使い勝手の良い、柔らかな香り
フランキンセンス(乳香)はアラビアで6,000年以上も前から用いられていたとも伝えられる、世界屈指の歴史を持つ薫香の一つです。古代から宗教儀式に多用されたこともあり精神的な部分でのサポートが期待されているほか、近年はスキンケア精油としても注目されています。
Contents
フランキンセンス(乳香/オリバナム)とは
フランキンセンスの特徴・歴史
古代から受け継がれる神秘的な香りであり、エイジングケアに適した精油としても話題となったフランキンセンス。樹脂系の中ではマイルドな芳香で、レモンのようなと称されるスッキリとした香りが特徴的な精油です。バルサミック感が苦手な方にも受け入れられやすいため、フランキンセンスの精油はシトラス系・オリエンタル系・フローラル系など香りの系統を問わず、香水や香料として使われています。
フランキンセンスはミルラと共に“世界で最も歴史ある薫香の1つ”とも称される、芳香を持った樹脂。和名で“乳香”とも呼ばれています。パチョリやサンダルウッドなどと同様に、時間の経過に伴い香りが良くなる性質を持った精油の一つでもありますよ。香りの保留性も高いので、まさに古代の香りと言ったところでしょう。
フランキンセンスは古代エジプト、バビロニア、ヘブライなど様々な文明の中で宗教儀式に用いられてきた薫香で、少なくとも紀元前1500年までには香料・香水のようにも使用されていたと考えられています[1]。旧約聖書の『創世記(37:25)』には“ギルアデからエジプトに向かうイシュマエル人の隊商がラクダに樹膠と乳香と没薬を背負わせている”という描写も。また、アラビア半島のフランキンセンス取引については6,000年以上前から行われているという説もあります。アラビア半島の南東にあるオマーンは乳香の名産地で、乳香貿易で栄えた街。古代の乳香交易路とも言える世界遺産「Land of Frankincense(乳香の土地)」も残っています。
フランキンセンスが登場する文献として、新約聖書がよく紹介されます。ベツレヘムへと駆けつけた東方の三博士が“ひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた”というイエス・キリストの誕生を描いた『マタイによる福音書(2:11)』エピソードです。当時ミルラやフランキンセンスが黄金と同等に扱われていたことが分かりますね。イエス・キリスト誕生のずっと前からフランキンセンスは宗教儀礼の薫香として重要視されていた存在。黄金=偉大な商人、ミルラ=偉大な医者、フランキンセンス=偉大な預言者を象徴しているという解釈もあります。
香料・薫香としてだけではなく、フランキンセンスは古代の人々にとって薬としても使われていました。古代エジプトの医学書『エーベルス・パピルス(Ebers Papyrus)』には乳香が呼吸器系トラブルに良いと記されています[1]。中医学では感情バランスや関節痛に、インドのアーユルヴェーダでは呼吸器系トラブルやリウマチの治療に使用されてきました[2]。日本でこそあまり馴染みがないものの、ユーラシア大陸の広範囲でフランキンセンスは伝統医療・民間療法に使用されてきた歴史があるのです。現在でも伝統医療上の効能の解明・現代医療への活用できるか、有効性について研究が進められています。
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フランキンセンスの呼び名と種類
和名でフランキンセンスは「乳香」。乳っぽい香りがあるわけでもないのに「乳香」と呼ばれている理由は、樹液の色が乳白色をしているから・輸送によって表面が白く粉が吹いたような状態になっていたからという2つの説があります。また、フランキンセンスではなくオリバナム(olibanum)と呼ばれることもありますが、こちらはラテン語の“libanum(レバノン産の油)”もしくはアラビア語の“乳”を表す言葉が語源とされています。
フランキンセンスや乳香・オリバナムという言葉はカンラン科ボスウェリア属のうち5種類の樹木から採集される芳香性樹脂の総称[1]。その中で最上級品とされているのはオマーン、イエメン産のBoswellia sacraiの樹脂です。小売の精油として流通しているものはBoswellia carteriiを原料としているものが多いように感じられます。呼び名の由来説には樹脂の白さが登場しますが、空気に触れて固化したフランキンセンス樹脂はやや暗めの乳白色から橙色。
2018年夏に『Nature Sustainability』に“世界の無傷の乳香の森の半分が20年以内に失くなってしまう可能性がある”という研究が発表された[2]ことで、フランキンセンスの保護活動も進められています。減少の理由は気候変動、農業のために森林が焼かれる・戦争など複数。そのほか自然志向の人が増えて需要が急増したことで、現金収入のために短時間で可能な限り多くの樹脂を採ろうとして木を痛めつけてしまうことも問題視されています。消費者側としても無駄遣いをしないよう心がけたいものですね。
香料原料データ
- 通称
- フランキンセンス(Frankincense)
- 別名
- オリバナム(olibanum)、乳香(ニュウコウ)
- 学名
- Boswellia carterii
Boswellia sacraなど - 科名/種類
- カンラン科ボスウェリア属/低木
- 主産地
- オマーン、ソマリア、イラン、レバノン
- 抽出部位
- 樹脂
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 淡い黄色~オレンジ色
- 粘性
- 少しある
- ノート
- ベースノート
- 香り度合い
- 強め
- 精油成分
- α-ピネン、リモネン、α-ツジェン、α-フェランドレン、β-カリオフィレン、δ-カジネン、ミルセン、サビネンなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・スキンケア・ヘアケア
ほのかにレモンの様な爽やかさを含む、澄んだ神秘的な香り
フランキンセンス精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
フランキンセンスは、古くからスピリチュアルな感性を高める薫香として利用されてきた存在[2]。現代でもアロマテラピーなどでは、フランキンセンスは鎮静作用を持つ精油として、慢性的なストレスや不安の軽減に用いられることも。香りが気持ちを落ち着かせるという以外に、呼吸をゆっくりにすることで心を鎮めるという説もあります。
成分的に見ても、フランキンセンスは森林浴効果・強壮作用が期待できるα-ピネン、鎮静・リラックス効果が期待できるリモネンなどが含まれています。ラットを使った実験では、フランキンセンス精油にストレス軽減効果が見られたという研究報告もあります[3]。
また、フランキンセンスの樹脂に含まれている酢酸インセンソール(Incensole acetate)という成分に、抗不安・抗うつ作用が見られたという研究発表もあり、お香として焚くことで実際に精神活性を誘発している可能性も示唆されています[4]。
ただし、こうした研究は数が少なく、有効性については可能性があるという段階。医薬品のような効果を期待して使用するのは避けましょう。フランキンセンスの香りが好き、自分のメンタル維持に役立ってくれているように感じる、という思える場合に、日常生活のサポートとして取り入れるのは良いでしょう。
肉体面への作用と効果
フランキンセンス精油はメンタルサポートに役立つ精油として、ストレス・精神面に起因する頭痛や腹痛・胃痛など幅広い不調の軽減にも利用されています。また、フランキンセンスは伝統医療の中で抗炎症剤として森要られてきた歴史があることから、関節炎やリウマチなどによる痛みのケアに用いられることもあります。
ちなみに、試験管および動物試験ではフランキンセンスに含まれているボスウェリア酸(Boswellic acid)に優れた抗炎症作用がある可能性や、ボスウェリア製剤によって被験者の変形性関節症や関節リウマチの炎症軽減効果が見られた事が報告されています[5]。しかし、人での有効性をしたしたものはサプリメントなどの製剤の経口摂取。ボスウェリア酸は不揮発性のトリテルペンで、水蒸気蒸留された精油にはほぼ含まれていません。精油をキャリアオイルで希釈してマッサージ、という場合の有効性については未知数です。
冷え・女性の不調緩和にも期待
鎮静作用によって副交感神経の活発化・自律神経のバランスを整えることにも繋がると考えられることから、フランキンセンスは更年期障害、生理前のイライラなどのPMS(月経前症候群)による精神的トラブルの軽減にも取り入れられています。自律神経を整えることでホルモンバランスの乱れを予防・緩和する働きも期待されていますが、フランキンセンスが女性の体に対してどう作用するのか研究は行われていません。ストレス対策の一環として取り入れる程度にしましょう。
呼吸器系サポートにも期待されるが…
フランキンセンス(乳香)は『エーベルス・パピルス』が研鑽された古代エジプト時代から、伝統的に呼吸を整えるハーブの一つとしても用いられてきました。精油も民間療法の中では咳、気管支炎、喘息など呼吸器トラブルのケア用いられています。現代でもフランキンセンスが呼吸器に及ぼす影響は研究されており、息切れや喘鳴などの症状改善が見られたとの報告もあります[6]。
しかし、こちらも基本的にはフランキンセンス抽出物を含む製剤(サプリメント)の摂取実験であり、抗炎症作用や呼吸器筋肉の収縮を促すロイコトリエン阻害作用を持つ可能性がある成分としてボスウェリア酸が登場しています。精油を使用した芳香吸引やマッサージによって有益な作用が得られるかは分かっていません。
その他に期待される作用
肌への働きかけ
フランキンセンスはきれいな肌を保つのに役立つのでは…、と世界中の女性に注目されている精油でもあります。古くはクレオパトラが若さと美しさを保つために、現代で言うフェイスパックやローションのようにしてフランキンセンスを使用していたという逸話もあり、日本でも「若返りの精油」と報じらたことで一時期ちょっとしたブームになりました。
フランキンセンスが肌のアンチエイジングに使用されてきた逸話があるのは、伝統的に収斂作用と皮膚細胞の成長促進作用を持つと考えられていたため。収斂作用は肌を引き締めることでシワやたるみの改善に、皮膚細胞成長促進作用は出来てしまったシワや傷跡などの回復を促すことに繋がると考えられます。
こうしたフランキンセンスの効能は伝統医療上の神話と考えられていましたが、2017年の『Biochimie Open』に発表された研究ではフランキンセンスエッセンシャルオイルがヒトの皮膚線維芽細胞に作用し、炎症誘発性バイオマーカーであるIP-10およびICAM-1のレベルを有意に低下させたこと・組織のリモデリングをサポートする可能性があることが報告されています[7]。
作用が実証されたとは言えない段階ですが、この報告によってアンチエイジングや傷跡・ニキビ跡・妊娠線などの緩和に役立つのではないかと期待度が高まっています。抗炎症作用を持つ可能性が示唆されていることから皮膚トラブルに役立つのではないかという見解もありますが、敏感肌の方はアレルギー性接触皮膚炎を起こす可能性も指摘されていますから、現在進行系の炎症部位に使用するのは避けましょう。
フランキンセンスが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- 精神疲労・ストレス
- 不安・緊張
- 気持ちの落ち込み・抑うつ>
- イライラ・興奮しやすい
- 気持ちがゆらぎやすい時に
- 瞑想のお供に
【肉体面】
- ストレス性の不調緩和に
- 自律神経の乱れが気になる
- 関節炎やリウマチの緩和ケアに
- 肌のアンチエイジングに
- 脂性肌ケア・ニキビ予防に
- 傷跡・ニキビ跡のケアに
フランキンセンスの利用と注意点について
相性の良い香り
スパイス系・オリエンタル系の香りと相性が良いとされています。フランキンセンスの精油は粘度が高く香りの持続率も良いので、香りが抜けやすい柑橘系とのブレンドにも適しているでしょう。
ネロリとブレンドすると相乗効果を発揮するという説もあります。
フランキンセンス精油のブレンド例
- 気分の落ち込みに⇒ベルガモット、オポパナックス、バイオレット
- 元気が欲しい時に⇒オレンジ、ゼラニウム、グレープフルーツ
- 風邪予防・ケアに⇒柚子、パイン、シナモン、ブラックペッパー
- スキンケア用として⇒ネロリ、ローズ、ラべンダー、ミルラ
フランキンセンス精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 皮膚を刺激する可能性があるため、敏感肌の方は使用に注意が必要です。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- [1]History of Frankincense, Ancient Aromatic Tree Resin
- [2]Why Frankincense Is Suddenly So Smoking Hot
- [3]The Effects of Frankincense Essential Oil on Stress in Rats
- [4]Incensole acetate, an incense component, elicits psychoactivity by activating TRPV3 channels in the brain
- [5]Benefits of antioxidant supplements for knee osteoarthritis: rationale and reality
- [6]Functional study on Boswellia phytosome ascomplementary intervention in asthmatic patients
- [7]Biological activities of frankincense essential oil in human dermal fibroblasts