女性の不調・消化器サポートに期待
スパイシーさもありつつ、甘く華やかな香りが特徴的なフェンネル。最も栽培の歴史が古いグループと称される植物で、紀元前から薬として利用されてきたハーブでもあります。香りは不安を和らげて気持ちを鎮める働きや、胃腸機能を整える働きが期待されています。精油の主成分はアネトールで、女性のバランスを整える手付けも期待されていますよ。
Contents
フェンネル・スイートとは
フェンネルの特徴・歴史
甘くスパイシーな香りが特徴的なフェネル。洋食系のレシピであれば卵料理や魚料理に、インドではカレー料理に、中国では五香粉の原料として様々な料理に、と世界中で使用されている香辛料の一つでもあります。ピクルス液を作る時に香り付けとして使う方もいらっしゃるのではないでしょうか。とは言え、名前は知っているけれどフェンネルに親しみがあるかと言えば微妙……という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日本で主に利用されている“フェンネル”は、緑色をして米粒に似た形状のフェンネルシード。便宜上シード(種子)と呼んでいますが、厳密には種子ではなく果実部分です。フェンネルは種子意外に、葉の部分もハーブとして利用されています。ヨーロッパではフェンネルの葉を魚料理に使うことから「魚のハーブ」との別名もあり、ブーケガルニにも使われています。ちなみに、野菜もしくは香味野菜として使われるタマネギに似た形状の“フィノッキオ”もフェンネルの鱗茎。
そんなフェンネルは地中海沿岸地域が原産の、セリ科に分類される植物。同じくセリ科にはクミン・キャラウェイ・ディルシードなど、フェンネルと共通点のあるハーブはいくつもあります。ミントのような雰囲気のディル、スパイシー感が強いクミン、など香りそれぞれ違いますが、アニスとフェンネルは香りも似た系統で区別しにくい存在。ハーブの場合は、アニスシードが丸っこい形、フェンネルシードは縦長形をと見た目で区別することができます。
フェンネルは、栽培の歴史が最も古い植物にカテゴライズされる植物。原産地周辺で栄えた古代エジプト・古代ギリシアでは既に栽培も行われていたと考えられています。紀元前1500年頃に書かれたと推測される『エーベルス・パピルス』にも、アニスやクミン、ニンニク、ミントなどと共にフェンネルの名前が記されています[1]。『エーベルス・パピルス』は古代エジプトの医学書ですから、当時既に何らかの薬効がある植物・香辛料であると考えられていたのでしょう。
古代ギリシアの医師で“医学の父”と称されるヒポクラテスも、30以上の処方でフェンネルを使用していました。不妊や産後ケアなど婦人科系の治療にも利用されていたようです[2]。そのほかローマの大プリニウスが著した『博物誌』などにもフェンネルについて触れられており、当時の地中海沿岸国では重要な生薬として扱われていたことがうかがえます。フェンネルはカモミールやネトル・マグワート・クレソンなどと共に“アングロサクソンの9つの神聖なハーブ”の一つでもありますよ。古代から薬草としても非常に重宝されていたためヨーロッパでは「フェンネルを見ても摘もうとしない者は悪魔である」なんて言葉もあったのだとか。
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地中海沿岸からインドや中国にもフェンネルは伝わり、現在に至るまで伝統医療の中で生薬として使用されています。日本にも平安時代に生薬「茴香(ウイキョウ)」として中国から伝えられ、健胃整腸・鎮痛・去痰・女性領域などに効能を持つ薬草として利用されています。スターアニス(大茴香)と区別するために「小茴香」と呼ばれたり、ディルと同じく「姫茴香」と呼ばれることもあります。現在でも茴香(フェンネル)は生薬成分として太田胃散や仁丹・のど飴などにも配合されていますよ。精油も香水・石鹸や化粧品類などに利用されていますから、料理に使うことはなくとも意外と身近にあるハーブと言えるかもしれませんね。
フェンネルの種類について
精油やハーブとして使用される時、単にフェンネルはなく“フェンネル・スイート”と表記されることもあります。これは同じフェンネル(学名Foeniculum vulgare)の中にも品種があり、特徴や成分にも違いがあるためです。
ポピュラーなフェンネルは、ビターフェンネル (F. vulgare var. amara) とスイートフェンネル (F. vulgare var. dulce)の2タイプに分けられています[3]。ちなみに、茎の部分が膨らんでフィノッキオを収穫することが出来るのは、フローレンス・フェンネル(Foeniculum vulgare ver. dulce)という品種。
ビターフェンネルはコモンフェンネルやワイルドフェンネルとも呼ばれ、名前の通り苦味が強く野性味のある風味が特徴です。このビターフェンネルからも精油は抽出されていますが、刺激性・毒性が強いため、家庭での使用やアロマテラピーには適していません。ビターではなく、家庭でも比較的使いやすい「スイートフェンネルを使っていますよ」とわかりやすいように書かれているわけです。
香料原料データ
- 通称
- フェンネル(Fennel)
- 別名
- フェンネル・スイート(Fennel Sweet)、フェンネル・シード(Fennel seeds)、茴香(ウイキョウ)、小茴香、甘茴香、フヌイユ (fenouil)
- 学名
- Foeniculum vulgare
- 科名/種類
- セリ科ウイキョウ属/多年草
- 主産地
- イタリア、フランス、ハンガリー、ギリシアなど
- 抽出部位
- 果実(一般的には種子と呼ばれている部分)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- ほぼ無色~淡いクリーム色
- 粘性
- 低い
- ノート
- ミドルノート
- 香り度合い
- 中~強め
- 精油成分
- trans-アネトール、エストラゴール、フェンコン、リモネン、α-ピネン、α-フェランドレンなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア
甘くスパイシー、どことなくフローラル感もある華やかな香り
フェンネル・スイート精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
アロマテラピーでフェンネル・スイートは、心(精神)に対しての強壮作用・抗うつ作用を持つと信じられています[3]。マウスを使った実験でもフェンネルのエッセンシャルオイルを投与したマウスは不安測定テストの結果が向上したことが報告され、不安神経症の治療に対しての有望性も示唆されています[4]。リモネンやα-ピネンなど鎮静・リラックス効果が期待されている芳香成分も含まれていますから、ストレスや緊張で疲弊した心のケアをサポートしてくれる可能性もあるでしょう。
また、フェンネルはスパイシーさを含む甘やかな香りから、リフレッシュ用として使わる事もあります。心配や不安を和らげる働きが期待できるので、緊張が続いてイライラしたり、反対に気分が落ち込んでしまりした時に適しているでしょう。シャッキリと頭を覚醒させると言うよりは、心のバランスを整えことから集中力や自信を取り戻す結果につながる可能性が高いでしょう。フェンネル精油はスパイス系にカテゴライズされているものの、柔らかくフローラルな印象もある香り。癒やし空間の演出としても役立ちますよ。
肉体面への作用と効果
フェンネルはヨーロッパで消化機能を高めるハーブとして利用され、東洋では生薬“茴香”として胃腸の不調に処方されてきました。茴香は芳香健胃剤に分類される=香りによる働きが大きいと考えられていますし、アロマテラピーでも下痢、便秘、腹部の膨満感などお腹の不調に対するマッサージに活用されています[3][5]。抗不安作用など精神面への働きかけと相乗して、神経性の胃痛や腹痛軽減に繋がる可能性もあるでしょう。研究では抗菌作用や抗炎症作用、肝保護作用が見られたことも報告されています[6]。
そのほか、フェンネルは1世紀に『薬物誌』を記したペダニウス・ディオスコリデスの時代から、利尿効果を持つハーブとして使われてきた歴史があります[2]。現代でも民間療法では利尿作用によって体内の老廃物・毒素などの排出を促進するデトックスをサポート、むくみやセルライトの予防・解消効果が期待されています。フェンネル精油が痩身用マッサージオイルに使われることもありますよ。
ちなみに、フェンネルは食欲抑制にも取り入れられてきたハーブ。ヨーロッパではフェンネルを使ったドリンクを食欲抑制剤として利用したという逸話もあることから、食べ過ぎ予防に役立つ香りとする見解もあります。しかし、食欲促進に役立つという研究結果もある[5]ため、注意が必要。謳われている効能を過信しないようにしましょう。
女性の身体への働きかけも
フェンネルはアニスシードやスターアニスなどと同様に“トランス-アネトール”という成分を多く含み、女性の身体への働きかけがある精油として使用されることもあります。これはヒポクラテスの時代から婦人科系の諸症状に対して使われてきた歴史的背景、現代でもフェンネルにエストロゲン様作用が見られたことが報告されていることが根拠になっています。
フェンネルの芳香成分であるトランス-アネトールはエストロゲンと似た構造・働きを持つと考えられています[6]。このため、フェンネルの精油は更年期障害やPMS(月経前症候群)・生理不順など、女性ホルモンのバランスの乱れから起こる諸不調のケアに取り入れられています。不安を和らげる手助けが期待できる精油でもありますから、精神的な不快感を伴う月経前症候群や更年期障害の症状軽減にも活用されています。
ただし、フェンネルオイルの有効性が示唆された報告の多くは摂取(投与)もしくは塗布のため、芳香吸引やマッサージに精油を使用した場合における有効性は分かっていません。フェンネル精油や抽出物を投与した臨床試験でも、有効性に関する報告は様々で改善が見られなかったという発表もあります[7]。ホルモン様作用を持つ可能性がある精油ですから妊娠中や授乳中・婦人科系疾患のある方の使用はNGですが、それ以外の場合も過度に期待しての使用は避けましょう。
その他に期待される作用
皮膚利用について
フェンネル・スイートの精油は皮膚を強壮しキレイに保つために使われています。優れた抗菌・抗真菌作用がみられたこと、抗炎症作用を持つ可能性が示唆されている[6]ことから、ニキビ予防や脂性肌のケアに取り入れられることが多いです。また、抗酸化作用を持つことから、肌のくすみ改善や潤いと弾力を取り戻す働きが期待され、シワ・シミ・たるみなどが気になる時のケアに使われることもあるようです。
ただし、スターアニスよりは含有率が低いものの、主成分であるトランス-アネトールは皮膚刺激性を持つことが指摘されている成分でもあります。肌が弱い方はラベンダーなど皮膚刺激性の低い精油を選ぶほうが無難でしょう。敏感肌ではない、という場合も希釈濃度には注意し、十分なパッチテストを行った上で使用するようにしましょう。
フェンネルが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- 不安、神経疲労
- 精神的なストレスを感じる
- イライラしやすい
- 情緒不安定な時に
- 前向きさ・自信が欲しい
- 集中力散漫になっていると感じる
【肉体面】
- 食欲不振・消化不良
- お腹の張り・便秘・下痢
- 新京成の胃痛・腹痛
- PMS・更年期障害の軽減に
- 月経不順改善のサポートに
- むくみ予防・デトックスに
- 脂性肌・ニキビ肌のケアに
フェンネル・スイートの利用と注意点について
相性の良い香り
甘くスパイシーな香りのフェンネル精油は、サッパリとした柑橘系の香りとの相性が抜群。重く濃厚な雰囲気の精油とのブレンドは難しいですが、ライトな印象があるフローラル系やハーブ系の香りとも組み合わせやすいです。好みが分かれますがスパイシーで個性的な香りが好きな方であれば、似た印象があるスパイス系精油とのブレンドも面白いですよ。
フェンネルのブレンド例
- PMS・更年期障害に⇒ゼラニウム、ローズ、アンジェリカ
- 心を落ち着かせる⇒ラベンダー、サンダルウッド、バジル
- 憂鬱感の軽減に⇒ベルガモット、グレープフルーツ、アニス
- むくみ予防・ケアに⇒レモン、ローズマリー、ジンジャー
フェンネル精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さん、てんかんの方は使用できません。
- 高濃度・長時間の使用は控えましょう。
- 敏感肌の方は芳香浴であっても皮膚を刺激する場合があります。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- [1]History of Spices – McCormick Science Institute
- [2]FENNEL – Herbs in History
- [3]Fennel Essential Oil
- [4]Evaluation of anxiolytic activity of the essential oil of the aerial part of Foeniculum vulgare Miller in mice
- [5]Appetite-enhancing effects of inhaling cinnamon, clove, and fennel essential oils containing phenylpropanoid analogues
- [6]Foeniculum vulgare: A comprehensive review of its traditional use, phytochemistry, pharmacology, and safety
- [7]Foeniculum vulgare as Valuable Plant in Management of Women’s Health