虫除けアロマとして夏に活躍
ハーブティーの材料としても使われているレモンバーベナ。レモンに似た爽やかさと、どことなくフローラル感もある香りが特徴的です。昆虫忌避作用、特に蚊よけの効果が期待できることから、虫除けアロマとしても使われています。さっぱりとした明るい香りですから、ルームアロマとして香らせるのもオススメ。
Contents
レモンバーベナとは
レモンバーベナの特徴・歴史
名前の通りレモンのような爽やかな香りを中心に、少しフローラルっぽさも感じられるレモンバーベナ。本物のレモンよりは甘く、単品でも香水のような印象のある香りです。ハーブティーではあまり見かけませんが、料理用ハーブとしても結構使われています。用途はは魚や鳥肉料理などのメインディッシュから、マリネやサラダ、ケーキやプリンの香り付けに……と幅広いですね。酸味を加えずにスッキリした印象にできる、レモン果汁使う際にも酸味を抑えてレモンの香りを強調する目的で使うこともあります。
レモンバーベナは学名をAloysia citriodoraという、クマツヅラ科の植物。ハーブとして見かけるものは葉なので草本のように感じますが、落葉低木です。“バーベナ(Verbena)”という言葉はクマツヅラ科、もしくはクマツヅラ科の中のバーベナ属(Verbena)に属す植物の呼び名。レモンバーベナの場合はコウスイボク属(Aloysia)として分類されることが多いですが、バーベナ類の一種でレモンのような香りがある=レモンバーベナと呼ばれています。種小名のcitriodoraも“柑橘(レモン)のような香り”が由来。
レモンバーベナはヨーロッパや北米で親しまれている印象がありますが、実は南米原産。古くより南アメリカの先住民族の人々は、料理用ハーブや薬、虫よけなどにレモンバーベナを利用していました[1]。ヨーロッパにレモンバーベナが伝わったのは17世紀以降で、スペインを通じてヨーロッパに広がっていきました。18世紀のうちにはイギリスへも紹介され、ハーブガーデンでも栽培されています。
18世紀~19世紀にかけてのヨーロッパでは、素晴らしい香りを持つ新大陸産のハーブとしてレモンバーベナが大流行。貴族たちは衣服の香り付けや香水、ハーブティー、リキュール類の香料、フィンガーボールの水への香り付けと、様々にレモンバーベナを使いました。ビクトリア朝時代にはレモンバーベナの精油が香水や化粧品に多用されていたようですし、フランスではレモンバーベナティーが“verveine(ヴェルヴェンヌ)”と呼ばれハーブティーの代表各となるほどに定着しました。
移住したヨーロッパ人が持ち込んだことで、アジア、アフリカ、オーストラリア、北米と世界中にレモンバーベナは伝わっています。日本にも江戸末期~明治初期にはレモンバーベナが伝わっています。当時の日本ではハーブではなく、園芸植物として扱われていたようです。東京でコレラが流行した際には、臭気を防ぐ=コレラ避けに役立つ植物だと売り出されたことで“防臭木(ボウシュウボク)”なんて呼び名もあります。ちなみに、レモンバーベナの標準和名は香水木(コウスイボク)。
現在でも、レモンバーベナの精油は食品香料から、石鹸や化粧水などの化粧品類にと、幅広く使われています。しかし、レモンバーベナの精油は採油量が低く、比較的高価な部類。安価なものは純度100%のレモンバーベナ・エッセンシャルオイルではなく、スパニッシュ・バーベナやレモン、レモングラス、シトロネラなどを混ぜたものが「レモンバーベナ」として販売されていることがあるという指摘もあります。食品類では「レモンの香り」を付けるのに使われるレモンバーベナですが、精油の場合は逆転するのがちょっと不思議ですね。
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レモン様の芳香を持つハーブの精油
植物には数多く「レモンのような」と称される香りを持つものが存在しています。
日本で精油原料として特にポピュラーなのは、レモンバーベナ、レモンバーム(メリッサ)、 レモングラスの3種類。レモンバームはハーバルな印象が、レモングラスは清涼感・レモン感が、レモンバーベナはフローラルな印象が強い…と同じ「レモンのような香り」でも雰囲気は異なります。
実は、レモンのような香りがある点は共通していても、それぞれ原産地も植物分類上も離れた存在。
レモンバーム:ヨーロッパ原産/シソ科
レモングラス:アジア南部原産/イネ科
レモンバーベナ:南米原産/クマツヅラ科
また、近年注目されている精油のレモンマートルやレモンティーツリーはオーストラリアが原産です。
香料原料データ
- 通称
- レモンバーベナ(Lemon Verbena)
- 別名
- コウスイボク(香水木)、ボウシュウボク(防臭木)、lemon beebrush
- 学名
- Aloysia citriodora
(syn.Lippa citrodora / Verbena triphyllaなど) - 科名/種類
- クマツヅラ科コウスイボク属/落葉低木
- 主産地
- フランス、モロッコ、スぺイン、アルジェリア、アルゼンチン
- 抽出部位
- 葉
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 淡い黄色~薄オレンジ色
- 粘性
- 低い
- ノート
- トップノート
- 香り度合い
- 強め
- 精油成分
- シトラール、ゲラニオール、1,8-シネオール、リモネン、ネロール、リナロール、α-クルクメン、β-カリオフィレンオキシドなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア・防虫
甘いレモンジュースのような、フルーティーかつフローラルな香り
レモンバーベナ精油に期待される働き・効能
レモンバーベナの成分について
スッキリとしたレモン系の香りを持つことから、レモンバーベナ精油もアルデヒド類のシトラール(ネラールとゲラ二アールを合わせたもの)が多く含まれているようなイメージがあります。実際に成分量を掲載されている精油メーカーさんのものは、シトラールが多く含有されているものが大半です。
しかし、2017年『Biochemical Systematics and Ecology』に発表されたGC/MS分析では、アルゼンチン北西部のレモンバーベナ精油だけでも組成に大きな違いがあり、4つの異なるケモタイプに分類できることが示されています[1]。36個のサンプルのうち主成分としてシトラールが含まれていたのは2個だけだったことも報告されていますから、精油の成分や作用は製品によって大きな差があると考えられます。
そのほかシラーズ医科大学の分析では露地栽培・温室栽培・水耕栽培によって揮発性油成分に違いが見られたことも2014年に発表されています。精油は製品によって成分比率に差があるものですが、レモンバーベナの場合は顕著である可能性が高いと言えます。以下ではシトラール含有率の高いレモンバーベナ精油を主軸に、民間療法上での効果やエビデンスを紹介します。
精神面への作用と効果
伝統的にレモンバーベナの香りは心を落ち着ける=鎮静作用を持つと考えられてきました。精油も心を落ち着かせて気分を高揚させる働きがあるとして、ストレス軽減・リラックスを促進のための香りとして使われています[3]。なんとなく落ち着きがない時・睡眠関係のトラブルがある時にも役立つ精油の1つに数えられることも。レモンバーベナはサッパリした明るい香りが魅力ですから、お疲れ気味の時にお部屋に香らせてみても良さそうですね。
レモンバーベナに抗不安作用や抗うつ作用、鎮静作用が報告されている研究もある、と紹介されることもあります。例えば、2016年に発表されたラットを使った研究では“抗けいれん作用、抗不安作用、鎮静作用が見られた”という発表がされています[4]。こうした研究は伝統的効能を裏付けするように思えますが、実は有効性を示している研究報告の大半が“レモンバーベナ抽出物の経口摂取”によるもの。芳香の吸引ではありません。
植物として見ると、レモンバーベナには精油成分以外にフラボノイドやタンニンなどの化合物も含まれています。報告されている有用性はこうした成分によるものですので、芳香だけでどの程度の効果があるかは未知数。芳香成分の中にもリモネンなどリラックス効果や抗不安作用が示唆されている成分が含まれているため、メンタルサポートに有益な働きを持つ可能性はありますが、過度な期待は避けましょう。
肉体面への作用と効果
レモンバーベナは自然療法の中では消化器系の問題の治療に活用されてきたハーブ。鎮痙作用や抗炎症作用を持つと考えられ、レモンバーベナ精油も補助療法として使われています[3]。レモンバーベナ精油に含まれているモノテルペン炭化水素類の一種“リモネン”も胃腸サポートに役立つのでは、と期待されている成分です。ただし、リモネンの有効性を示唆した報告も、ほとんどが動物実験での経口投与。芳香吸引、アロママッサージに使用することでどの程度の効果があるかは分かっていません。
空気浄化にも
レモンバーベナは比較的含有率の高いリモネンやシトラールのほか、30種類以上もの精油成分を含んでいます。リモネンやシトラールは抗菌作用・抗真菌作用を持つ事が報告されてており、レモンバーベナの精油にも抗菌・抗真菌作用が見られたとの研究発表があること[5]から、空気中に拡散することで消毒剤のようにして働き、有害な菌類の増殖を抑制してくれるのではないかと期待されています。
その他に期待される作用
肌への働きかけ
レモンバーベナの精油は皮膚を清潔に保つ働きが期待されています。加えて皮脂分泌を整える働きがあるという見解があること、ゲラニアールやシトラールには抗炎症(抗ヒスタミン作用)作用も期待されているため脂性肌や皮膚トラブルのケアにも役立つのではという説もあります。また、関節炎やリウマチなどの緩和マッサージに使われることもあります。
しかし、レモンバーベナ精油に含まれているシトラールやシトロネラールなどのアルデヒド類は皮膚刺激性が高い・感作作用(アレルギー性)があることが指摘されています。アレルギー性接触皮膚炎ほか炎症を起こす原因ともなりますので、低濃度希釈でパッチテストは必ず行いましょう。
虫除け・防虫に
レモンバーベナは原産地である南米で、古くから虫除けとして活用されていたハーブ。精油に含まれるゲラニオールやシトロネラールなどの芳香成分は昆虫忌避作用があり、特に蚊が嫌う香り[3]。このため、レモンバーベナの精油は天然の虫よけ成分として、網戸にスプレーしたり、虫除けスプレー作りなどにも重宝されています。
2006年9月『Parasitology Research』に発表された研究ではレモンバーベナ精油がネッタイシマカ、ハマダラカ、ネッタイイエカの第三齢幼虫に対して殺幼虫効果を発揮したことも示されています[6]。蚊が産卵しそうな、水が溜まっている場所にスプレーするなどの使い方をする方もいらっしゃるようです。
レモンバーベナが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレス・精神疲労
- 緊張・イライラしている
- 不安・気持ちの落ち込みに
- 落ち着かない時に
- 前向きになりたい時に
【肉体面】
- 胃腸機能を整えるサポートに
- 関節炎やリウマチのケアに
- 空気をきれいに保ちたい時に
- 虫除けを兼ねたアロマとして
- 手作りの蚊よけスプレーに
レモンバーベナの利用と注意点について
相性の良い香り
ハーブ系・フローラル系と特に相性が良いとされていますが、柑橘系やオリエンタル系の精油ともブレンドしやすい香りです。レモンに近い香りで、比較的相手を選ばない精油と言えるでしょう。
レモンバーベナのブレンド例
- 心を落ち着かせる⇒クラリセージ、フランキンセンス、エレミ
- 前向きになりたい時⇒ラベンダー、イランイラン、ゼラニウム
- 血行促進・冷え対策に⇒マジョラム、マンダリン、カモミール
- 風邪予防やケアに⇒レモン、パルマローザ、バルサムトルー
レモンバーベナ精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- [1]Lemon Verbena – The Lost Herbs
- [2]Larvicidal effects of various essential oils against Aedes, Anopheles, and Culex larvae (Diptera, Culicidae)
- [3]10 Iconic Benefits and Uses of Lemon Verbena Essential Oil
- [4]Anticonvulsant, Anxiolytic, and Sedative Activities of Verbena officinalis
- [5]Evaluation of antioxidant and antimicrobial activity of Aloysia triphylla
- [6]Larvicidal effects of various essential oils against Aedes, Anopheles, and Culex larvae (Diptera, Culicidae)