきたハーブだという事がうかがえますね。
実際の歴史としても、人間はバレリアンを古くから使用してきました。少なくとも古代ギリシャと古代ローマではバレリアンを薬草として用いていたことが分かっており、医学の父と称されるヒポクラテスもバレリアンの性質を著書の中で説明しているそう。ローマ帝国時代のギリシア医学者ガレノスはバレリアンを不眠症の治療薬として処方していたことも分かっています。こうした背景から、古代ギリシアでバレリアンは神経の高ぶりを抑え眠りに導くハーブとして向精神薬・睡眠薬のように用いられていたと考えられています。余談ですが使用された歴史の古さから、聖書に記されているマグダラのマリアがイエス・キリストの足を拭う際に使った「ナルドの香油(ナルデの香油)」はスパイクナードではなくバレリアン香油だという説もあるんだとか。
中世ヨーロッパでは加温・通経・利尿薬としても使用されていたそうで、バレリアンは「オールヒール(全てが治る)」や「神様の睡眠薬」と称されるほど優れた薬効を持つ植物として評価されていました。薬としての有用性だけではなく、当時は精神疾患などは悪魔の仕業という考え方もあったためか、悪魔や魔女除けになる・呪いを払いのける植物であると信じされていたそう。住民を不幸や悪から守るためマジョラムとバレリアンを組み合わせて束にし、家の入口などに吊るすという風習雨もあるのだそうです。現在でもメンタルヘルスのサポートとして自然療法の中で活用されたり、ドイツなどの欧州で伝統的医薬品(THMPD)として承認されているものもありますが、二千年近く昔からバレリアンはずっと精神・神経系の治療に用いられてきたという歴史があるんですね。
香料原料データ
- 通称
- バレリアン(Valerian)
- 別名
- セイヨウカノコソウ(西洋鹿子草)、吉草(きっそう)、バレリアンルート(Valerian root)、common valerian、Vandal Rootなど
- 学名
- Valeriana officinalis
- 科名/種類
- オミナエシ科カノコソウ属/多年草
- 主産地
- 中国、インド、ネパール、ベルギー、韓国など
- 抽出部位
- 根部
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
(※溶剤抽出されたものも有) - 色
- 淡黄色~茶褐色
- ノート
- ベースノート
- 香り度合い
- 強め
- 精油成分
- 酢酸ボルニル、バレリアノール、バレレナール、バレラノン、イソ吉草酸、イソ吉草酸ミルテニル、α-ピネン、カンフェン、バレレン酸など
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア
土っぽさ・グリーン感・ムスク調の混ざった複雑な香り
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バレリアン精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
好き嫌いが分かれるバレリアンの独特な芳香を構成している成分の一つに、”森の香り”とも称される酢酸ボルニル(ボルニルアセタート)があります。エステル類に分類される酢酸ボルニルは松の針葉にも含まれている芳香成分で、九州大学農学研究院らの実験では交感神経の活動を低下させて緊張を緩和する働きが見られたことが『AROMA RESEARCH』に掲載されています。加えてバレリアンの特徴成分であるバレレン酸(valerenic acid)にも1980年代から中枢神経抑制作用が見られたという報告が多くなされており、ガンマアミノ酪酸(GABA)を破壊する酵素を阻害する可能性を示唆した研究報告もあります。
バレリアンに含まれている有効成分や作用秩序については断定されていない部分も多いものの、抑制性神経伝達物質であるGABAの分泌を正常に保つのではないかと考えられています。そしてこの作用について芳香成分も関与していると考えられることから、バレリアン精油の芳香を吸引からも鎮静作用や抗不安作用が期待されています。ストレスの緩和・軽減をはじめ、ヒステリー・抑鬱・イライラ・恐怖・焦燥感・落ち着きのなさ・神経過敏など様々な精神的不調の改善に効果が期待されているのはこのため。有効性についてははっきり分かっていませんし、根の持つ独特の強い芳香は好き嫌いが分かれるところではありますが、ストレス社会に生きる現代人の強い味方になってくれる可能性がある精油として注目されています。
不眠対策としても期待
リラックスタイムに相応しい香りとして想像されるタイプの芳香ではないものの、バレリアンはスパイクナードと共に不眠対策に役立つ可能性があるアロマとしても注目されている存在です。商品によって成分比率は異なりますが、バレリアン精油の主成分と言っても良いくらいの割合を占めている酢酸ボルニルには、睡眠促進効果を有する可能性が報告されています。バレレン酸もGABAレベルを一定に保つことで眠りに落ちるまでの時間を短縮す、睡眠の質の改善を手助けする働きが期待されています。
バレリアン精油はストレス対策や精神安定としても期待されている精油ですから、不安や心配事が頭から離れないときや、神経が妙に昂ぶって目が冴えてしまう場面で使用してみても良いかもしれません。快適な眠りをサポートしてくれるアロマとしてはラベンダーやマージョラムなどもありますが、精油は薬ではなく効果については個人差も大きいもの。ラベンダーの香りで眠りに入りやすくなったという方もいらっしゃれば、他の精油は駄目だったけれどバレリアンが合うような気がするという方もいらっしゃいます。色々な精油を試してみても良さそうですね。ただし重度の不眠が続く場合は医師に相談するようにしてください。
肉体面への作用と効果
バレリアンの芳香は交感神経の興奮を抑え、気分を落ち着かせる働きが期待されています。精神的サポートに優れた精油であると考えられることから、ストレスや緊張に起因する症状全般に緩和・改善効果が期待出来ます。特にストレスの影響を受けやすい消化器系の不調…腹痛・下痢・消化不良・便秘などの軽減に繋がる可能性があるでしょう。そのほかバレリアンが分泌を正常に保つのではないかと考えられているガンマアミノ酪酸(GABA)は血圧を調節する役割も担っていることから、高血圧の緩和や心臓の健康維持に役立つのではないかという見解もあります。
また、バレリアンは民間医療の中で鎮痛薬もしくは筋弛緩薬として活用されてきたハーブ。精油も鎮痛・鎮痙作用を持つと考えられており、頭痛や偏頭痛・胃痛・生理痛・筋肉痛・肩や首のコリや痛みなど様々な痛みの軽減に取り入れられることがあります。精神面でのサポートと鎮痛・鎮痙作用が期待できることから、バレリアンはPMS(月経前症候群)の諸症状軽減にも注目されていますよ。使用されたのはValeriana officinalisではなく近縁種ですが、2010年『Indian Journal of Experimental Biology』にはバレリアン精油がラットに著しい鎮痛効果をもたらしたことが掲載されており、神経系に直接作用して痛みの信号を遮断している可能性が示唆されています。
その他に期待される作用
皮膚利用について
バレリアンの精油はスキンクリームなどに加えられていることもあり、抗菌特性や保湿作用があると考えられています。そのほかに治癒促進作用があるという見解もあるため湿疹・打撲・乾癬・にきび・傷跡などのケアに活用されていますが、皮膚刺激性が高い精油であるという指摘もあり皮膚炎症の原因となる恐れもあります。日本ではバレリアン精油を皮膚利用した場合における十分なデータもありませんので、肌への使用は避けたほうが無難です。
バレリアンが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレス・精神疲労
- 緊張・不安・焦燥感
- ヒステリー・イライラ
- 落ち着きがない・ソワソワ感
- 精神的に不安定だと感じる
- 寝付きが悪い・眠りが浅い
- リラックスしたい
【肉体面】
- ストレスに起因する不調に
- 便秘・下痢・消化不良
- 胃痛・腹痛・生理痛
- 頭痛・偏頭痛
- 筋肉痛・体のコリに
- PMS(月経前症候群)軽減に
- 血圧が気になる方に
バレリアンの利用と注意点について
相性の良い香り
バレリアンの精油は香りの系統としてウッディー系に分類するもの、抽出源の系統からハーブ系に分類している文献があります。当サイトではハーブ系に分類していますが、香りの印象はウッティーもしくはバルサム系寄り。ブレンドする場合は似た印象の香りがある樹木系の精油、もしくは香りをライトな印象にしてくれる柑橘系と組み合わせやすいでしょう。香りにはクセがあり芳香自体も強めですので、単体ではなく少量をブレンドした方が使いやすいです。
バレリアンのブレンド例
- 心のバランスを整えたい⇒パチュリー、シダーウッド
- 不眠の軽減に⇒ラベンダー、マンダリン、プチグレン
- むくみ・肩こりに⇒ジュニパー、パイン、レモングラス
- 女性特有の不調に⇒イランイラン、サイプレス、メリッサ
バレリアン精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 持病のある方・医薬品を服用中の方は医師に確認の上利用して下さい。
- 高濃度・長時間の使用は頭痛などの副作用を起こす可能性があります。使用量に注意し、長期間の継続利用は避けましょう。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元