女性サポート説もあるが毒性の懸念も
スパイス菓子もしくは漢方シロップを連想させる、スパイシーで甘い香りが特徴のアニス。地中海沿岸地域では古代から用いられてきたハーブの一つで、古代ローマでは食後にアニスをふんだんに使ったスパイスケーキを食べることで消化を助けていたという逸話もあります。精油はアネトールの含有率が高くホルモン様作用による更年期障害軽減などに期待されていますが、刺激性・毒性が高いことも指摘されているため注意が必要。
Contents
アニスシードとは
アニスの特徴・歴史
甘く、どこかオリエンタルな雰囲気も感じさせる香辛料、アニス。アニスシードやアニシードと呼ばれる部分はギリシアの特産品“ウーゾ”を筆頭としたハーブリキュール類の香料、カレーのスパイスやソース類、ケーキやクッキーなどの焼き菓子類と広く利用されています。イギリスには“アニシードボール(aniseed balls)”というアニス油で風味付けされた糖衣菓子がレトロスイーツの一つにも数えられているのだとか。そんなアニスはセリ科ハーブの一つで、ミツバグサ属に分類されています。別属ではありますがフェンネルとは香りも見た目もよく似た存在で、和名ではフェンネルを“茴香”と呼ぶのに対して、アニスことを“西洋茴香”と呼ぶ場合もあります。
両方とも原産地は地中海沿岸=同じ地域だと推測されているものの、アニスは“西洋茴香”とも称されるようにヨーロッパで多く用いられていたスパイス。アニスを使用したレシピを調べると欧州の焼き菓子やパンが多く紹介されています。それなのに香りにオリエンタルな印象を持つのは、アニスシードはスターアニス(八角)や甘草と同じく、独特の甘い芳香を持つアネトールという成分を多く含んでいるため。八角と言えば「入れれば中華っぽくなる」とまで称されるスパイスですから、欧州文化にそこまで馴染みがないと東洋の香りっぽく感じるのでしょう。フェンネルも“茴香”という名前で生薬として使用されていますしね。ちなみにフェンネルはセリ科ですが、八角はシキミ科と全く別物です。
地中海沿岸が原産とされるアニスは、古代エジプトや古代ギリシアなど地中海周辺で栄えた古代文明時代から様々に活用されてきたハーブ/スパイスの一つ。紀元前2000年~1500年頃にはエジプトと中東でアニスの栽培が行われ、当時から料理用と薬用の両方に使用されていたと推測されています。古代エジプトではミイラを作る際の消臭・防腐剤の一つとしてもアニスが使用されており、古代ギリシアでは鎮痛薬・利尿薬・母乳分泌をサポートするハーブとして使われていたそう。古代ギリシア文化を受け継いだ古代ローマ人もアニスを多用し、1世紀に『博物誌』を著した大プリニウスも頭痛緩和・痰切りや扁桃炎の治療に良いハーブとして記録しています。悪夢や邪眼除け(魔除け)の力を持つ植物としてもアニスは使用されていたそうですし、古代から中世まで媚薬的な効果を期待して使用されることも少なくなかったようです。
また、古代ローマ文化とアニスの関わりで外せないのがアニスを使ったスパイスケーキ。当時は消化不良や鼓腸対策として宴会の最後にスパイスケーキを食べる風習があり、アニスは消化を助けるスパイスとして美食を好んだ古代ローマ人達に高く評価されました。優れた働きからアニスは“Solamen intestinorum(腸を慰める者)”という別称まであったのだとか。薬用面でも近世までアニスは消化器系・呼吸器系の不調に利用され、イギリスの“アニシードボール”の原型とも言える砂糖でコーティングしたアニスシードは食後の消化促進剤・口臭対策に使われていたと考えられています。
香料原料データ
- 通称
- アニス(Anise)
- 別名
- アニスシード(anise seed)、アニシード(Aniseed)、西洋茴香(セイヨウウイキョウ)
- 学名
- Pimpinella anisum
- 科名/種類
- セリ科ミツバグサ属/一年草
- 主産地
- ギリシア、スペイン、エジプト、中国など
- 抽出部位
- 果実(※種子と呼ばれている部分)
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- 淡黄色~琥珀色
- 粘性
- 低温だと凝固する事がある
- ノート
- トップ~ミドルノート
- 香り度合い
- とても強い
- 精油成分
- trans-アネトール、γ-ヒマカレン、アニスアルデヒド、メチルチャビコール(エストラゴール)、リモネン、テルピネン-4-オール、リナロールなど
- おすすめ
- 芳香浴・マッサージ(※敏感肌・常用はNG)
甘草や八角に似た、甘くスパイシーで温かみのあるな香り
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アニス(シード)精油に期待される働き・効能
精神面への作用と効果
アニスシードが持つ独特の甘い香りはフェノールメチルエーテル類に分類されるアネトール(anethole)という芳香成分を主体に形成されています。製品によっても差がありますがアニス精油のアネトール含有量は概ね80%以上となっており、その他にはフェノールエーテル類のメチルチャビコール(エストラゴール)やリモネンなどが含まれています。主成分であるアネトールには鎮静作用が期待されているため、アニス精油も鎮静作用を持つとしてストレスや不安・緊張の緩和に利用されています。気持ちを落ち着かせてリラックスをサポートしてくれるため、寝付きが悪い時のサポーターに役立つという見解もあります。
アニスシードの香りによる精神的メリットを示唆した報告はほとんど存在していませんが、2014年『Phytotherapy Research』にはマウスを使った研究でトランスアネトールが抗不安薬様効果を示したことが発表されています。ちなみに経口摂取ではうつ病の症状軽減に役立つ可能性を示唆した研究報告もありますよ。経口摂取でも有効性が認められている段階ではありませんが、芳香成分による働きかけが関係する可能性・伝統的な用法からメンタルケアにアニスシードを取り入れるセラピストさんもいらっしゃるようです。
また、アロマテラピーでは“気持ちを快活にする(前向きにする)”精油とされ、気持ちが落ち込んでいる時・ストレスや心配事などで疲れて滅入ってしまった時のサポートにも使われています。ただし、アニスシード精油の主成分は神経毒性や肝毒性の指摘されるフェノールエーテル類(アネトール)のため高濃度・長時間の使用は避けましょう。
肉体面への作用と効果
古代ローマでは“Solamen intestinorum(腸を慰める者)”と呼ばれ、消化促進のために使用されていたと伝えられるアニス。アロマテラピーやハーブ療法などの民間療法では、精油についても胃腸機能を向上させ消化吸収を促進する働きを持つとされています。消化不良に対して使用されるだけではなく、鎮痙・鎮痛作用が期待できることから下痢や胃痛・腹痛・過敏性腸症候群(IBS)のケアに使用されることもあります。そのほかに腸に溜まったガスを排出させる働きや便秘解消に役立つという説もあり、日常的な胃腸のありとあらゆる不調ケアにアニス精油は使われていると言っても過言ではない状況です。
2005年『International Journal of Aromatherapy』ではブレンド精油(アニス・フェンネル・ローマンカモミール・ペパーミント)の使用により、多数のホスピスケア患者に吐き気症状の改善が見られたという研究報告が掲載されています。このため伝統的な効能と合わせてアニス精油は胸焼けや吐き気の緩和、特に神経性の吐き気や腹痛のケアに使用されています。ただし『International Journal of Aromatherapy』に発表された研究論文では“アロマテラピーによる吐き気改善の可能性”が示唆されているのみで有効性を断定したものではありません。それ以外にアニスの伝統的な伝統的効能の有効性は研究されていますが、アニス精油もしくは抽出物の経口摂取による評価が大半。芳香吸入によって何らかのメリットがあったという研究報告はごく少数です。作用については不明瞭な部分も多いため、取り入れる場合には自身の体調の変化を確認しながら利用しましょう。
消化器系以外に、アニスは咳などの呼吸器系の治療にも使用されてきた歴史もあります。精油も鎮痙作用や去痰作用・抗炎症作用があり咳や痰、喘息、気管支炎などの呼吸器系トラブルのケアに使用されています。モルモット摘出気管鎖による試験ではアニス精油による弛緩作用が観測され、気管支拡張作用によって呼吸を改善させる可能性が示唆されています。抗菌作用や抗ウィルス作用が報告されていることもあり、風邪予防や風邪による症状ケアにも効果が期待されています。そのほか抗炎症作用と弛緩作用を持つ可能性があることから、筋肉痛や関節リウマチ・神経痛などの炎症性不快の緩和マッサージに使用されることもあります。
女性の身体への働きかけも…
アニス精油の主成分であるトランスアネトールは女性ホルモンに似た分子構造を持ち、エストロゲン様作用を持つ可能性が報告されている成分でもあります。このためアニスは女性領域での不調、特にエストロゲンの減少によって起こる更年期障害の緩和に役立つのではないかと注目されています。閉経後女性に及ぶ影響についての研究も行われており、イランで行われた二重盲検臨床試験ではアニス抽出物カプセルを1日3回服用服用したグループに、閉経後の女性のほてりの頻度と重症度の軽減が見られたことが報告されています。また、2006年5月『 International Journal of Pharmacology』にはフェンネル精油の投与でラットの骨量減少が見られたこと・薬理効果に重要な役割をトランスアネトールが果たしている可能性が高いことが発表されています。
こうした報告は“投与”によるものですし、有効性があるかを判断するためにはより多くの研究が必要な段階です。精油を使用した芳香吸引やマッサージによる効果は更に分かっていませんが、トランスアネトールは芳香性成分のためアロマテラピー的利用でも更年期障害による不快感緩和に繋がるのではないかと期待されています。エストロゲン様成分はヒト本来のエストロゲンよりも作用が弱く、エストロゲンが過剰な場合には抑制方向に働く=ホルモンバランスを整えることにも繋がると考えられることから、月経不順や月経前症候群(PMS)、弛緩作用と合わせて生理痛の軽減に使用されることもあります。
その他に期待される作用
皮膚利用について
アニス精油は皮膚刺激性が強いことからスキンケアに使用されることは基本的にありません。成分的に見ると抗菌作用や抗ウィルス作用を持つと考えられること、in vitro試験ではカンジダアルビカンスを含む数種の真菌類に対しても有効であることが認められていることから皮膚感染症の予防に良いのではないかと考えられます。
防虫剤の代わりにも
アニスシードの主成分であるアネトールは昆虫忌避性を持つことが示されている成分。天然成分由来を売りにした防虫剤などに使用されていることもあり、ゴキブリやノミ・ダニに対して優れた忌避効果が期待されています。一時的な使用であればアニス精油をコットンなどに含ませお部屋に置いておいても良いですが、アネトールは毒性が指摘されている成分でもあります。強い香りが苦手・長時間使用したいという場合であれば製品化されたものを使用するか、ハーブ・香辛料として売られているものてポプリやサシェを作った方が安全です。
アニスが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレス・神経疲労
- 不安・緊張・興奮
- 気分の落ち込みに
- 寝付きが悪い時に
- 明るさが欲しい時に
- 前向きになりたい時に
【肉体面】
- 消化不良・腹痛・下痢
- 胸焼け・吐き気
- 咳・気管支炎・喘息
- 筋肉痛・関節炎などの緩和に
- 更年期障害の軽減に
- 月経前症候群・月経不順
アニスシードの利用と注意点について
相性の良い香り
人によっては少々鼻につくような甘くスパイシーな香りのアニスシード。一滴での香り自体もかなり強いので、ブレンドに利用する際には少量ずつ使用することをお勧めします。ブレンドしやすいのは柑橘系やスパイス系の香り。ハーブ系の香りともブレンドしやすいように感じますが、フローラル系やカンファー感の強い香りは量を間違えると大変なことになります。
アニスシードのブレンド例
- 心のサポートに⇒ベルガモット、シダーウッド、プチグレン
- 消化器サポートにマンダリン、ジンジャー、ミルラ、レモン
- 呼吸器サポートに⇒サンダルウッド、レモン、アミリス
- 防虫アロマとして⇒ラベンダー、ローレル、カンファーウッド
アニス精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- アニスシードの精油は作用が強く、神経毒性や肝毒性の指摘されるフェノールエーテル類が含まれています。低濃度に希釈して利用し、常用は避けましょう。
- 皮膚刺激性があるため敏感肌の方は注意が必要です。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- Anise · Mole Poblano
- Review of Pharmacological Properties and Chemical Constituents of Pimpinella anisum
- アロマテラピー ポケット図鑑(主婦の友社)
- 5 Anise Oil Uses and Health Benefits
- The palliation of nausea in hospice and palliative care patients with essential oils of Pimpinella anisum (aniseed), Foeniculum vulgare var. dulce (sweet fennel), Anthemis nobilis (Roman chamomile) and Mentha x piperita (peppermint)
- Relaxant effect of Pimpinella anisum on isolated guinea pig tracheal chains and its possible mechanism(s).
- The Study on the Effects of Pimpinella anisum on Relief and Recurrence of Menopausal Hot Flashes.