抗ウィルス作用が期待されるが…
マダガスカル精油を代表する一つであり、抗ウィルス作用を持つ可能性がある精油として注目されたラベンサラ。長らくクスノキのケモタイプである“ラヴィンサラ”と混同されてきた歴史があるため成分や作用については不明瞭な部分も多い精油ですが、リモネンやリナロールを含むことからリラックス効果や抗不安作用も期待されています。ただしエストラゴールを含んでいるため、高濃度や長期間の使用は控えたほうが無難。
Contents
ラベンサラ(Ravensara aromatica)とは
ラベンサラの特徴・歴史
マダガスカル産精油の一つで、現地では薬としても用いられていたと伝えられるラベンサラ。マダガスカルの人々は店頭的に感染症予防や防腐剤・強壮剤として活用していた他、食べ物の香り付け=香辛料としても使用していたのだとか。精油はユーカリに似たさっぱり感とスパイシーさの中に、フルーティーさも感じる優しめの香り。確かに食べ物の香り付けにも使えそうな印象ではあります。精油としての使用・研究の歴史は新しい部類ですが、抗ウイルス・抗感染症作用が期待できることから注目度が高まっており「今後需要が伸びていく精油」と予測する方もいらっしゃるほど。
そんなラベンサラはクスノキ科ラベンサラ属の樹木の葉から抽出した精油。ラベンサラという呼称はラベンサラ属(Ravensara)に含まれる植物の総称としても使われますが、精油としてはラベンサラ・アロマティカ-Ravensara aromaticaという種から抽出されたものを指すのが一般的です。赤味を帯びた樹皮・緑色の小ぶりな花が特徴とされる樹木で、現地では芳香樹を意味する言葉であるhavozoもしくはhanozo manitraと呼ばれていたそう。ラベンサラやラヴィンサラという言葉は1782年にフランスの植物学者がこの植物を発見し、マダガスカルの言葉“Ravina(葉)”と“tsara(良い)”を組み合わせて命名したと伝えられています。
ちなみに、ラベンサラの樹皮からも精油が生産されていますが、こちらはメチルチャビコール(エストラゴール)の含有率が高いことから使用を避けたほうが良い精油とされています。ラベンサラリーフの精油も若干のエストラゴールが含まれているという分析もあり、妊娠中の方やお子さんがいる家庭での使用は避けるべきという声もあります。ラベンサラの精油が一般に流通するようになったのは1980年代頃からと歴史が浅く、同じくマダガスカル産のラヴィンサラ混同されてきたこともあり、有効性や安全性については分かっていないことが多い存在。謳われている効能を鵜呑みにせず、十分に注意して使用することが必要です。
ラベンサラとラヴィンサラの違いについて
ラベンサラと名前が似ているラヴィンサラという精油があります。この2つはどちらもマダガスカルが原産の芳香を持つ樹木を原料としており、呼び名が似通っていることもあって消費者だけではなく生産者・市場の中でも混同され続けてきた歴史がある精油。ラベンサラとラヴィンサラは同じものであるという誤った紹介もなされるほど混乱を極めていました。近年「ラベンサラ」として市場に出回っていた多くの精油が成分的に見て「ラヴィンサラ」であったことが発覚し、学名や商品名の訂正が行われつつありますが統一されたとは言えない状態が続いています。徐々に別の精油として認識されつつありますが、販売者側から出される商品名や学名などの情報を完全に信用できるかというと微妙なところ。
混同されがちな2つの植物ですが、植物分類では
- ラベンサラ(Ravensara)
→学名:Ravensara aromatica - ラヴィンサラ(Ravintsara)
→学名:Cinnamomum camphora
と同じクスノキ科には分類されつつも、属名からして違う離れた存在です。
学名に見覚えがある方もいらっしゃるかも知れませんが、ラヴィンサラと呼ばれている精油の原材料はCinnamomum camphora=日本でもお馴染みのクスノキ(カンファーウッド)なんです。違う名前で呼ばれているのは一般的なクスノキとは異なり、マダガスカル産のものには1,8-シネオールが多く含まれているためと考えられます。樟脳とは違う香りがするため、おそらくカンファーではない呼称が採用されたのでしょう。更に日本では“Ravintsara”をラヴィンサラもしくはラヴィンツァラとカタカナ書きにするので、ますます混同が進んだ部分もあるように感じられます。呼称はどちらも海外で使用されているものが導入されていますが、ラベンサラは学名でラベンサラ・アロマティカ、ラヴィンサラはカンファーウッドct.シネオールというケモタイプ名にするなどしてくれると分かりやすいですよね。
ラベンサラとラヴィンサラはメーカーによる表示名・学名表記についても誤解や産地から誤って伝わっている可能性が指摘されている存在。販売されている精油が本当に表記通りのものかを見極めたい場合は、香りを確かめるか成分表を見るのが確実です。ラヴィンサラは1,8-シネオールが多いクスノキのケモタイプ精油ですから1,8-シネオールが多くなりユーカリなどに近い清涼感ある樹木系の香りがします。対してラベンサラは柑橘系の香りを持つリモネン・スパイシーな芳香を持つサビネンの含有率が高く、どことなく甘めのフルティー&スパイシーな印象。この2つは芳香も精油成分も大きく異なることから、人体に対して期待できるメリットも異なると考えられます。どちらも風邪などの感染症予防効果が期待されているほか、ラヴィンサラは花粉症などの軽減に、ラベンサラは精神面のサポートに強い可能性が高いでしょう。
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香料原料データ
- 通称
- ラベンサラ(Ravensara)
- 別名
- ラベンサラアロマティカ、ラバンサラなど
- 学名
- Ravensara aromatica
- 科名/種類
- クスノキ科ラベンサラ属/常緑高木
- 主産地
- マダガスカル、コモロ諸島
- 抽出部位
- 葉
- 抽出方法
- 水蒸気蒸留法
- 色
- >ほぼ無色~淡黄色
- ノート
- トップ~ミドルノート
- 香り度合い
- 中くらい
- 精油成分
- リモネン、サビネン、α-ピネン、リナロール、エストラゴール、メチルオイゲノール、ゲルマクレンD、テルピネン4オール、β-カリオフィレンなど
- おすすめ
- 芳香浴・アロマバス・マッサージ・ハウスキーピング
ユーカリ系の爽やかさ+アニスのような甘くスパイシーさを持つ香り
ラベンサラに期待される働き・効能
精神面への作用と効果
ラベンサラの精油は長らくラヴィンサラと混同されてきたため、成分や作用については曖昧な部分も多くあります。『The Healing Trail: Essential Oils of Madagascar』によればラベンサラ精油の中で含有比率の高い成分はリモネン、次いでサビネンとされています。しかし、精油成分の組成についても文献によりかなり違いがあり、リモネンやサビネンが主成分とする説以外にリナロールや酢酸リナリルが主成分であると紹介されていることもあります。各製品に付けられているGC/MS分析分析表を確認してみるしかないでしょう。
リモネンやサビネンはモノテルペン炭化水素類に分類される精油成分で、リモネンの芳香には抗ストレスおよび抗不安作用を持つ可能性が示されています。マウスを使った実験では2002年『Phytomedicine』に鎮静作用と運動弛緩作用を示したことが、2013年『Pharmacology Biochemistry and Behavior』には抗不安薬様効果が見られたことが報告されています。人に対しての有効性についてはより多くの研究が必要な段階ではありますが、アロマテラピーでもリモネンはリラックス作用を持つ成分として扱われていることもあり、リモネンを含むラベンサラ精油もストレスや緊張・神経性の疲労軽減に効果が期待されています。
また、リナロールと酢酸リナリルはラベンダー精油の代表成分とも言える存在で、抗不安・抗うつ作用を持つと考えられています。ラベンサラ精油を使用した研究はありませんが、ラベンダー精油にはリラックス効果や抗不安効果が見られたという報告が多いため同じ成分を含むラベンサラもメンタル面へのメリットは期待できそうです。ラベンサラ精油は抗感染症予防方面で注目されている精油のためメンタルサポートを期待して使用されることは少ないですが、ストレスケアとして役立ってくれる可能性もあります。
肉体面への作用と効果
ラベンサラ(葉)の精油が注目されるようになった理由として、抗菌・抗ウィルス作用を持つ成分が多く含まれていることが挙げられます。ラベンサラに多く含まれているリモネンなどのモノテルペン炭化水素類は抗菌・抗ウィルス作用や抗炎症作用を持つ成分が多いことが特徴とされており、リモネンやα-ピネンには免疫強化に役立つ可能性も示唆されています。リナロールも抗菌・抗ウィルス作用に優れた作用を持つと考えられることから、デュフューザーなどを使ってラバンジン精油を拡散することで風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症予防に役立つ・空気をきれいに保つことに繋がるのではないかと期待されています。
そのほか伝統的利用や含有成分に報告されている作用から、ラベンサラは鎮痛や筋肉の痙攣を抑える働きも期待されており筋肉痛・肩こり・腰痛・関節痛・リウマチ・頭痛・生理痛などの痛みの緩和に使用されることもあります。しかしながら、PubMedやCiNiiで検索した限り、ラベンサラアロマティカの持つ抗菌性やそのほかの作用についての研究論文はほとんど存在していません。2010年『Natural Product Communications(Vol. 5)』に黄色ブドウ球菌や枯草菌・カンジダ菌などに対しての抗菌性を研究したイタリアの研究論文が掲載されている程度。“強力なウイルス予防薬”という評価はラヴィンサラと混同されていた可能性もあります。また、葉を原料とした精油にもエストラゴールが含まれていますから毒性や皮膚刺激性がある危険性もあります。インフルエンザ対策に役立つ精油として紹介されることもありますが、常時精油を焚きっぱなしにするなどの使用は避けたほうが確実でしょう。
その他に期待される作用
皮膚利用について
皮膚刺激性や安全性についての十分な評価がなく、利用者も少ないことからラベンサラの精油がスキンケアに使用されることは基本的にありません。成分的に見た場合は抗菌・抗真菌作用を持つと考えられる成分が多く含まれているため、ニキビや水虫などの皮膚感染症予防に役立つ可能性はあると考えられます。とは言えラベンサラ精油にはエストラゴールやメチルオイゲノールなど皮膚刺激性が懸念される成分も含まれていますから、肌へのメリットを期待して利用する場合は別の精油を使用したほうが良いでしょう。
ラベンサラが利用されるシーンまとめ
【精神面】
- ストレス・神経性疲労
- 気持ちの落ち込み
- 不安・緊張・イライラ
- リラックスしたい時に
- 気持ちを落ち着けたい時に
【肉体面】
- 風邪・インフルエンザ予防
- お部屋の空気浄化として
- 関節痛・リウマチの軽減に
- 筋肉痛や肩こりのケアに
- (水虫・ニキビ予防に)
ラベンサラの利用と注意点について
相性の良い香り
ラベンサラの精油は独特のスパイシーさが特徴。同系統の印象がある樹木系やハーブ系の香りと相性が良いとされていますが、スパイシー感やバルサム感が鼻につくと感じた時には柑橘系の香りとのブレンドもお勧めです。柑橘系精油に少量加えることでオレンジポマンダーやスパイスケーキのような、親しみやすく美味しそうな香りになるように感じます。
ラベンサラのブレンド例
- 気持ちの落ち込みに⇒ベルガモット、ブラックペッパー
- リラックスサポート⇒ラベンダー、ゼラニウム、マジョラム
- 風邪予防に⇒グレープフルーツ、ティートリー、タイム
- 関節痛などのケアに⇒ラバンジン、クラリセージ、バジル
ラベンサラ精油の注意点
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
- 疾患がある方・投薬治療中の方は医師に確認してから利用して下さい。
- 高濃度の使用・長時間の使用は控えましょう。
- アロマテラピーは医療ではありません。効果や効能は心身の不調改善を保証するものではありませんのでご了承ください。
- 当サイトに掲載している情報は各種検定とは一切関わりがありません。
参考元
- Ravensara / Ravintsara Confusion
- Ravensara Essential Oil – The Complete Uses and Benefits Guide
- Ravensara aromatica – Wikipedia
- Volatiles from steam-distilled leaves of some plant species from Madagascar and New Zealand and evaluation of their biological activity
- What Is Limonene? Everything You Need to Know
- Central effects of citral, myrcene and limonene, constituents of essential oil chemotypes from Lippia alba (Mill.) n.e. Brown.