心のサポートにも、抗菌消臭剤としても
日本人にはお馴染みの「桧の香り」に似た、親しみやすいウッディーな香りを持つサイプレス。ヒノキ科イトスギ属に分類される樹木で、地中海沿岸地域を中心に古くから親しまれてきた歴史を持ちます。古くは呼吸器系の治療にも用いられていた植物で、精油もα-ピネンを多く含むことから抗菌作用が期待されています。森の中にいるような香りはリラックスタイプの演出にも役立ちますし、抗菌剤や消臭剤代わりとしても活用出来ますよ。
Contents
サイプレスとは
サイプレスの特徴・歴史
日本人であれば檜(ヒノキ)を連想するような、ウッディーでしっとりと落ち着くような香りのサイプレス。広義でサイプレスという言葉はイトスギ属もしくはヒノキ科の樹木を指す言葉ですが、特に香料植物としては単に「サイプレス」と言った場合は学名Cupressus sempervirens、イタリアンサイプレスやトスカーナサイプレスとも呼ばれるホソイトスギのことを指すのが一般的です。別名からも想像できるように地中海沿岸地域が原産で、香りの印象通りヒノキと比較的近い植物ですね。同科別属ではありますが日本ではサイプレスのことを“セイヨウヒノキ(西洋檜)”と呼ぶ場合もありますし、逆に欧米ではヒノキのことを“ジャパニーズ・サイプレス(Japanese cypress)”と呼んでいますよ。植物分類でも日本では「ヒノキ科」ですが、英語では「Cypress family」と呼んでいます。日本人にとってのヒノキに該当する樹木=西洋人にとってのサイプレスと言えるのではないでしょうか。
地中海沿岸地域に古くから自生していたサイプレスは、古代文化や宗教においても重要視されていた樹木の一つです。イスラム圏からヨーロッパまで広い範囲でサイプレスは死後の世界・地下世界と関連する植物として寺院や墓地などに植えられていました。またギリシア神話では太陽神アポロンのお気に入りだった美少年キュパリッソス(Cyparissus)が、誤って可愛がっていた雄鹿を殺してしまったために姿を変えた植物であると語られています。この話からもサイプレスが“死”と関わりのある植物と考えられていたことがうかがえますし、ヨーロッパでは古典的な“喪”を象徴する植物とも称されています。余談ですが地中海にあるキプロス(Cypros)島の名前も、島民がサイプレスを崇拝していたことから名付けられたと言われていますよ。
古代ギリシアだけではなく、古代ローマでもサイプレスは葬儀に使用されていたと考えられています。またキリスト教でもイエス・キリストの磔刑に使われた十字架は、サイプレスの木材を使ったものであるという伝説があるそう。サイプレスの花言葉は死・哀悼・絶望などですが、暗いイメージばかりではなく、バチカンのサンピエトロ大聖堂の建材として使われたり、お酒を製造する時に撹拌する棒として定番だったりという背景もあります。古代ギリシアでは健やかな呼吸のためにサイプレスの葉枝を燻した煙を使用し、アラビアでは呼吸器に優しいサイプレスの森に長期療養所を設けていたなどの記録もあります。木材としても、宗教上でも、各地の伝統医療の中でも多用される身近な樹木だったと言えるでしょう。
古くは伝統医療の中でも呼吸器を助けてくれるハーブとして利用されてきたサイプレス。チベットでは「浄化の香」とも呼ばれているそうですし、近年再びサイプレスなどのヒノキ科の精油がシックハウスの原因となるホルムアルデヒドの分解作用を有する可能性があることが報告されています。呼吸器を助けて空間を浄化するという話は単なる信仰上のものではないことが実証されつつあり、シックハウス対策に役立てる研究も進められているのだとか。サイプレス精油はヒノキと似た印象があり、老若男女問わずに受け入れやすい香りというメリットもあります。消臭効果も期待できる事と合わせてお部屋の芳香剤として、爽やかな印象を与えることから男性用の香水や化粧品の香料としても活用されていますよ。
香料原料データ
- 通称
- サイプレス(Cypress)
- 別名
- イタリアイトスギ(糸杉/Italian cypress)、ホソイトスギなど
- 学名
- Cupressus sempervirens
- 科名/種類
- ヒノキ科イトスギ属/常緑針葉樹
- 主産地
- スペイン、フランス、ドイツ、モロッコ
- 抽出部位
- 小枝、針葉 (球果を含むものも有)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- ほぼ無色~淡黄色
- ノート
- ミドルノート
- 香り度合い
- 中~弱め
- 精油成分
- α-ピネン、δ-3-カレン、テルピノレン、リモネン、酢酸テルピニル、テルピネン4オール、セドロールなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア・ハウスキーピング・消臭
ヒノキに似た、木々の中にいるような爽やかな香り
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サイプレスに期待される働き・効能
精神面への作用と効果
ほっと安らぐような、どこか懐かしいような森林系の香りを持つサイプレスの精油。アロマテラピーでは鎮静作用を持つ精油の一つとしてストレスを感じている時や、イライラ・不安がある時に心を落ち着けてくれる香りとして取り入れられています。不快な気分変化はもちろんですが、緊張していたり嬉しいことがあった時など、気分が昂ぶり浮ついてしまっている場面で冷静さや判断力を取り戻す手助けに取り入れられています。不安・気持ちの揺れを抑えて安らぎ感を与えることで、集中力を取り戻したり、心のつっかえ・わだかまりを軽減する働きがあるという説もありますよ。
成分的に見ても、サイプレス精油は森林揮発性物質(フィトンチッド)の一つであるα-ピネンが主成分。俗に“森林浴効果”を持つと称されるように、α-ピネンは森林浴をしている時と同じようなリラックス効果とリフレッシュ効果を与えてくれると考えられています。そのほかリモネンなどの成分にも鎮静作用やリフレッシュ効果が期待されていますから、合わせて心の安定をサポートしてくれるでしょう。気持ちのトラブルに対して幅広く取り入れられている精油の一つです。
安眠サポートにも期待
サイプレスに含まれているセドロールという成分は、自律神経系に作用する可能性を持つと注目されている成分でもあります。セドロールは香りはほとんど無い芳香成分で、花王株式会社ヘルスケア第2研究所が行った実験ではセドロールの香りを嗅ぐことによって心拍数・呼吸数・血圧の低下が見られたことが報告されています。また嗅ぐことで脳波のα波の増加が見られたこと、寝付くまでの時間の短縮や、睡眠の質の向上効果が見られたとの報告もあり、鎮静作用を持つ成分として注目されている存在。セドロールが自律神経系に作用することで心身ともにリラックス状態になるよう促し、気持ちを落ち着けるだけではなく、寝付きを良くしたり、睡眠の質を高めてくれるのではないかと期待されています。
肉体面への作用と効果
サイプレスの主成分であるα-ピネンは第七の栄養素とされる“ファイトケミカル”の一つとしても注目されている存在で、血流改善・胃液の分泌を促すことで食欲を高めるなど様々な働きを持つ可能性が報告されている成分でもあります。サイプレス精油も循環機能の強壮に役立つオイルとして伝統的に使用されてきた歴史があり、体の余分な水分や老廃物の排出を促すことからむくみの解消やセルライト対策のマッサージ用としても活用されています。循環を促してくれることから疲労回復、ダイエットサポートなどに効果が期待されている精油の一つでもありますよ。
加えてα-ピネンは殺菌・抗菌作用を持つ成分でもありますし、サイプレスにはリモネンなど同様の作用が期待できる成分も多く含まれています。鎮咳・鎮痙作用が期待できることと合わせて咳や風邪の初期症状・気管支炎のケアなどにも取り入れられていますよ。古代ギリシア時代から「健やかな呼吸」を助けてくれる植物として扱われていた歴史あり、百日咳や喘息など呼吸器トラブル全般に活用されています。そのほか鎮痙作用から足が攣りやすい方のデイリーケアに使われたり、止血作用によって鼻血や出血過多のケアに用いられることもあるようです。
女性の体への働きかけは?
サイプレスは妊娠中の使用を避けるべき精油の一つに数えられている存在で、生殖器系に対して何らかの働きかけを持つのではないかと考えられています。作用する成分や作用秩序についてはっきりしたことは分かっていないものの、不正出血や月経不順などの生理トラブルから、更年期障害・PMS(月経前症候群)などホルモンバランスの乱れから引き起こされる婦人科系トラブル軽減に役立つという説もあります。生殖器・女性ホルモンへの働きかけについては根拠が曖昧ですが、止血作用が期待できることから不正出血や月経過多のケアに補助的に取り入れられることはあるようです。
その他に期待される作用
肌への働きかけ
サイプレスのエッセンシャルオイルは肌に対しても様々な手助けをしてくれると考えられています。毛穴や皮膚のたるみを引き締める収斂作用を持つと考えられることから、脂性肌やイチゴ鼻・毛穴の黒ずみが気になる方・たるみが気になるお肌のケアなどにも用いられていますよ。皮脂分泌調整作用があるとされていることから、特に脂性肌・ニキビケアに役立つ精油と考えられています。
そのほか癒傷・瘢痕形成によって傷の治りを早める、傷跡や妊娠線などを目立ちにくくする働きも期待されています。抗菌作用や防腐作用もあることから、現在のように安全性の高い皮膚軟膏が無い時代には傷のケアにも利用されていた歴史がありますよ。また抗炎症作用を持つとも考えられていますが、肌が弱い方の場合は逆に刺激になってしまうため注意が必要。開封して時間が経ち劣化したものは皮膚刺激性が高くなるという指摘もありますから、お肌用として使用したい場合は少量ずつ購入し早めに使い切るようにしましょう。
抗菌・消臭剤として
サイプレスの持つ殺菌・抗菌特性は雑菌などの繁殖を抑えて周囲を清潔に保つだけではなく、バクテリアの繁殖を抑えることで消臭効果にも繋がります。収れん作用によって汗や皮脂を抑える働きも期待できるためデオドラント(消臭)に優れた精油としてもサイプレスは使用されています。フットバスに数滴サイプレス精油を落とすことで足の臭い対策に役立ちますし、ヒノキに近く人を選ばない香りであることからお年寄りや男性にもアロマバスとして受け入れられやすいのもメリット。
もちろん体臭対策だけではなく、空間や小物類の抗菌消臭剤としても活用できます。ぬめり・臭いが気になる水回りのお掃除に活用したり、洗濯物の部屋干し臭対策になど使い方は様々。デュフューザーで拡散したりカーテンなどアロマスプレーとして吹きかけておくと、お部屋の消臭だけではなく、風邪予防にも役立ってくれるかもしれません。
サイプレスが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- イライラ・不安
- ストレス・緊張
- 気持ちが落ち着かない
- 精神的に疲労感がある
- リラックスしたい時
- 寝付きが悪い・眠りが浅い
- 思考がまとまらない
- 心を強く持ちたい
【肉体面】
- 咳・気管支炎・喘息
- 足が攣る・筋肉痙攣
- むくみ・セルライトケアに
- 風邪予防・初期症状ケアに
- 不正出血・月経過多
- 脂性肌・ニキビ予防に
- 肌のたるみ・毛穴ケアに
- 消臭(デオドラント)用として
サイプレスの利用と注意点について
相性の良い香り
柑橘系精油との相性が非常に良いと言われていますが、他の系統の香りともブレンドしやすいです。同系統のウッディー系をはじめ、樹脂系・ハーブ系などとも組み合わせやすいでしょう。似た印象のあるヒノキ精油とブレンドすると奥行きのある印象になりますよ。
サイプレスのブレンド例
- リラックス・安眠⇒ラベンダー、カモミール、オレンジ
- むくみケアに⇒ジュニパー、シダーウッド、マンダリン
- ホルモンバランス調整⇒クラリセージ、サンダルウッド
- 呼吸器系の不調に⇒マジョラム、パイン、ラブダナム
サイプレス精油の注意点
- 妊娠中の方、てんかんのある方は使用を避けましょう。
- 高濃度で使用すると皮膚を刺激する場合があります。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
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参考元